忍者ブログ

宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

[1]  [2]  [3]  [4]  [5]  [6]  [7]  [8

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【664】

 黄昏に染まる頃、人目を盗んで畑から葱とか大根とかをこっそりいただく。
 夕暮れにまぎれて人相はわかりづらいし、変わった格好をしていればあやかしと信じて逃げていくから捕まることもない。
 一本二本なら動物に食べられたと思ってあきらめてくれる。
 だから何日かに一度、拝借する。
 実りのある季節であれば、代わりに栗やキノコ、薬草なんかを畑の持ち主の家の軒先に置いておく。
 この辺りの森は深く、あやかしも多いから村の人は深く分け入ってこない。
 だから森の奥のほうで採れるものを置いておくと、逆に喜ばれたりする。
「俺もあやかしだと思われてんだろうな」
 呟きながら黒羽丸は村はずれの祠に足を向けた。
 供え物を少しくすねるためだ。
 仮にも神様に供えられたものだが、黒羽丸は祠の神からそれを許されていた。
「でも最近不作で少ないからなあ・・・あ?」
 祠の少し手前で少年は足を止めた。もう日は落ち、名残りの夕焼けも消えようとしているのに、誰かが祠のそばに座り込んで泣いている。
 それは女の子のようだったが、村では見たことがない。
 よく見れば、旅姿だ。
「うええ・・・おっかあ・・・おっかあ・・・」
 しくしくと泣く女の子は、もう辺りが暗くなってきていることに気付いていないのか泣くばかりで動こうとしない。
 木の陰で様子を見ていると、祠の方から黒い影がひょいと飛んできて黒羽丸の肩に止まった。
「小僧、あれを何とかせよ」
 小さな影は祠に祭られている神だった。神といっても元はここに封じられた風のあやかしだという。
「伊吹様、なんで人がここに居る?」
「あれの母親らしい女が、ここに置き去りにした。病んでおったようだからな、育てきれぬと捨てたのであろうよ。お前のようにな」
「・・・うるせえ」
 黒羽丸は顔をしかめた。
 彼も祠に捨てられた子供だった。
 村人はあやかしを恐れ敬うが、外から来た人を受け入れることは嫌がる。それが人なのか、人の姿を借りたあやかしなのか判別できないからだ。それゆえ、村に子供を預けようとしても受け入れられず、泣く泣く祠で神にすがろうとしたのだろう。
 そうだと思いたい、と黒羽丸は奥歯をかみ締めた。
「あれを拾うつもりか?」
 神の問いに、黒羽丸は唇をゆがめた。
「伊吹様がなんとかしろっつったんだろうが」
「あれがお前のようにあやかしの気にあてられても病まずにおるとは限らぬぞ」
「ここにほっときゃ夜の内に食われるだろ」
「ほんにお前はあやかしに育てられたにしてはまっとうに育っておるの」
「うるせえよ」
 そして、黒羽丸は木の影から祠へ歩み寄った。
「おい、おまえ!あやかしに食われたくなけりゃついて来い!」
 女の子が驚いて顔を上げ、そして、勢いよく黒羽丸に飛びつく。
 女の子はそのまま大声で泣き出し、しりもちをついた黒羽丸はそれを呆然と見つめていた。
 ほんのりと花の香りがしてあたたかく柔らかい感触に、動けなくなった。
 そういえば、物心ついてから初めて人に触れたのだと、頭の隅で他人事のようにそんなことを考えながら、女の子の涙を見つめていた。


お題:「黄昏」、「葱」、「泣く」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
葱って・・・妙に生活感が出て難しかったです。
いつも拍手ありがとうございます。
バレンタインとあやかしを絡めるのはむつかしいかなあと思案中。
時代物では無理っぽいけど、うちのやつらは現代まで生きているのであってもおかしくないとは思うんですけどね。
実際ボットでは、翡翠がチョコくれくれ言ってます(^^;)
チョコレートとあやかしか・・・。


参加しています。もしよろしければクリックお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

拍手[0回]

PR
【663】

 笹原で、小者のあやかしたちがわあわあと騒いでいる。
 中央には少し大きな鬼が、切腹する武士よろしく居ずまいを正して座っている。
「親分ー、切腹なんて馬鹿なことやめてくだせえよ」
「そうですよ。人の真似しなくてもいいじゃないですか」
 小さめのあやかしたちがまとわりつくのを、鬼は振り払い、ぐっと涙をこらえる。
「影森の主の祠を人間に荒されたのは、俺の失態だ。死んでわびねば!雲間、介錯をせえ!」
「ひええええ、わしですかえ?」
 雲間と呼ばれたあやかしは、驚きつつそばにあった刀のようなものをつかむ。
 そこには何本か長物が置かれていたが、普段刃物など持たぬあやかしたちが人家で集めてきたのか、いささかおかしい。
 天秤棒に木刀、雲間が握ったものは最近流行の竹刀のようで、刀など一振りもない。
「親分、人はもっとぎらぎら光るもんで斬るんじゃねえのか?」
 言われてやっと気がついたのか、鬼はそれを見た。
 そして、呆れた顔をした。
「あ?・・・お前ら、刀を持って来いっつったろ?これじゃあ斬れねえじゃねえか!」
「だって、びかびか光ってるかなんて、しまってあってわかりゃしませんよう」
「もうやめましょうよ。それより、親分が主様の封じられた石を取り戻してくださいよう」
 小者たちに言われて、鬼はどっかりと足を崩した。
「これじゃあ作法どころか切腹もできねえじゃねえか。やめだやめだ!おう、てめえら!主様を探せ!申し開きは主様を助け出してからにするぜ!」
「まかせろ!」
「しばしお待ちを!」
 小者たちは敬愛する親分が切腹をあきらめたことに顔を輝かせて散っていく。
 それを眺めながら、鬼は頭をがしがしとかいて、あきらめたようにため息をついた。
「親分、あんたが居なくなったらわしらはどうする。主様が封じられている今、このあたりは良くないものがはびこっとる。力ない我等じゃ身を守れん」
「・・・雲間、うるせえぞ」
 ごろりと横になって、鬼は目を閉じた。
 主は暴れ者だった自分を配下にしてくれた。
 その恩を返す間もなく封じられ、封印を守ってきたはずなのに人に荒され、封じた石を持ち去られた。
 悔しかった。
 面目なく、死んでわびようと思った。
「・・・主様を助けたら・・・止めるなよ」
「へえへえ」
 雲間がくすりと笑うのを鬼は気付かぬ振りをした。
 きっと助けたら主が止めると二人ともわかってはいたが口にはしなかった。


