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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【646】

 月夜に神社の境内で、石造りの狛犬二頭が伸びをした。
 大きな欠伸をしたあとに、ぽんと台座を飛び降りる。
 そして、地面に降り立ったのは尻尾を生やした着流し姿の若者が二人。
 一人は長く伸ばした黒髪を紅い紐で無造作に束ねてにやりと斜に構えた笑みを浮かべ、もう一人は蒼い紐で髪を束ねて優しく微笑んでいる。
 同じ顔をしているがまるで雰囲気の違う二人は、境内にぽつりと立つ少女のもとへ駆け寄った。
「元気だったか。待ちくたびれたぜ」
「ごきげんよう。お待ちしておりました」
「紅蓮(ぐれん)、雪花(せっか)。お待たせ」
 少女は彼らの名を呼ぶと、微笑んで、自分より背の高い青年たちの頭を撫でた。
 彼らの尻尾がわさわさと左右に揺れる。
 ずっと、ずっと長い時を、石の姿で待っていたのだ。もう一度その声に呼ばれ、その手に触れ、その身を守るために。
 だから二人は少女の足元にひざまづいた。
「もう離れねえから」
「お側に置いていただきます」
 少女は嬉しそうに頷いた。
「ありがとう。改めて、よろしくね」

 次の朝、神社にはからの台座が残っているだけだった。


お題:「月夜」、「着流し」、「狛犬」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578


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【645】

 浪人者が浜辺のうち捨てられた小屋に住み着いたと聞いて、見に行こうと思ったのは気まぐれだった。
 いつもついて回る守り役をまいて遊びまわるのが日課だったのだが、そのついでに耳にした噂を確かめてみようと思ったのだ。
 彼は長旅をしてきたと一目でわかる擦り切れた着物で、髪も伸び放題だった。
 いかにも怪しい風体だったが、その目はどこか親しげに、そして面白そうに輝いている。
「何だ、ボウズ。得体の知れん者に近づいちゃいかん、と教わらんかったか?」
「ここは父上の所領だ。父に代わって私が怪しい者ならば成敗してやる!」
 まだ十にもならぬ子供のたわごとに、彼は笑った。
「そうか、それは勇ましい。だが、もし俺が剣客であったらどうする?」
 そばに置かれた刀に手を伸ばすのを見て、剣術があまり得意ではない私は思わず後ずさる。
 だが、その時。
 私の腹が盛大に鳴った。
 男の焚き火で焼かれていた魚のいい匂いに誘われたのだ。
「うっ・・・」
 恥ずかしくて顔を真っ赤にして踵を返そうとした私に、彼が声をかける。
「腹が減っては戦はできんというしな。若様、雑魚だが食っていかれよ」
 振り返った彼は優しい笑みを浮かべていて、その笑顔は父上にそっくりだった。
 そのものの心は、表情に出る。
 腹黒いものは腹黒く、卑劣なものは卑劣な気配がどこかしらににじみ出るものだ。
 そう教わった父上のおおらかな笑顔にそっくりだったのだ。
 だから、私の警戒心は雪のように溶け去ってしまった。
 そばに歩みよると頭を下げる。
「いただきます」
「ああ、塩も味噌もないが、新鮮なだけでうまいもんだからな」
 差し出された魚を受け取る。
 それが年の離れた兄との、出会いだった。


お題:「浜辺」、「味噌」、「剣客」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578


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【644】

 水墨の掛け軸をそのまま抜き出したような風景に、ほんのつかの間訪れる黄昏。
 山伏ですら修行の場にせぬほどの険しく高い山々の間では、その時は驚くほど短い。
 だが、彼はそこにたどり着き、その時を待っていた。
 約束されたわずかな時間、木々に埋もれた古い祠の扉を開ける。
 淡い色をした光が、祠の神体である鏡に映りこむ。
 そして、封印が解けた。
 男が手を差し伸べると、遥か昔に鏡に封じられた神女がその手をそっととり、姿を現した。
 流浪した鏡を求め、封を解くすべを求め、何度も生まれ変わって、やっと叶えた逢瀬であった。


お題:「黄昏」、「墨」、「山伏」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
拍手ありがとうございます。
仕事人、いいですよねえ(*^^*)
仕事仲間から設定してみようかな・・・w


