宵月楼-しょうげつろう-
あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。
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【621】
誰もが寝静まった夜半に、長屋の屋根の上に人影がひとつ。
遠く彼方を見据えるのは、金に光る瞳。
それは獲物を狙う鷹の瞳そのものだった。
そして、その目には闇の中でもはっきりと狙う者の姿が見えているのだ。
「さあ、どうする?」
喉の奥でくくっと笑って、彼は弓に矢をつがえた。
囁きが聞こえるはずもない彼方の獲物に狙いを定める。
「俺に狙われたのが運のつきだったな。この鷹の目の上総に・・・よっ!」
放たれた弓が、夜を切り裂いて飛んだ。
お題:「長屋」、「弓」、「笑う」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
江戸時代版ゴルゴ13のようなスナイパー。
いや、もっと優男なイメージですけどね(^^;
昼間は遊び人な感じで。
拍手ありがとうございます。
なんかすごい誉め言葉が!
目の前に絵が思い浮かぶ文章を書けるよう、さらに精進します!
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誰もが寝静まった夜半に、長屋の屋根の上に人影がひとつ。
遠く彼方を見据えるのは、金に光る瞳。
それは獲物を狙う鷹の瞳そのものだった。
そして、その目には闇の中でもはっきりと狙う者の姿が見えているのだ。
「さあ、どうする?」
喉の奥でくくっと笑って、彼は弓に矢をつがえた。
囁きが聞こえるはずもない彼方の獲物に狙いを定める。
「俺に狙われたのが運のつきだったな。この鷹の目の上総に・・・よっ!」
放たれた弓が、夜を切り裂いて飛んだ。
お題:「長屋」、「弓」、「笑う」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
江戸時代版ゴルゴ13のようなスナイパー。
いや、もっと優男なイメージですけどね(^^;
昼間は遊び人な感じで。
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【620】
廃屋を住処にしている付喪神のねずみは、ときおり人里へ遊びに行く。
本性はねずみの形の木彫りの人形で、単に廃屋に忘れ去られているうちに九十九年永らえただけという、なんとなくあやかしになったような彼は、それでも動けるようになるとそれが楽しいと気付いて、そこここに遊びに行くようになった。
ねずみの姿ならば、猫にさえ気をつけていれば、すばやく動けるし、人もどちらかというと驚いて向こうから逃げてくれる。
台所や床下から入り込むにも都合がいい。
しかし、その油断から、つい失敗してしまった。
その日入り込んだ部屋は、薄暗く陰気で、風が通っていない感じがした。
本当なら早く出てしまうのだが、その時、膳に乗った食事が目に入ったのだ。
魚の焼き物、卵焼き、そして、白い豆腐。
贅沢な品に、ついふらりと引き寄せられる。
すこしだけもらったら逃げればいい。
人の気配には気をつけていたはずだった。
だが、膳に上って小さな人の姿になった時、そばにあったかたまりがむくりと動いた。
「・・・え?」
驚きのあまり動けなくなったねずみと目が合ったのは、青白い顔をした人の子供だった。
子供はしばし動きを止めてねずみを見ていたが、やがてふわりと儚げに笑みを浮かべた。
「食べたい?なら、どうぞ。僕はお腹すいてないから」
そして、そのままその場に座り込む子供を見て、ねずみもその場に座った。
単に騒がれなかったから、食い気が勝ったから、と言うのではなく、何故かその子供が消えてしまいそうでその場を離れがたくなったのだ。
「お前も食べろ。俺はこの通り小さいから、ほんの少ししか食べられん」
そう言うと、子供は少し首を振る。
「でも・・・食べたくない」
「なら、俺も食べん」
ねずみの言葉に子供は少し困った顔をする。
「・・・じゃあ、ちょっとだけ」
そして子供は豆腐を切り分けると、自分も一口ほおばった。
「おいしい」
「そうだろう。子供が食いたくないとか言ってちゃ駄目だ」
何故か自慢げなねずみに、子供は思わず声をあげて笑った。
お題: 「廃屋」、「豆腐」、「付喪神」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
病弱な子供と、口うるさいねずみの付喪神。
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廃屋を住処にしている付喪神のねずみは、ときおり人里へ遊びに行く。
本性はねずみの形の木彫りの人形で、単に廃屋に忘れ去られているうちに九十九年永らえただけという、なんとなくあやかしになったような彼は、それでも動けるようになるとそれが楽しいと気付いて、そこここに遊びに行くようになった。
