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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【658】

 浪人は、川原で一人ため息をつく。
 わずかな仕事で日銭を稼ぎ、仕官などするあてもなく、このまま何の生きがいもなく生きてゆくのも虚しいだけ。
 いっそ武士など辞めてしまおうか。
 腰の刀を外して、川へ捨ててやろうかと思ってみたりもする。だが、いざとなるとその手はなかなか離せない。
 ふと見上げた月は細い三日月で、まるで情けない己をあざ笑う猫の目のようだ、と思った瞬間、背後でにゃあと鳴き声がした。
 男はびくりと振り返る。
「ほんとうに後悔しない?」
 三日月程度しか光の無い夜では、声はすれども人の姿は見えず。
 よくよく目を凝らしてみれば、まるで翡翠のような緑色の瞳が己をじっと見据えていた。
「まあ、身の振りかたなんて人それぞれだけどね、川に捨てちゃ河童が迷惑するんだよ。どうせなら置いてけ堀あたりに行っといでよ。嫌でも身ぐるみ剥いでくれるよ」
 声と共に闇を切り取ったような黒い猫が姿を現す。
 翡翠の瞳がにやりと三日月のように細められた。
「ね、猫・・・猫が・・・!化け猫!」
 しゃべったのが目の前の猫であると気付いて、浪人はがたがたと震えだす。
 そして、猫が大きなあくびをした途端、慌てて逃げ出した。
「うわー、失礼な奴」
 くすくす猫が笑うと、川面にぽちゃんと丸いものが浮かび上がった。
「猫又よ。とりあえずは感謝する。あのようなものを投げ込まれては、錆びれば川が汚れるし取り戻そうとされては荒される。どちらにしても迷惑なだけだからな。だがいささか意地が悪かったのではないか?」
「河童の大将はお人よしだなあ。脅かすのが一番後腐れないじゃないか。武士ならまさか化け猫に腰抜かしました、なんて言えないでしょ?」
 それにね、と猫は少し苦笑した。
「なんだかんだ言って、しっかり持って帰ったじゃない」
 刀を捨てられないなら、まだ悩むことなんかないのだ。それにあの男は気付くだろうか。
「まあ、どっちにしろむいてないことは確かだけどね。だって、僕を見ても刀抜かなかったもんねえ」
「確かに」
 笑う河童に尻尾を振って見せて、猫は川原をあとにした。
 単に人を脅かして遊びたかっただけだったのだが、まあ、役に立つのも悪くない気分だった。


お題:「三日月」、「翡翠」、「浪人」で創作しましょう。http://shindanmaker.com/138578
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【654】

