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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【663】

 笹原で、小者のあやかしたちがわあわあと騒いでいる。
 中央には少し大きな鬼が、切腹する武士よろしく居ずまいを正して座っている。
「親分ー、切腹なんて馬鹿なことやめてくだせえよ」
「そうですよ。人の真似しなくてもいいじゃないですか」
 小さめのあやかしたちがまとわりつくのを、鬼は振り払い、ぐっと涙をこらえる。
「影森の主の祠を人間に荒されたのは、俺の失態だ。死んでわびねば!雲間、介錯をせえ!」
「ひええええ、わしですかえ?」
 雲間と呼ばれたあやかしは、驚きつつそばにあった刀のようなものをつかむ。
 そこには何本か長物が置かれていたが、普段刃物など持たぬあやかしたちが人家で集めてきたのか、いささかおかしい。
 天秤棒に木刀、雲間が握ったものは最近流行の竹刀のようで、刀など一振りもない。
「親分、人はもっとぎらぎら光るもんで斬るんじゃねえのか?」
 言われてやっと気がついたのか、鬼はそれを見た。
 そして、呆れた顔をした。
「あ?・・・お前ら、刀を持って来いっつったろ?これじゃあ斬れねえじゃねえか!」
「だって、びかびか光ってるかなんて、しまってあってわかりゃしませんよう」
「もうやめましょうよ。それより、親分が主様の封じられた石を取り戻してくださいよう」
 小者たちに言われて、鬼はどっかりと足を崩した。
「これじゃあ作法どころか切腹もできねえじゃねえか。やめだやめだ!おう、てめえら!主様を探せ!申し開きは主様を助け出してからにするぜ!」
「まかせろ!」
「しばしお待ちを!」
 小者たちは敬愛する親分が切腹をあきらめたことに顔を輝かせて散っていく。
 それを眺めながら、鬼は頭をがしがしとかいて、あきらめたようにため息をついた。
「親分、あんたが居なくなったらわしらはどうする。主様が封じられている今、このあたりは良くないものがはびこっとる。力ない我等じゃ身を守れん」
「・・・雲間、うるせえぞ」
 ごろりと横になって、鬼は目を閉じた。
 主は暴れ者だった自分を配下にしてくれた。
 その恩を返す間もなく封じられ、封印を守ってきたはずなのに人に荒され、封じた石を持ち去られた。
 悔しかった。
 面目なく、死んでわびようと思った。
「・・・主様を助けたら・・・止めるなよ」
「へえへえ」
 雲間がくすりと笑うのを鬼は気付かぬ振りをした。
 きっと助けたら主が止めると二人ともわかってはいたが口にはしなかった。


お題: 「介錯」、「竹刀」、「親分」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578


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初めてのぬくもり HOME あやかしたちの節分

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オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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