ねずみの姿ならば、猫にさえ気をつけていれば、すばやく動けるし、人もどちらかというと驚いて向こうから逃げてくれる。
台所や床下から入り込むにも都合がいい。
しかし、その油断から、つい失敗してしまった。
その日入り込んだ部屋は、薄暗く陰気で、風が通っていない感じがした。
本当なら早く出てしまうのだが、その時、膳に乗った食事が目に入ったのだ。
魚の焼き物、卵焼き、そして、白い豆腐。
贅沢な品に、ついふらりと引き寄せられる。
すこしだけもらったら逃げればいい。
人の気配には気をつけていたはずだった。
だが、膳に上って小さな人の姿になった時、そばにあったかたまりがむくりと動いた。
「・・・え?」
驚きのあまり動けなくなったねずみと目が合ったのは、青白い顔をした人の子供だった。
子供はしばし動きを止めてねずみを見ていたが、やがてふわりと儚げに笑みを浮かべた。
「食べたい?なら、どうぞ。僕はお腹すいてないから」
そして、そのままその場に座り込む子供を見て、ねずみもその場に座った。
単に騒がれなかったから、食い気が勝ったから、と言うのではなく、何故かその子供が消えてしまいそうでその場を離れがたくなったのだ。
「お前も食べろ。俺はこの通り小さいから、ほんの少ししか食べられん」
そう言うと、子供は少し首を振る。
「でも・・・食べたくない」
「なら、俺も食べん」
ねずみの言葉に子供は少し困った顔をする。
「・・・じゃあ、ちょっとだけ」
そして子供は豆腐を切り分けると、自分も一口ほおばった。
「おいしい」
「そうだろう。子供が食いたくないとか言ってちゃ駄目だ」
何故か自慢げなねずみに、子供は思わず声をあげて笑った。
お題: 「廃屋」、「豆腐」、「付喪神」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
病弱な子供と、口うるさいねずみの付喪神。
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【619】
外に人の気配を感じて、私はそっと障子を開けた。
月の光に照らされた庭に、山桜がはらはらと花弁を降らせている。
人手がなく荒れた庭だが、この季節だけは少しだけ優しい表情を見せるような気がする。
その山桜を見上げて手をさしのべている人影をみとめ、私は庭へ降りた。
見知らぬ者であろうことはわかっていた。この季節、家の者は、そう、母ですら、私の部屋が見える辺りの庭へは姿を現さないのだから。
誰何の声も上げず静かに近づいた私を、その人も静かな微笑みで迎えてくれた。
姿からして、市井の行商人のように見えた。大きな背負い箱を脇に置き、少し大袈裟に一礼する。
「無断でお庭をお騒がせいたしました。こちらの若君でいらっしゃいますか」
「そうです。あなたは?」
「飴売りでございますよ」
そう言って、男は私の手に薄い紙に包まれた飴玉を二個、ころんと落とした。
「この町中には珍しい山桜に誘われて、お邪魔いたしました。若君は聡いのですね。こっそり入り込んだ庭で見つかったのは初めてでございます」
いたずらっぽい笑みに思わずつられて笑ってしまう。
「どうせ見る者も居ない桜です。心行くまで見ていってください」
私がそう言うと、飴売りは少し訝しげに首をかしげた。
「なぜです?見事な桜ですのに。これは丹精されている証でありましょう?」
「昔の話です」
私はそっと桜の幹に手を当てた。
「この山桜を植えたのは、父上でした。自分で手入れをなさって、とても大切にしておられました。ですが、三年前、切腹されてから、誰も春にはここに近寄りません。父上を思い出すのでしょうが、見事に咲いた桜が毎年少し不憫です」
「若君はお優しいのですね」
飴売りはそう言って、私の頭を撫でた。
それはまるで在りし日の父上の手のようで、私は思わずぎゅっと目を閉じた。そうしないと泣いてしまいそうだったのだ。
少しの間そうしていたが、やがて聞こえてきた飴売りの声に私はやっと目を開けた。
「若君は、おいくつでいらっしゃいますか?」
「十になります」
「若君は、早く大人になろうとなさっているのですね」
飴売りは優しく笑んで手に降りしきる花弁をいくつか乗せた。
「桜が散り終わる頃に、枝をお探しください。桜をみせていただいたお礼に、若君に贈り物を差し上げましょう」
「贈り物ですか?何を?」
飴売りは背負い箱を背負った。
「飴売りは、飴しか人様に差し上げませぬよ。ただ、手前味噌ですが、少々特別な飴を作ることができるのでございます。では、失礼いたします」
ざあっと風が舞った。
花吹雪に思わず顔をかばう。
手を下ろしたときには、もう、飴売りはどこにもいなかった。
山桜は五日後、すべて散ってしまった。
そして私は、赤茶色の葉が繁る枝に、小さな巾着が結びつけられているのを見つけた。
中から出てきたのは、中に紅の花弁を封じ込めた飴玉。
一つ口に含むと、優しい甘さと共に耳元で懐かしい声がした。
「焦らずに大人になれ、虎若」
もう誰も呼ばない幼名で私を呼ぶ父上の声に、私は思わず泣き崩れた。
