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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【526】

 烏は雪がきらい。
 山も街も森も白く染めるのに、自分のことはちっとも染めてくれないから。
 ただ寒いだけで、視界が真っ白になるだけで、黒い姿はちっとも雪景色に馴染まない。
 いつだって、自分ひとり、ぽつんとはじき出されているような気持ちになる。
 だから、きらい。
 雪にうずもれる景色を見ながらひとり木の上でため息をついていたら、キラキラと硝子のような瞳を輝かせて、赤い椿が烏の腕に飛びついた。
「見ーつけた!」
 驚く烏に椿はニコニコ笑った。
「雪ばっかりで真っ白でも、烏はすぐ見つかるからいいよね」
「そうかな?」
「そうだよ」
 そうか。
 なら、黒い姿もそう悪いことではないかもしれない。
 烏はにっこり笑って、椿の手を握り返した。
 寂しい気持ちは繋いだ手の中で雪よりも早く溶けてしまった。
 

お題:「雪」、「硝子」、「烏」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
烏は黒の着物を着た子供、椿は赤い着物を着た子供のイメージで。


そういや、あまり寒くてこんな光景が浮かんだりして。

【527】

あんまり寒くて振り返ると、冬将軍が所在無げに立っていた。
「こんなとこで何してんです?」
「うむ。例年通り呼ばれて飛び出てみたのだが、みなが冷たくての」
「そりゃそうですよ。まだ紅葉も見てないのに」
「普段ならそろそろわしの出番なのだがなあ」
温暖化のせいでフライング扱いか。気の毒に。


気の毒だけど、寒いものは寒いです。
もう少し今年はのんびりしてていいですよ、冬将軍さん(^^;)。


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【525】

 庭先に、紅葉の葉がひらひらと落ちる。
 手も入れられぬにごった池に落ちた紅の葉は、ただそこだけが鮮やかに目をひいた。
 もう秋か。
 季節は変わり行くというのに、私はこの部屋から出ること叶わず、ただ屋敷とともに朽ちてゆくのか。
 ゆるゆるとその時を待つのは、性に合わぬと思った。
 廃屋に縛られたまま忘れ去られるくらいなら、いっそこの手で滅びるも一興。
 最期の時くらい、自らの手で選んでも許されるであろう。
 微笑んで、私は屋敷に火を放つ。
 紅葉に負けぬ紅の腕(かいな)が私の着物の袂をつかみ、やがて私を包み込むように抱きしめた。
 そのようなことをせずとも、ともに滅びるしか私には道はないのに。
 主を失った屋敷の寂しさを見たような気がして私は笑みを浮かべると、そっとその腕に身を預けて目を閉じた。



お題: 「廃屋」、「着物」、「紅葉」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578 #jidaiodai
屋敷を守るために縛られたまま、家が断絶し忘れ去られたあやかしのイメージで。



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【524】

 冷たい空気を吸い込むと、鼻の奥がツンと痛んで、まるで泣く前のような感覚に、胸の奥まできゅっと締まる。
 冬の空気は透き通っているけど、よそよそしくて一人の僕を突き放す。
 誰かの温もりが欲しくなる季節がやってくる。