 黄昏時に出会うものは、人かあやかしか判然としない。
 人の形をしていてもあやかしかも知れぬし、一見あやかしのような風体でも人であるかも知れぬ。
 だが、その男はそのようなことはどうでもよいと思っていた。
 人であろうが、あやかしであろうが、謀る者はいる。刃を突きつける者、盗む者もどちらにもいる。
 それと同じように、助けを求める者もどちらにもいるのだ。
 だから、黄昏時に見つけた少年も、躊躇なく拾って介抱した。
 たとえその少年が、茶金の輝くような髪をし、人よりも長く伸びた耳は柔らかな毛に覆われ、柔らかく太いふさふさとした尻尾を持っていたとしてもだ。
 さすがに人目に晒すわけにもいかず、寂れた神社の社殿の軒先を借りて少年を横たえ、男はまだ五歳くらいの娘に手ぬぐいを渡した。
 娘が手水鉢で濡らしてきた手ぬぐいで顔をぬぐってやると、少年は少し眉をしかめゆっくりと目を開けた。
 琥珀色の美しい瞳が、宙をさまよう。
「目が覚めたか?」
 男に言われて、ぼんやりとしていた瞳に次第に光が戻ってくる。
 そして、にこにこと顔を覗き込む親子に気付いて、がさっと後ずさろうとした。
 しかし力が入らず、ほんの少し動いただけで手の力が抜け突っ伏してしまう。
「ああ、いきなり動くでない。安心しろ。我らはお前を同行する力などないからな。ああ、この刀とてなまくらだ」
 屈託なく笑って男はもう一度手ぬぐいを冷やそうと立ち上がった。
「美緒、見ててやってくれ」
「はい、父上!美緒が狐さんを見てます!」
「え?あ・・・」
 名を美緒というらしい少女の言葉に少年は慌てた。耳も尻尾も誤魔化しようのないほど表に出ている。
「どうしたの?狐さん、具合悪い?」
 蒼白になった少年の顔を美緒が覗き込んだ。思わず目が合って、少年は驚く。そこには好奇も恐れも存在せず、ただ純粋に心配だけがあふれていたのだ。
 なぜかすとんと肩の力が抜けた。
 少年はあきらめたようにごろりと仰向けになった。
「変な親子だな。俺が怖くねえのか?」
 そう言うと、美緒は小首をかしげた。そして、ふさふさした少年の尻尾をそっと触ってみたりして、くすくすと笑う。
「怖くないよ?狐さん怖いかんじしないもん。尻尾気持ちいいし」
「こら、触るんじゃねえよ。むやみにあやかしにかかわるとろくな事ねえぞ。わかってんのかよ」
「まあ、その点は大丈夫だ」
 戻ってきた男が笑って手ぬぐいを差し出した。思わず受け取ってしまい、少年は顔をしかめたが、文句は言わず顔を自分で拭う。
 ひんやりとした感触が心地よかった。
「美緒は敏感だからな。こいつが怖くないと言えば、まあ、大体危険はないのだ」
「へえ・・・」
「ところで、怪我もなさそうだが、なんで起き上がれないのだ?」
 男の問いに答えようとした少年よりも早く、少年の腹がぐう、と鳴った。
 一瞬の静けさの後、親子は遠慮なく大笑いする。
「なんだ、腹が減って行き倒れていたのか」
「う、うるせえ!人の金はなかなか稼げねえんだよ!」
 顔を真っ赤にして言い訳をしてみたところで、親子の笑いは止まらない。いい加減ばかばかしくなって、少年はごろりと背を向けた。幸い簡単には死なない体だ。拾われた時には、ちょっと目が回って山の斜面を滑り落ちてしまったが、怪我もなかったことだしあとで狩りでもすればいいのだ。
 そう思っていた少年の目の前に、いなりずしが現れた。
「あ?」
「狐さん、運がいいね。美緒たち、今朝までいた宿場でいなりずし作ってもらったんだよ。狐さんだからおいなり好きでしょ?」
 美緒の笑みにつられて、またもつい受け取ってしまう。
「どうぞ?」
 すすめられて口にほおばると、今まで食べた何よりも美味しかった。
 食べ物を体に入れたからか、少し力が戻る。ゆっくりと体を起こし、少年は呟いた。
「・・・うまい」
「でしょ?美緒もいなりずし大好き!はい、もう一個」
 一個、と言いながら包みごと渡してくる美緒に、少年は慌てた。
「お前たちの飯だろう!」
「食べろ。この先何をするにもまずは腹ごしらえだろう。我らは少し歩けば街道でいかようにもなるからな」
 男の言葉と、何よりも美緒が口の無理矢理入れようとするので、少年はありがたく五つあったいなりずしをすべて平らげた。もしかしたら使ってあったあげは稲荷社に供えたものだったのかもしれない。すっかり力が戻っている。
「ご馳走様」
 手を合わせそう言うと、美緒が笑った。
「狐さん、お行儀いいね」
「なんだ、俺が行儀良かったらおかしいかよ」
「これからどうするのだ?路銀はないのだろう?」
 男に問われ、少年は苦笑した。
「なんとかなるだろ」
「行くあてはあるのか?」
「いや・・・」
「では、我らと旅をせぬか。いや、少しの間だけでいい。我らも路銀を稼ぎつつの旅だ。多少稼いでお前に持たせてやれるまでだ。どうだ?」
 男の申し出に少年は呆れた。
「俺は妖狐だぞ?わかってるのか?」
「わかっている。だが、一人残しておくのも心配でなあ」
「狐さん、美緒たちと一緒に来てくれるの?」
 男の心配だけなら無用だと突っぱねることもできたが、美緒の目が期待にきらきらと輝くのを見て、少年は言葉を飲み込んだ。
 自分を見上げてくるその瞳が心底嬉しそうだったのだ。
 少年はため息をついて、ぽん、と拍手を打った。
 すると、髪は黒く、耳は人のものにかわり、尻尾は消える。どこをどう見ても人にしか見えない姿になって、立ち上がった。
「・・・気が変わったら別れるからな」
「わーい!狐さんといっしょ!狐さん・・・じゃ、おかしいよね?お名前は?」
「名前?名前なんかねえよ。狐は狐だ」
「それじゃおかしいよ。父上」
「・・・そうだな。目が琥珀色だったから、琥珀、というのはどうだ」
「安直じゃねえか」
「琥珀!きれいな名前!」
「そうか、美緒は気に入ったか。じゃあ、琥珀で決まりだな」
「勝手につけてんじゃねえよ!俺の名前じゃねえのか!」
「琥珀、行こう!」
 文句をつけていたはずが、琥珀と呼ばれて美緒に手を引かれて少年は思わず歩き出していた。男が後ろで楽しげに笑う。
「決まりだな」
「・・・仕方ねえなあ」
 ほんの気まぐれで旅の道連れになるだけだ。その間の仮の名前だと思えばいいだろう。そう考えて、ため息をつくと少年はその名を受け入れた。
「ほんとに少しの間だけだからな!」
 そう言って、琥珀は美緒を抱き上げた。
 食わせてもらった恩を返すまで。それまでだと自分に言い聞かせて、それでも道連れのできた旅に胸が高鳴るのを抑えられずに笑った。


