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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【620】

 廃屋を住処にしている付喪神のねずみは、ときおり人里へ遊びに行く。
 本性はねずみの形の木彫りの人形で、単に廃屋に忘れ去られているうちに九十九年永らえただけという、なんとなくあやかしになったような彼は、それでも動けるようになるとそれが楽しいと気付いて、そこここに遊びに行くようになった。
 ねずみの姿ならば、猫にさえ気をつけていれば、すばやく動けるし、人もどちらかというと驚いて向こうから逃げてくれる。
 台所や床下から入り込むにも都合がいい。
 しかし、その油断から、つい失敗してしまった。
 その日入り込んだ部屋は、薄暗く陰気で、風が通っていない感じがした。
 本当なら早く出てしまうのだが、その時、膳に乗った食事が目に入ったのだ。
 魚の焼き物、卵焼き、そして、白い豆腐。
 贅沢な品に、ついふらりと引き寄せられる。
 すこしだけもらったら逃げればいい。
 人の気配には気をつけていたはずだった。
 だが、膳に上って小さな人の姿になった時、そばにあったかたまりがむくりと動いた。
「・・・え?」
 驚きのあまり動けなくなったねずみと目が合ったのは、青白い顔をした人の子供だった。
 子供はしばし動きを止めてねずみを見ていたが、やがてふわりと儚げに笑みを浮かべた。
「食べたい?なら、どうぞ。僕はお腹すいてないから」
 そして、そのままその場に座り込む子供を見て、ねずみもその場に座った。
 単に騒がれなかったから、食い気が勝ったから、と言うのではなく、何故かその子供が消えてしまいそうでその場を離れがたくなったのだ。
「お前も食べろ。俺はこの通り小さいから、ほんの少ししか食べられん」
 そう言うと、子供は少し首を振る。
「でも・・・食べたくない」
「なら、俺も食べん」
 ねずみの言葉に子供は少し困った顔をする。
「・・・じゃあ、ちょっとだけ」
 そして子供は豆腐を切り分けると、自分も一口ほおばった。
「おいしい」
「そうだろう。子供が食いたくないとか言ってちゃ駄目だ」
 何故か自慢げなねずみに、子供は思わず声をあげて笑った。


お題: 「廃屋」、「豆腐」、「付喪神」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
病弱な子供と、口うるさいねずみの付喪神。


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あやかしたちの年末年始 HOME 山桜、散り行く頃

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自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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