もう秋を通り越して冬の空気です(><)。
いやまだ紅葉狩り行ってない・・・。
でも、寒い・・・。

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【522】

 囲炉裏に鍋がかかっている。
 葱に大根、白菜、きのこ、それに鶏肉の団子が美味しそうに煮えている。
「そろそろいいかな」
 ふつふつと湯気を上げる汁をじっと見ている翡翠の目のまえで、不意に薄茶色の物体がざらざらと放り込まれた。
「え?あ・・・ちょっと!」
 顔を上げると、琥珀が嬉しそうににやにやと笑っている。
 嫌な予感に鍋に目を戻せば、そこには汁の表面を覆ってしまうほどの油揚げが放り込まれていた。
「琥珀!何するんだよ!」
「いいじゃねえか。稲荷の社からお下がりをもらったんだ。うまいぞ。なにしろ神社に奉納する代物だからな」
「そうじゃなくて!せっかくそろそろできあがりだったのに、あげを煮る分だけ他のものを余計に煮なきゃいけないでしょ!」
 ぎりっと奥歯をかみ締めた翡翠は、持っていた菜ばしを置くと、右手を突き出した。
 指先にゆらりと蛍のような火が点る。
 それは次第に大きくなり、拳ほどの大きさにまで膨れ上がった。
「おい、翡翠?」
 琥珀がやばい、と言う顔をして、じりじりと後ろに下がる。
 翡翠は耳が伸びて黒い毛に覆われ、緑の瞳は縦に虹彩が割れ、放つ殺気で髪がゆらゆらと踊っていた。
 普段はめったに表に出ない二股の尻尾すら、ゆらりと姿を見せる。
 すっかり、理性を吹っ飛ばしている・・・。
「悪かった!翡翠、落ち着け!」
 琥珀は叫んで家を飛び出した。
「問答無用ーっ!」
 その背後から、光の玉が情け容赦なく琥珀を追う。
「ったく!たかが晩飯だろうが、よっ!」
 琥珀は家から少し離れた場所で振り返ると、手のひらに気を集め、勢いよく飛んできた光の玉を受け流すように空へ跳ね飛ばした。
 玉は空を上り、やがて見えなくなる。
「・・・いいじゃねえかよ。あげぐらい」
 呟いた琥珀に少し肌寒い風が吹き付けた。琥珀は髪をかき上げると、深々とため息をついた。
「やべえなあ。晩飯、ありつけるかなあ・・・」
 虫たちが、そんな琥珀を笑うようにころころと楽しげに鳴いていた。


お題:「稲荷」、「鍋」、「蛍」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
あー、なんでこうなった・・・wwww
妖狐の琥珀、猫又の翡翠、犬神の瑠璃丸、龍と人の子の凛音は、一緒に暮らしています。
料理は翡翠の役割なのですが、手先が器用な分、神経も少し細かいようです(^^;)。
たぶん、琥珀は晩御飯食べられます。
怒ってはいても、翡翠が「あげは責任もって食べてよ!」と言うに決まっていますからね。

いつも、拍手ありがとうございます。
だいぶ登場人物が錯綜してややこしいことになっているので一覧を作ろうと思うのですが、時間がないのでとりあえず、ツイッターのボット用に作った記事をリンクしておきます。
下の方に、簡単なうちの子達の説明が書いてありますので、参考になれば。
ここも含めて、いずれキャラクター一覧を別で作りますので、それまでの暫定と言うことでご容赦ください。
こちら→http://kikyoudou.tsuyushiba.com/Entry/196/


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【521】

 寂れた屋敷は、それだけで、なにか潜んでいそうに怪しい雰囲気を漂わせている。
 十兵衛は十手を握って、足音を忍ばせ、門をくぐった。
 近頃、人の居ないはずのこの屋敷でなにやら物音がすると、近くに住民が不安がって相談に来たのだ。
 本来武家屋敷など縁はないが、怪異であれば大変と無理矢理押し付けられたのだった。
「俺だって、好きであやかしの相手をしてるんじゃねえんだけどな」
 不満を漏らす声も自然と低くなる。
 晴れているというのに、なにやら翳っているような気までしてくる。
 そういえば、空気も少しひんやりとしているのではないだろうか。
 そう思ったとき。
 がさっ!
「うわああああ」
 物音に思わず十手を構えた十兵衛の目に映ったのは、飛び去っていく数羽の雀だった。
 途端に力が抜ける。
「・・・ははっ・・・」
 構えすぎていた自分が馬鹿のように見えて、十兵衛はがっくりと肩を落とした。
「情けねえ」
 そう言うと、その場にどっかりと座り込んだ。そして大声を張り上げる。
「畜生。出るならてめえから出やがれ。いくらでも相手してやらあ」
「じゃあ、お言葉に甘えようかね」
 背後からかけられた声に振り返ると、にっこり笑って男が立っていた。
 体は半分透き通って、背後の松が見えていた。
 

 「屋敷」、「十手」、「雀」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
十兵衛はあやかしを見る目を持った人間で、十四歳で十手持ち(同心の下で働く町人。おまわりさんのような存在)です。
十四ではありますが、人間とあやかしの間を取り持って、なかなかに頑張ってるようです。

以前の十兵衛親分
Twitter Novel 8/19 【295】
Twitter Novel 8/24 【325】
菊の頃
先駆けの雪

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性別:
非公開
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オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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