宵月楼-しょうげつろう-
あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。
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【645】
浪人者が浜辺のうち捨てられた小屋に住み着いたと聞いて、見に行こうと思ったのは気まぐれだった。
いつもついて回る守り役をまいて遊びまわるのが日課だったのだが、そのついでに耳にした噂を確かめてみようと思ったのだ。
彼は長旅をしてきたと一目でわかる擦り切れた着物で、髪も伸び放題だった。
いかにも怪しい風体だったが、その目はどこか親しげに、そして面白そうに輝いている。
「何だ、ボウズ。得体の知れん者に近づいちゃいかん、と教わらんかったか?」
「ここは父上の所領だ。父に代わって私が怪しい者ならば成敗してやる!」
まだ十にもならぬ子供のたわごとに、彼は笑った。
「そうか、それは勇ましい。だが、もし俺が剣客であったらどうする?」
そばに置かれた刀に手を伸ばすのを見て、剣術があまり得意ではない私は思わず後ずさる。
だが、その時。
私の腹が盛大に鳴った。
男の焚き火で焼かれていた魚のいい匂いに誘われたのだ。
「うっ・・・」
恥ずかしくて顔を真っ赤にして踵を返そうとした私に、彼が声をかける。
「腹が減っては戦はできんというしな。若様、雑魚だが食っていかれよ」
振り返った彼は優しい笑みを浮かべていて、その笑顔は父上にそっくりだった。
そのものの心は、表情に出る。
腹黒いものは腹黒く、卑劣なものは卑劣な気配がどこかしらににじみ出るものだ。
そう教わった父上のおおらかな笑顔にそっくりだったのだ。
だから、私の警戒心は雪のように溶け去ってしまった。
そばに歩みよると頭を下げる。
「いただきます」
「ああ、塩も味噌もないが、新鮮なだけでうまいもんだからな」
差し出された魚を受け取る。
それが年の離れた兄との、出会いだった。
お題:「浜辺」、「味噌」、「剣客」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
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浪人者が浜辺のうち捨てられた小屋に住み着いたと聞いて、見に行こうと思ったのは気まぐれだった。
いつもついて回る守り役をまいて遊びまわるのが日課だったのだが、そのついでに耳にした噂を確かめてみようと思ったのだ。
彼は長旅をしてきたと一目でわかる擦り切れた着物で、髪も伸び放題だった。
いかにも怪しい風体だったが、その目はどこか親しげに、そして面白そうに輝いている。
「何だ、ボウズ。得体の知れん者に近づいちゃいかん、と教わらんかったか?」
「ここは父上の所領だ。父に代わって私が怪しい者ならば成敗してやる!」
まだ十にもならぬ子供のたわごとに、彼は笑った。
「そうか、それは勇ましい。だが、もし俺が剣客であったらどうする?」
そばに置かれた刀に手を伸ばすのを見て、剣術があまり得意ではない私は思わず後ずさる。
だが、その時。
私の腹が盛大に鳴った。
男の焚き火で焼かれていた魚のいい匂いに誘われたのだ。
「うっ・・・」
恥ずかしくて顔を真っ赤にして踵を返そうとした私に、彼が声をかける。
「腹が減っては戦はできんというしな。若様、雑魚だが食っていかれよ」
振り返った彼は優しい笑みを浮かべていて、その笑顔は父上にそっくりだった。
そのものの心は、表情に出る。
腹黒いものは腹黒く、卑劣なものは卑劣な気配がどこかしらににじみ出るものだ。
そう教わった父上のおおらかな笑顔にそっくりだったのだ。
だから、私の警戒心は雪のように溶け去ってしまった。
そばに歩みよると頭を下げる。
「いただきます」
「ああ、塩も味噌もないが、新鮮なだけでうまいもんだからな」
差し出された魚を受け取る。
それが年の離れた兄との、出会いだった。
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HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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