父上が亡くなって初めて、子供に戻って大声で泣いた。
お題: 「切腹」、「味噌」、「飴売り」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
さすがに味噌は絡めなくて、手前味噌でごまかしました(^^;
いまいち飴売りと若君の言葉遣いが同じようで、読みにくくてすみません。
でも、若君も、育ちがよければよいほど、初対面の人に対する言葉遣いはちゃんとしている気がするんですよね。
なので、あえて二人とも丁寧です。
しかし、十歳でこの口調は大人すぎたかな(^^;
拍手ありがとうございます♪
情景が思い浮かぶというのは、最高の誉め言葉です。
そして、その半分を読んでくださる人の想像力に任せているので、読者にも恵まれているなあとありがたく思うのです(^^)。
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外に人の気配を感じて、私はそっと障子を開けた。
月の光に照らされた庭に、山桜がはらはらと花弁を降らせている。
人手がなく荒れた庭だが、この季節だけは少しだけ優しい表情を見せるような気がする。
その山桜を見上げて手をさしのべている人影をみとめ、私は庭へ降りた。
見知らぬ者であろうことはわかっていた。この季節、家の者は、そう、母ですら、私の部屋が見える辺りの庭へは姿を現さないのだから。
誰何の声も上げず静かに近づいた私を、その人も静かな微笑みで迎えてくれた。
姿からして、市井の行商人のように見えた。大きな背負い箱を脇に置き、少し大袈裟に一礼する。
「無断でお庭をお騒がせいたしました。こちらの若君でいらっしゃいますか」
「そうです。あなたは?」
「飴売りでございますよ」
そう言って、男は私の手に薄い紙に包まれた飴玉を二個、ころんと落とした。
「この町中には珍しい山桜に誘われて、お邪魔いたしました。若君は聡いのですね。こっそり入り込んだ庭で見つかったのは初めてでございます」
いたずらっぽい笑みに思わずつられて笑ってしまう。
「どうせ見る者も居ない桜です。心行くまで見ていってください」
私がそう言うと、飴売りは少し訝しげに首をかしげた。
「なぜです?見事な桜ですのに。これは丹精されている証でありましょう?」
「昔の話です」
私はそっと桜の幹に手を当てた。
「この山桜を植えたのは、父上でした。自分で手入れをなさって、とても大切にしておられました。ですが、三年前、切腹されてから、誰も春にはここに近寄りません。父上を思い出すのでしょうが、見事に咲いた桜が毎年少し不憫です」
「若君はお優しいのですね」
飴売りはそう言って、私の頭を撫でた。
それはまるで在りし日の父上の手のようで、私は思わずぎゅっと目を閉じた。そうしないと泣いてしまいそうだったのだ。
少しの間そうしていたが、やがて聞こえてきた飴売りの声に私はやっと目を開けた。
「若君は、おいくつでいらっしゃいますか?」
「十になります」
「若君は、早く大人になろうとなさっているのですね」
飴売りは優しく笑んで手に降りしきる花弁をいくつか乗せた。
「桜が散り終わる頃に、枝をお探しください。桜をみせていただいたお礼に、若君に贈り物を差し上げましょう」
「贈り物ですか?何を?」
飴売りは背負い箱を背負った。
「飴売りは、飴しか人様に差し上げませぬよ。ただ、手前味噌ですが、少々特別な飴を作ることができるのでございます。では、失礼いたします」
ざあっと風が舞った。
花吹雪に思わず顔をかばう。
手を下ろしたときには、もう、飴売りはどこにもいなかった。
山桜は五日後、すべて散ってしまった。
そして私は、赤茶色の葉が繁る枝に、小さな巾着が結びつけられているのを見つけた。
中から出てきたのは、中に紅の花弁を封じ込めた飴玉。
一つ口に含むと、優しい甘さと共に耳元で懐かしい声がした。
「焦らずに大人になれ、虎若」
もう誰も呼ばない幼名で私を呼ぶ父上の声に、私は思わず泣き崩れた。
父上が亡くなって初めて、子供に戻って大声で泣いた。
お題: 「切腹」、「味噌」、「飴売り」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
さすがに味噌は絡めなくて、手前味噌でごまかしました(^^;
いまいち飴売りと若君の言葉遣いが同じようで、読みにくくてすみません。
でも、若君も、育ちがよければよいほど、初対面の人に対する言葉遣いはちゃんとしている気がするんですよね。
なので、あえて二人とも丁寧です。
しかし、十歳でこの口調は大人すぎたかな(^^;
拍手ありがとうございます♪
情景が思い浮かぶというのは、最高の誉め言葉です。
そして、その半分を読んでくださる人の想像力に任せているので、読者にも恵まれているなあとありがたく思うのです(^^)。
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【618】
彼女は長き髪をなびかせ、崖の上の突き出た岩に立つと、左手を高く空へ伸ばす。
