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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【664】

 黄昏に染まる頃、人目を盗んで畑から葱とか大根とかをこっそりいただく。
 夕暮れにまぎれて人相はわかりづらいし、変わった格好をしていればあやかしと信じて逃げていくから捕まることもない。
 一本二本なら動物に食べられたと思ってあきらめてくれる。
 だから何日かに一度、拝借する。
 実りのある季節であれば、代わりに栗やキノコ、薬草なんかを畑の持ち主の家の軒先に置いておく。
 この辺りの森は深く、あやかしも多いから村の人は深く分け入ってこない。
 だから森の奥のほうで採れるものを置いておくと、逆に喜ばれたりする。
「俺もあやかしだと思われてんだろうな」
 呟きながら黒羽丸は村はずれの祠に足を向けた。
 供え物を少しくすねるためだ。
 仮にも神様に供えられたものだが、黒羽丸は祠の神からそれを許されていた。
「でも最近不作で少ないからなあ・・・あ?」
 祠の少し手前で少年は足を止めた。もう日は落ち、名残りの夕焼けも消えようとしているのに、誰かが祠のそばに座り込んで泣いている。
 それは女の子のようだったが、村では見たことがない。
 よく見れば、旅姿だ。
「うええ・・・おっかあ・・・おっかあ・・・」
 しくしくと泣く女の子は、もう辺りが暗くなってきていることに気付いていないのか泣くばかりで動こうとしない。
 木の陰で様子を見ていると、祠の方から黒い影がひょいと飛んできて黒羽丸の肩に止まった。
「小僧、あれを何とかせよ」
 小さな影は祠に祭られている神だった。神といっても元はここに封じられた風のあやかしだという。
「伊吹様、なんで人がここに居る?」
「あれの母親らしい女が、ここに置き去りにした。病んでおったようだからな、育てきれぬと捨てたのであろうよ。お前のようにな」
「・・・うるせえ」
 黒羽丸は顔をしかめた。
 彼も祠に捨てられた子供だった。
 村人はあやかしを恐れ敬うが、外から来た人を受け入れることは嫌がる。それが人なのか、人の姿を借りたあやかしなのか判別できないからだ。それゆえ、村に子供を預けようとしても受け入れられず、泣く泣く祠で神にすがろうとしたのだろう。
 そうだと思いたい、と黒羽丸は奥歯をかみ締めた。
「あれを拾うつもりか?」
 神の問いに、黒羽丸は唇をゆがめた。
「伊吹様がなんとかしろっつったんだろうが」
「あれがお前のようにあやかしの気にあてられても病まずにおるとは限らぬぞ」
「ここにほっときゃ夜の内に食われるだろ」
「ほんにお前はあやかしに育てられたにしてはまっとうに育っておるの」
「うるせえよ」
 そして、黒羽丸は木の影から祠へ歩み寄った。
「おい、おまえ!あやかしに食われたくなけりゃついて来い!」
 女の子が驚いて顔を上げ、そして、勢いよく黒羽丸に飛びつく。
 女の子はそのまま大声で泣き出し、しりもちをついた黒羽丸はそれを呆然と見つめていた。
 ほんのりと花の香りがしてあたたかく柔らかい感触に、動けなくなった。
 そういえば、物心ついてから初めて人に触れたのだと、頭の隅で他人事のようにそんなことを考えながら、女の子の涙を見つめていた。


お題:「黄昏」、「葱」、「泣く」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
葱って・・・妙に生活感が出て難しかったです。
いつも拍手ありがとうございます。
バレンタインとあやかしを絡めるのはむつかしいかなあと思案中。
時代物では無理っぽいけど、うちのやつらは現代まで生きているのであってもおかしくないとは思うんですけどね。
実際ボットでは、翡翠がチョコくれくれ言ってます(^^;)
チョコレートとあやかしか・・・。


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宵月楼 店主
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非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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