 お題:「黄昏」、「琥珀」、「妖狐」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
つい長くなってしまいました。お題にミラクルが起きたのでwww
時間があったら加筆したいです。


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【649】

 一瞬、畳に鮮やかな紅葉が散っていると見紛うた
 帰宅した男は、襖を開けたままその色に動きを止めた
 倒れている彼女から次第に広がる真紅は、周りを秋の山の如く美しく染めている
 広がる黒髪も、抜けるような白い肌も、紅葉に埋もれるように朱に包まれて
 それはまるで秋の竜田の姫のよう
 震える指を伸ばし、男はその朱に足を踏み入れた
 まだ残る温もりを感じながら、彼女を抱き寄せる
 その拍子に彼女の髪がはらりと流れ、額の角をあらわにした
 その角に、そっと触れる
 人は鬼ではないと、はかなくも力強い人の生き様が好きだと笑った彼女は鬼だった
 だから哀しむかもしれない
 それでも男は、もう自分を止められなかった
 人は鬼ではない
 だが、鬼になれるのだ
 悲しみで
 憎しみで
 彼女の亡骸をかき抱く男の額には、赤く血に濡れた角が生えていた


お題: 「畳」、「紅」、「鬼」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
もう少し綺麗なだけにしようと思ったんですが・・・あれ?(^^;)


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【648】

 すっかり紅葉も散っちゃった。
 僕は久しぶりに森を歩く。
 最近は寒い日が多くて外に出たくなかったけど、今日はどうしても用事があって出なきゃいけなくて。
 都合よく天気がよくて少し暖かかったから、足を伸ばしてみたんだ。
 春の桜、夏の青葉、秋の紅葉と森はいろんな顔を見せてくれるけど、冬の枯れ木の寒々しさだけは僕は好きじゃない。
 なんだか寂しいし、木の間を渡る風の音も寒々しいし、とがった枝はどこかよそよそしく見えて。
 手を当てるとその幹の中で、春を待って力をためてるのはわかるんだけどね。
「はあ。来るんじゃなかったかな」
 冬の景色に風情を感じるような柄じゃないしね。
 そう思って来た道を戻ろうとしたら、向こうの方から女の子が走ってくるのが見えた。赤い着物が、下草も葉っぱもないがらんとした木の間に良く見える。
「翡翠ー!見つけたー!」
 凛音はばたばたと走ってきて、どーんと僕にぶつかるような勢いで飛びついてきた。いや、これはもう実際ぶつかったようなもんだよ。咄嗟に受け止められたからいいものの、着物姿で全力疾走なんて。
「おてんばが過ぎるよ、凛音。いったいどうしたの」
「今日ね、琥珀と桔梗堂さんに行って来たの」
「版元の?ああ、また話を売りに行ったのか」
 桔梗堂は絵草子や仮名草子を売る小さな版元だ。琥珀とは顔なじみで、時々あやかしの話をしてはそれを本にした売り上げをもらっているらしい。
「それで?」
「これ、もらった!」
 凛音が袂から紙の包みを出した。あ、これ、商売敵だって言ってた地蔵堂の瓦版じゃないか。
 だけど、くしゃくしゃになった紙は凛音には重要じゃないみたいで、それに包まれた中身の方を大事そうに開いて僕に見せた。
「あ、金平糖」
「翡翠、好きでしょ?一緒に食べよ」
「そのためにわざわざこんなとこまで来たの?」
 僕は呆れる。第一、この森は迷いやすくて有名なんだ。来ちゃいけないって言ってあるのに。
 でも、見下ろした凛音が赤いほっぺたで息を弾ませて嬉しそうに笑ってるもんだから、小言は喉の奥に引っ込んでしまった。
 まあ、いいよ。小言を言うのは瑠璃丸に任せておけば。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん」
 僕は金平糖をつまんで自分と凛音の口に一個ずつ放り込むと残りはもう一度凛音の袂にしまった。そして、小さな手を繋いで、歩き出す。
 この子が迷わなくてすんだから、まあ、冬の木立も悪くないかもね。
 そんな勝手なことを思って、僕はくすりと笑った。