優美な手に誘われて三日月は弓へと、流れ星は矢へと姿を変え、彼女の手におさまる。
それを構えて鋭く空を見据える。
やがてきいきりと絞られた弓弦が解放されると、彼女が射た矢は光の軌跡を残して空へと吸い込まれ、ぱあんと四方八方へ飛び散った。
星が弾けて花火のようにそこここで煌めく。
星祭りの始まりを告げる星花火が今年も見事に夜空を飾る。
満足げに自分の仕事を見上げる彼女を、俺はそっと背中から抱き締めた。
俺の嫁は、この瞬間、誰よりも凛々しく美しいのだ。
お題: 「三日月」、「矢」、「嫁」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
明けましておめでとうのご挨拶ありがとうございました。
また、年末の掌編にも拍手をありがとうございます。
今年もよろしくです♪
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彼女は長き髪をなびかせ、崖の上の突き出た岩に立つと、左手を高く空へ伸ばす。
優美な手に誘われて三日月は弓へと、流れ星は矢へと姿を変え、彼女の手におさまる。
それを構えて鋭く空を見据える。
やがてきいきりと絞られた弓弦が解放されると、彼女が射た矢は光の軌跡を残して空へと吸い込まれ、ぱあんと四方八方へ飛び散った。
星が弾けて花火のようにそこここで煌めく。
星祭りの始まりを告げる星花火が今年も見事に夜空を飾る。
満足げに自分の仕事を見上げる彼女を、俺はそっと背中から抱き締めた。
俺の嫁は、この瞬間、誰よりも凛々しく美しいのだ。
お題: 「三日月」、「矢」、「嫁」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
明けましておめでとうのご挨拶ありがとうございました。
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【616】 雪
「君が好き」呟く僕の白い息 凍って君の街に降り積む
【617】 終わりに始まる僕と君
年の暮れ、なんて言われても猫にはなんの関係もないけど、人間たちがばたばたしてていつも以上に忙しないことはわかる。
大変だって顔して、いつもより早足で、野良猫に興味がないならともかく、邪魔扱いされるからたまったもんじゃない。
ねぐらは追い出されるし、オオソウジとかで公園も空き地も段ボールひとつ落ちてない。
寝る場所がなくて、僕は途方にくれていた。
しかも寒くて、お腹も空いた。
「・・・ひゃあぁ・・・」
お腹に力が入らなくて、にゃあと鳴くこともできない。
僕はすとんと座ると、もう諦めて丸くなった。
明日になったら死んじゃうんだな。
ちょっとお腹が空いてるけど、寝てるうちなら苦しくないかなあ、なんて考えた時だった。
ふわりと体が浮いて、なんだか大きくて暖かいものに包まれた気がした。
もう半分ぼんやりした頭で、それでも少し顔をあげると、優しい目が僕を見てた。
ああ、なんか安心する。
そう思ったら急に眠くなった。
眠る寸前、柔らかな声が、体に響いてきた気がした。
「もう大丈夫だよ。安心しておやすみ」
うん。
僕はうっとりとその声に包まれて眠りについた。
明日起きたときも、そばに居てくれるかな。
きっと僕は君を好きになるよ。
だから、夢じゃありませんように。
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「君が好き」呟く僕の白い息 凍って君の街に降り積む
【617】 終わりに始まる僕と君
年の暮れ、なんて言われても猫にはなんの関係もないけど、人間たちがばたばたしてていつも以上に忙しないことはわかる。
大変だって顔して、いつもより早足で、野良猫に興味がないならともかく、邪魔扱いされるからたまったもんじゃない。
ねぐらは追い出されるし、オオソウジとかで公園も空き地も段ボールひとつ落ちてない。
寝る場所がなくて、僕は途方にくれていた。
しかも寒くて、お腹も空いた。
「・・・ひゃあぁ・・・」
お腹に力が入らなくて、にゃあと鳴くこともできない。
僕はすとんと座ると、もう諦めて丸くなった。
明日になったら死んじゃうんだな。
ちょっとお腹が空いてるけど、寝てるうちなら苦しくないかなあ、なんて考えた時だった。
ふわりと体が浮いて、なんだか大きくて暖かいものに包まれた気がした。
もう半分ぼんやりした頭で、それでも少し顔をあげると、優しい目が僕を見てた。
ああ、なんか安心する。
そう思ったら急に眠くなった。
眠る寸前、柔らかな声が、体に響いてきた気がした。
「もう大丈夫だよ。安心しておやすみ」
うん。
僕はうっとりとその声に包まれて眠りについた。
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HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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