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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【626】

 瑠璃丸は目を閉じて静かに立っていた。
 神経を研ぎ澄ます。
 目をふさいでいる分、耳がかすかな音も逃さず捉えようとする。
 肌が、ほんのわずかな空気の動きも感じられるよう、ぴりぴりと緊張していく。
 立っているこの場所から、感覚が次第に広がっていくのがわかる。
 やがて、そよ風がかろうじて留まっていた一枚の木の葉を揺らして落とした。
「はっ!」
 その一瞬を逃さず、左手に握った木刀が流れるような動きで木の葉を両断する。
 それがはらりと地面に落ちるのを感じて、瑠璃丸はゆっくりと目を開けて息を吐いた。
 犬神のこの身は、簡単に人を傷つける。
 その気がなくとも爪や牙がすべてを切り裂く刃となって相手を襲う。
 それを封じるためにと師に与えられた木刀は、確かに自分の重石となっていた。
 手にし、構え、ふるう。
 その手順の一つ一つが本当に刃をふるう必要があるのかと自分に問いかけてくれるから、獣の本性に支配されることなく、自分は人を殺めないでいられる。
「俺は、未熟だから・・・」
 まだこれは手放せない。
 木刀を持った左手に、力がこもった。


お題: 「そよ風」、「木刀」、「犬」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578


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【625】

 こつん。
 煙管を盆に置くと、琥珀は狐のように切れ長の瞳をさらに細めた。
 経師屋は少しばつの悪そうな顔をして、琥珀の表情をうかがう。
 この男は、狐のあやかしなのだ。
 穏やかでいい加減に見えて、その実、本気になればただの人である自分くらい煮るなり焼くなり簡単にできると知っていた。
 もちろん、古い友であるから、早々ひどいことをするわけではないとわかってはいる。
 しかし、友だからこそ言いたいことは言う男である。
 とりあえず、説教を回避すべく、思案をめぐらす必要があった。
「あー・・・のな、琥珀。俺も別に自分から厄介事を拾って回ってるわけじゃないんだぜ?」
 そう口にした経師屋は、ちろり、とこちらを見た琥珀のまなざしに背筋を凍らせる。
 まずい。怒っている。確実に。
「なんつうか、こう、厄介事が向こうから来るっつうか、逃げるわけにはいかねえ仁義がついて回るっつうか・・・それにな、挑まれると引っ込みがつかねえじゃねえか、男として」
「・・・あのな、経師屋」
 琥珀が深い深いため息をついた。
「半分は、てめえのその性格が原因だ!この短気野郎!」
 琥珀の大声に、空気がびりびりと震えた。
 確かに怒ると恐ろしい。
 だが、面倒見がいいこのあやかしは、頼りがいのある兄貴の様なものなのだ。
 遠慮なく叱り、そして手を貸してくれる。
 それに、遠慮などして頼らず無茶をすれば、後で倍の小言が降ってくるのも経験済みだった。
 となれば、こういう時にとる行動はひとつしかない。
 経師屋は首をすくめてやり過ごすと、ぱん、と両手を合わせた。
「ほんと悪いと思ってんだ。だから、なあ、助けてくれよ」
 上目遣いに琥珀を見ると、しばし、その鋭い瞳と視線が交差する。
 やがて、折れたのは琥珀の方だった。
「これっきりだぞ。俺だって、いろいろしがらみがあって動きづらい時もあるんだよ」
「恩に着る!」
 ほっとして笑った経師屋を見て、琥珀は仕方ねえなあと言うようにため息混じりに苦笑した。


 お題:「仁義」、「煙管」、「経師屋」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578

たびたび登場の経師屋(名前はまだないwww)話。
経師屋は、今でいう表具屋さんですね。襖、障子の張替えや、絵を描いたり、掛け軸の表装をしたり。
うちの経師屋は人間ですが、巻物の中に絵で書けるものを封じておくことができる能力を持っていて、そのせいで厄介事をいろいろ引き寄せている困ったやつです。
あやかしが絡むと、琥珀に泣きつく(半分は琥珀が見ていられなくて手を出す)ので、もう少し慎重に動けといつも説教されています(^^;)。
しかし、我ながらひどい題名だ・・・。

いつもご訪問、拍手ありがとうございます。
琥珀と瑠璃丸にごひいきさんがつくというこの状況(^^)。
しかし、うちで一番おしゃべりで出たがりなのは翡翠www
というわけで、今回は琥珀を出してみました。
瑠璃丸もぼちぼち書いていきます。
今、瑠璃丸のちょっと長めの話をあっためているのですが、悲恋話でもよございますか?


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【624】

「縁日で何か一つだけ買っといで」と渡されたお小遣いで、少女は小さな金平糖の包みを買った。
これなら、少ないけれどみんなで分けあえる。
包みから転がり出た金平糖は、可愛い薄紅の色をしていて、一つだけ口に含むとほんのり桃の味がした。
分けてあげたらどんな顔をするだろう。
そう考えて、少女は微笑み、残りの金平糖を大事に袂にしまいこむと縁日に背を向ける。
あんなに楽しみにしていた縁日だったのに、今は早く帰って、おみやげを渡したかった。


お題: 「縁日」、「金平糖」、「桃」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
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【623】

鏡のような月が、真っ白な光をたたえて空から僕を見下ろしている。
それはあまりに清浄で、見上げていると心の内がすべて見透かされるような居心地の悪さを感じてしまう。
それでも、その光は僕をとらえて離さない。
だから、きんと冷えた空気の中で、僕は飽きもせず白く光る満月を眺めた。
いっそ、その清らかな光で僕を焼き尽くしてもかまわない。
乞うように差し伸べた指先は、しかし、けっして月には届かない。
僕を裁きも救いもせず、ただ、無慈悲に見下ろし続けるだけなのだ。


お題:今夜の月があまりにきれいだったから。
月は無慈悲な夜の女王、という本の題名を思い出しました。


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【622】

「この藩の城下町は賑やかだな」
 未熟ながらも剣客として旅をして一年。
 俺は勢州の小藩に流れついていた。
 尾張に程近いせいか町には旅人が多く、物も豊富で賑わっている。
 土産物屋や宿も多い。
「宿と飯、あとは研師(とぎし)か刀鍛冶だな」
 それが一番の問題なのだが。
 俺はため息をついて刀の柄をそっと撫でた。
 幾多の果たしあいのために、刀は傷つき刃こぼれしている。研ぎ直さねば、もう斬れはしないほどに。
 奴と戦うには、早急になんとかせねば。
「新しい刀か、研ぎ直さねば、奴と刃を交えることもできぬ」
 となれば、行動あるのみだ。
「時は金なり。光陰矢の如し」
「急いては事を仕損じるんだぜ?大将」
 からかう声音に振り返ると、そこには行商人の姿をした忍の松葉がにやにやと笑って俺を見ていた。
 腐れ縁の忍を、俺は睨み付けた。
「時間がないのだ。余計な口ははさむな」
「へいへい」
 こいつの軽さはいつまでたっても慣れぬ。
 俺は背を向け、宿をさがすことにした。


お題:「城下町」、「矢」、「剣客」で創作しましょう。 #jidaiodai i http://shindanmaker.com/138578
なんかぱっとしないなー。
すみません。どうも調子がでないです。


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HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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