お題: 「瓦版」、「金平糖」、「紅葉」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
あまり読んでない方には、誰が誰かの固有名詞で申し訳なく(^^;)
一応こちらに簡単な説明はあるのですが、翡翠は猫又、琥珀は妖狐、瑠璃丸は犬神、凛音は龍と人の子でして、カテゴリーの【オリジナル】に掌編がいくつかございます。
時代は江戸の頃、片田舎に四人で暮らしています。
なので二人とも着物ですね。
凛音は女の子なので赤い可愛らしいもの。翡翠は薄い色の着流しでしょうか。
そんなこんなで今回は翡翠のお話でした(^^)。

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【647】

 しとしとと、雨のふる川辺に、血まみれの剣を握った若者は立っていた。
 かろうじて見える向こう岸に立っているのは、金のたてがみをなびかせた霊獣。
 それは麒麟だった。
 金の瞳が真っ直ぐに若者を見つめていた。
「血の匂いが消えぬ・・・」
 若者は独り言を言うようにぽつりと言った。自分の手を、そしてその手が握る血まみれた剣をひとごとのように見下ろす。雨は血を流すほど強くはならず、ただ返り血が溶けて涙のように頬を伝う。
「・・・わびはせぬ。悔いもない。だが、この血がお前を穢す。だから・・・」
 麒麟は聖獣であり、血の穢れを嫌う。その身に触れれば病になるほどに。
 だから近づくなと、ただそれだけを願う。
「主よ」
 向こう岸にいるはずの麒麟の声が、妙にはっきりと聞こえた。
「戯言は寝てから言うがよろしかろう」
 蹄が地を蹴った。優雅な動きで麒麟は川を飛び越えた。
 若者は近づく麒麟を見つめ、ふらふらと後ずさる。
「来るな!」
 勝手かも知れないとはわかっている。だが、血がこの美しい獣を穢すのだけは嫌だった。
 それでも。
「聞けませぬ」
 澄ました顔で麒麟は言うと、血に濡れた腕に身をすり寄せた。
 金のたてがみに朱が混じる。
 穢れたはずのたてがみは、それでも美しかった。朱金が燃える炎のように見えた。
「悲しいことを申されるな。我は主の獣。主の行く先を照らすもの」
「血まみれの主など、お前にふさわしくないだろう!」
「いいえ。我が主は貴方一人なれば、どこまでもお供つかまつりましょう。たとえ、どれほどの血にまみれようとも」
 かたり、と剣が地に落ちた。
 若者は糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ち、麒麟の首に腕を回した。
「許せ。これしか道を見出せぬ、愚かな主を」
 たてがみに顔を押し付ける主を、麒麟はしっかりと受け止める。
「この燃やし尽くされた大地が緑で溢れるまで、この血に染まった川が澄み切って子供らが笹舟を浮かべて遊べるようになるまで、この煙にまみれた空に鳥が飛び交うまで、お側におりまする」
「・・・ああ。かならず、お前をそこへ連れてゆく。約束する」
 囁くように言った主の声に、麒麟は静かに微笑んだ。


お題: 「雨」、「笹舟」、「麒麟」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578


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オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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