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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【659】

 盗人は橋の上、渡るに渡れずため息をつく。
 今来た道を戻れば、櫛の持ち主である少女が奉公している商家に行ける。
 渡りきって進めば、盗みの依頼を受けた女の家だ。
 女は少女の父親の後妻で、それなりに裕福であるのに奉公だの行儀見習いだのと理由をつけて少女を家から追い出したという。
 そのうえ、少女の母親の形見である櫛を盗んでこいと言ってきたのだ。
 もちろん依頼を受けて盗みをする稼業であるから、金さえもらえばどんな依頼だろうとこなすのが信条だ。
 だから情にほだされるわけには行かない。
 どんなに女の性根が悪くても、仕事だと割り切って忍び込んだ。
 そこまでは良かった。
 しかし、運悪くこっそり持ち出すところを少女に見つかってしまったのだった。
 少女はほんの少し寂しげな顔をして櫛を彼に手渡し、深く頭を下げた。
「奉公人には過ぎた品で、そうそう着飾って身につけるというわけにもいきません。義母さまが使ってくださるなら、そのほうが櫛も喜びましょう」
 真っ直ぐな瞳だった。
 盗人はその瞳に気圧されて、何も言わずに櫛を手にその場をあとにした。
 その義理の母が、実は高価なこの櫛を売りはらおうと考えているととても言い出せなかった。
 だが、足が重い。前に進まない。
 どんなにあくどい奴の依頼でもこれほど迷うことはなかった。
 どうすればいい。
 目を閉じる。
 手の中の櫛が重い。
 そしてやがて目を開けると、彼は橋を渡りきった。
「・・・盗み返してやる」
 少女にそのまま返しても、きっと女はまたこの櫛を狙うだろう。
 だったら一度手渡し、売られる前にもう一度盗んでやる。
 彼はにやりと笑って路地へ消えた。

 
お題:「橋の上」、「櫛」、「盗人」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
見つかる時点で間抜けな泥棒さんですね、という突っ込みはなしで(^^;)


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酒を HOME 翡翠の瞳

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宵月楼 店主
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非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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