お題: 「介錯」、「竹刀」、「親分」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578


参加しています。もしよろしければクリックお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

拍手[0回]

【662】

 飴売りが街道沿いの茶店で行き合ったのは、少し旅にくたびれた風の若い男だった。
「旅は長いのですか?」
「そうだな。もう三年になるか」
 そう言って、男は飴売りの風体に少し目を細める。
「お子がおありで?」
「あ、ああ。旅立つときにはまだ三才であった。もう父のことなど覚えてはおらぬだろう」
 寂しげな笑みを浮かべる男に、飴売りは荷物から小さな包みを取り出した。
「それを持って一度戻られてはいかがです?」
 だが、男は首を横に振ると、その包みといくらかの銭、そして懐紙に二つの名前を書いて飴売りに渡した。
「妻と子の名だ。江戸へも行かれるなら、それがしの代わりに渡してはくれぬか。八丁堀の役宅で幾軒か尋ねても所在がわからねば、銭は取っておいてくれて構わぬ」
「八丁堀?旦那は同心でいらっしゃるんで」
「以前はな。今は役目も返上してのただの仇討ち旅だ。妻と子は離縁したゆえどこにいるかもわからぬ。気が向かねば捨て置いてくれ」
 寂しげな笑みのまま、男は江戸に背を向けて歩み去った。
 飴売りは優しく微笑むと、江戸へ歩き出した。


お題: 「街道」、「飴」、「同心」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578


参加しています。もしよろしければクリックお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

拍手[0回]

【660】

 こんな雨の夜は、酒を酌み交わそう。
 お前の嘆きを憐れむことも、俺の虚しさをなぐさめることも、何もせずにただゆっくりと盃を重ねよう。
 何も言わずともわかるのだから、雨の音、火のはぜる音だけを肴に、ただ酒を酌み交わそう。


お題:「雨」、「酒」、「憐れむ」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
演歌か!(^^;;;)


【661】

恐ろしいことじゃ。
我らはなにもしておらぬというに、やつらは手当たり次第につぶてをぶつけて追い払おうとする。
さらに大音声にて脅されれば、我らはこの場より去るほかはない。
ほんに【豆まき】とは恐ろしき行事じゃ。
まあ、次の日には戻ってきて、落ちた豆を拾うて食うがの。

お題:節分
節分ですので、桔梗堂的には鬼視点でw


参加しています。もしよろしければクリックお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

拍手[0回]

【659】

 盗人は橋の上、渡るに渡れずため息をつく。
 今来た道を戻れば、櫛の持ち主である少女が奉公している商家に行ける。
 渡りきって進めば、盗みの依頼を受けた女の家だ。
 女は少女の父親の後妻で、それなりに裕福であるのに奉公だの行儀見習いだのと理由をつけて少女を家から追い出したという。
 そのうえ、少女の母親の形見である櫛を盗んでこいと言ってきたのだ。
 もちろん依頼を受けて盗みをする稼業であるから、金さえもらえばどんな依頼だろうとこなすのが信条だ。
 だから情にほだされるわけには行かない。
 どんなに女の性根が悪くても、仕事だと割り切って忍び込んだ。
 そこまでは良かった。
 しかし、運悪くこっそり持ち出すところを少女に見つかってしまったのだった。
 少女はほんの少し寂しげな顔をして櫛を彼に手渡し、深く頭を下げた。
「奉公人には過ぎた品で、そうそう着飾って身につけるというわけにもいきません。義母さまが使ってくださるなら、そのほうが櫛も喜びましょう」
 真っ直ぐな瞳だった。
 盗人はその瞳に気圧されて、何も言わずに櫛を手にその場をあとにした。
 その義理の母が、実は高価なこの櫛を売りはらおうと考えているととても言い出せなかった。
 だが、足が重い。前に進まない。
 どんなにあくどい奴の依頼でもこれほど迷うことはなかった。
 どうすればいい。
 目を閉じる。
 手の中の櫛が重い。
 そしてやがて目を開けると、彼は橋を渡りきった。
「・・・盗み返してやる」
 少女にそのまま返しても、きっと女はまたこの櫛を狙うだろう。
 だったら一度手渡し、売られる前にもう一度盗んでやる。
 彼はにやりと笑って路地へ消えた。

 
お題:「橋の上」、「櫛」、「盗人」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
見つかる時点で間抜けな泥棒さんですね、という突っ込みはなしで(^^;)


参加しています。もしよろしければクリックお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

拍手[0回]

前のページ HOME 次のページ

HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
カウンター
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

忍者ブログ [PR]
template by repe