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【641】

「辰巳屋さんでございますね?」
 闇の中から不意に名を呼ばれ、太った商人の足が止まった。提灯を持った奉公人が、警戒して灯りを声の方向へかざす。
 月もない夜である。星明かりがあったとて闇は深く、濃い。
 その中から姿を現したのは、白い着物に緋の袴の巫女姿の小柄な人影だった。
 ぬばたまの黒髪を束ねもせず背にたらし、顔には白い狐の面をつけている。その奥で、静かな瞳が辰巳屋を見つめている。
「な、何者だ」
 辰巳屋は震える声で聞いたが、巫女は口元に微笑みを浮かべただけで、一歩踏み出した。
 右手に持った閉じた扇を真っ直ぐ辰巳屋へ向ける。
 要から下がった紐についた小さな鈴がちりりと鳴った。
「なんだ、お前は!」
 思わず後ずさる辰巳屋と奉公人に、巫女はもう一歩歩み寄る。
「世には知られぬ悪行の数々、神はすべてをご存知なれば」
 決して大きくない声が、静かに、だがやけにはっきりと聞こえた。
「ま、まさか・・・はぐれ稲荷の仕事人・・・?」
 町外れの寂れた稲荷の社。
 そこに訴えると、悪を始末してくれるという噂はかなり前からあった。
 訴えすべてを聞き入れるわけではない。
 悪行をなしたもののみが神罰を下されるように殺されるのだ。
「馬鹿な・・・あんな噂・・・」
「江戸に稲荷は山とある。どれほど隠そうとも、これほどの神の目を誤魔化すことはできぬ。まして、頼ってきた者の血と涙が染み付いた金子を預かっておるからの。覚悟は良いか?」
「神だなんだと大層なことを言っても、金で雇われた殺し屋ではないか!」
「そうじゃ。我はただの殺し屋じゃ」
 冷たく言い放って、巫女は扇を開いた。舞うように手を動かす。その扇が一閃すると、次の瞬間、辰巳屋は首から血を噴出して倒れた。
「うわあああ!」
 奉公人が提灯を取り落とし、逃げていく。
 それには目もくれず、巫女は死んだ辰巳屋の体にお守り袋を一つ落とした。
「・・・神は罰を下さぬ。人を殺すのは、人だけじゃ・・・」
 そして、扇をぱしりと閉じると闇に溶けるように姿を消した。

 次の朝、自分も殺されるのではと恐怖に混乱し要領を得ぬ辰巳屋の奉公人からなんとか話を聞いた同心が辰巳屋の死体を改めると、そばに落ちていた守り袋から生前の悪行が細々と記された紙が出てきた。
 瓦版屋は「はぐれ稲荷の仕事人」と「辰巳屋の悪行」をこぞって書きたてたが、下手人が捕まることはなかったという。


お題: 「稲荷」、「お守り」、「仕事人」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
必殺仕事人、好きです( ̄ー ̄)
この仕事人と同心との掛け合いとか、普段の生活とか、ちょっとしたコイバナとか(www)も書いてみたいですね。
そういう普通とのギャップが仕事人の魅力ですから。
あくまでも自分たちは金をもらって殺しを請け負う暗殺者で、正義を代行していると思うな、という基本的な考え方がちゃんと貫ける話が書きたいです。


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【637】

 大げさな奴らだなあ。
 前方の鎖鎌、後方の三節棍。
 ついでに右には槍、左には刀と来た。
「もう逃げられねえぜ。里抜けなんざ俺が許さねえ」
 俺の前に立ちふさがった男はにやにやと笑うとこれ見よがしに鎖鎌を振り回した。
 そういやあ、里にいる時からやな奴だったよなあ。俺を目の敵にして。
 俺たちの里はいわゆる隠れ里で、皆、傭兵や忍びとして戦いに出るのが生業だ。
 戦闘能力が高いということは、利用されるだけではない。脅威とみなされれば里ごと潰されることにもなりかねない。
 それゆえ里を抜けることにも厳しい。
 それはわかっている。だが。
「おめえら、お頭の命で動いてねえだろ」
 俺が冷静に指摘すると、奴はぎくりと顔色を変えた。
「な、なにを」
「だってよ、俺、ちゃんとお頭に仁義通してきたもんよ。抜けたって噂だけで手柄欲しさに飛んできやがったんだろう」
「うるせえ!やっちまえば、なんとでも言えるんだよ!」
 音をたてて鎖鎌が風を切った。それを合図に他の連中も飛び掛ってくる。
「あー、あー、やだねえ」
 俺は頭上に張り出していた木の枝に飛び乗った。
 対象を失って奴らがひるんだ一瞬の隙をついて、煙玉を三つほど大盤振る舞いしてやる。
 煙が広がる寸前、鎖鎌を持った奴が俺を見上げた。
 俺は奴に思いっきり舌を出してやった。
「あばよ」
「畜生!待ちやがれ!」
「やだね」
 そして煙にまぎれてその場を離れる。
 お前らは返り討ちにしねえ。
 だが、俺もやらせねえ。
 俺はもう、二度と血は流さないと決めたんだ。


 お題:「仁義」、「鎖鎌」、「見上げる」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
抜け忍みたいな感じですかね。
もっと傭兵集団っぽいイメージで、いろんな武器を出してみました。

いつも拍手ありがとうございます。
昨日の話ですが、疑わしいものはむやみに食べちゃいけませんよね。
地獄のものを口にすると、地上に戻れなくなるという話は結構あります。黄泉戸喫(よもつへぐい)と言うんだったかな。
こういう話は調べるとなかなか面白いですよ。


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宵月楼 店主
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オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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