宵月楼-しょうげつろう-
あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。
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【665】
彼がふらりとその縁日に立ち寄ったのは、ほんの気まぐれだった。
旅の空で通りがかった神社の参道にいくつかの店が出ていて、近隣の村人が集まっている。それをふと目にしたからだ。
宿場ではないものの街道に近いせいか、旅姿のものもちらほら見かける。良くあることなのだろう。田舎にありがちな排他的な雰囲気は感じられず、垣根なく向けられる笑顔に心がふっと軽くなる。
そのせいか財布の紐もつい軽くなり、気がつけば出店で飴玉と握り飯につけものがついたもの、そして饅頭を買い込んでいた。
仕方なく座る場所を探して神社を囲む木々の間へ入り込むと、喧騒は少し遠くなり、鳥の声などがして妙に落ち着く。
「いいところだな」
彼は呟くと座り込み、握り飯を一口ほおばった。
「・・・うまい」
あっというまに一つたいらげる。そしてもう一つ食おうとして、そばの木の陰から何かがのぞいているのに気がついた。
「誰だ?」
殺気は感じないが、なにやら気配が妙だ、といぶかしげに問うと、恐る恐る顔を出したのは子供だった。
「なんだ、近所のがきか?」
「おじさん、剣客?」
「難しい言葉を知っているな。そんな上等なもんじゃねえよ。旅をしている浪人だ。何だ、坊主。何かようか?」
「・・・う、ううん」
子供は慌てて首を振るが、視線をたどって彼は苦笑した。
饅頭を穴が開くほど見ていたのだ。
「やたらめったら刀は抜かん。来いよ。饅頭、欲しいんだろう?」
親に買ってもらえる子供ばかりではないのは、自分の経験からわかっていた。
だから饅頭を差し出してそう誘うと、子供はおずおずと近寄ってくる。
「いいの?」
「ああ、いいさ。俺は握り飯で腹いっぱいだからな」
そう言って渡すと、子供はそれを受け取って嬉しそうに笑うとその場に座り込んだ。
「いただきます!」
彼は夢中で食べ始めた子供を微笑ましく見ていたが、背後になにやら見慣れぬものを見つけて、ほんの少し目を見開いた。
それはふさふさとした狐の尻尾だったのだ。
子供に気付かれないように驚きを隠しよくよく見れば、人の子にしては少々違和感がある。
きっと縁日の食い物のにおいに誘われたものの、金もなく見ているだけだったのだろう。その気持ちは痛いほどわかる。
「ごちそうさま!」
饅頭を食い終わった子供は、にこにこと笑って手を合わせた。
その口元についていたあんを指で拭ってやる。
「坊主、飴は好きか?」
「飴玉?好き!」
「じゃあ、もってけ」
「でも・・・」
「子供は遠慮なんかするもんじゃない」
ためらう子供の手に飴玉を握りこませると、彼は立ち上がって子供の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「じゃあな。今度はもうちっとうまく化けろよ」
「え?!」
「尻尾、見えてるぞ」
「ええっ?!」
慌てて後ろを確認する子供に背を向けて、彼はゆっくりと歩み去る。
「おじさん!ありがとう!ありがとうね!」
背後から追いかけてくる声に、軽く手を上げる。
その口元には笑みが浮かんでいた。
お題: 「縁日」、「饅頭」、「剣客」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
ちょっとうまく表現できない感じで、読みにくいと思います。申し訳ないです。
毎日書いてると、こんな日もありますなー(--;)。
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彼がふらりとその縁日に立ち寄ったのは、ほんの気まぐれだった。
旅の空で通りがかった神社の参道にいくつかの店が出ていて、近隣の村人が集まっている。それをふと目にしたからだ。
宿場ではないものの街道に近いせいか、旅姿のものもちらほら見かける。良くあることなのだろう。田舎にありがちな排他的な雰囲気は感じられず、垣根なく向けられる笑顔に心がふっと軽くなる。
そのせいか財布の紐もつい軽くなり、気がつけば出店で飴玉と握り飯につけものがついたもの、そして饅頭を買い込んでいた。
仕方なく座る場所を探して神社を囲む木々の間へ入り込むと、喧騒は少し遠くなり、鳥の声などがして妙に落ち着く。
「いいところだな」
彼は呟くと座り込み、握り飯を一口ほおばった。
「・・・うまい」
あっというまに一つたいらげる。そしてもう一つ食おうとして、そばの木の陰から何かがのぞいているのに気がついた。
「誰だ?」
殺気は感じないが、なにやら気配が妙だ、といぶかしげに問うと、恐る恐る顔を出したのは子供だった。
「なんだ、近所のがきか?」
「おじさん、剣客?」
「難しい言葉を知っているな。そんな上等なもんじゃねえよ。旅をしている浪人だ。何だ、坊主。何かようか?」
「・・・う、ううん」
子供は慌てて首を振るが、視線をたどって彼は苦笑した。
饅頭を穴が開くほど見ていたのだ。
「やたらめったら刀は抜かん。来いよ。饅頭、欲しいんだろう?」
親に買ってもらえる子供ばかりではないのは、自分の経験からわかっていた。
だから饅頭を差し出してそう誘うと、子供はおずおずと近寄ってくる。
「いいの?」
「ああ、いいさ。俺は握り飯で腹いっぱいだからな」
そう言って渡すと、子供はそれを受け取って嬉しそうに笑うとその場に座り込んだ。
「いただきます!」
彼は夢中で食べ始めた子供を微笑ましく見ていたが、背後になにやら見慣れぬものを見つけて、ほんの少し目を見開いた。
それはふさふさとした狐の尻尾だったのだ。
子供に気付かれないように驚きを隠しよくよく見れば、人の子にしては少々違和感がある。
きっと縁日の食い物のにおいに誘われたものの、金もなく見ているだけだったのだろう。その気持ちは痛いほどわかる。
「ごちそうさま!」
饅頭を食い終わった子供は、にこにこと笑って手を合わせた。
その口元についていたあんを指で拭ってやる。
「坊主、飴は好きか?」
「飴玉?好き!」
「じゃあ、もってけ」
「でも・・・」
「子供は遠慮なんかするもんじゃない」
ためらう子供の手に飴玉を握りこませると、彼は立ち上がって子供の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「じゃあな。今度はもうちっとうまく化けろよ」
「え?!」
「尻尾、見えてるぞ」
「ええっ?!」
慌てて後ろを確認する子供に背を向けて、彼はゆっくりと歩み去る。
「おじさん!ありがとう!ありがとうね!」
背後から追いかけてくる声に、軽く手を上げる。
その口元には笑みが浮かんでいた。
お題: 「縁日」、「饅頭」、「剣客」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
ちょっとうまく表現できない感じで、読みにくいと思います。申し訳ないです。
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HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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