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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【808】 

「ふざけんな!あんた、仮にも俺の主を名乗るなら、あがけよ!」
 ひねくれていて、乱暴で、忠実だとはお世辞にもいえない。
 オサキ狐の分際で主を守りきれず、死ぬこともなく、幾人も渡り歩いて。
 それでも真っ直ぐに俺を見て手を差し伸べ、その馬鹿みたいに人のいい笑顔で俺の悪態なんか受け流し、ガキ扱いして頭を撫で・・・。
 まだ俺はなにもしていないだろう。
 俺は奥歯をかみ締めて主を見上げた。
 何もかもあきらめたように瞳がうつろで、ぞっとする。
 対峙している相手が薄笑いを浮かべた。
 奴は知っているんだ。俺の主が自分を殺せないと。だからわざと弄ぶように致命傷をつけずに刃を当てる。
 そのたびに鮮血が散る。
「・・・いいんだよ。彼に殺されることで、すべて終わるのだから」
 目の前が、怒りで染まった。耳も尻尾も毛が逆立って、妖気が溢れるのを止められない。人の姿をとどめているのもやっとなほど、俺はぶち切れていた。
「最初から死ぬつもりで俺を僕(しもべ)にしたのか!あんたはもう俺の存在を抱えてんだ!あんたが自分でそれを選んだんだ!勝手に放り出すことは許さない!」
 視界が歪んで、俺は目からなにかが溢れていることに気がついたが、それでも主をにらみつけた。
 ひねくれていて、乱暴で、忠実だとはお世辞にもいえない。
 ああ、そうだ。だから一匹くらい、主をひっぱたいて説教するオサキ狐が居てもいいじゃないか。
「あんたが嫌だと言っても、俺はあんたを死なせない。それが俺がここにいる意味だ。残念だったな。ざまあみろだ!」
 俺は両手を広げて主と敵の間に立った。
「邪魔だよ、狐」
 少し不機嫌そうに言う相手に、俺は嘲笑を浴びせてやった。
「絶対、殺させねえ」
 俺の力は大きくない。結界を張っても防ぎきれるとは思えない。それでも、手はある。
 俺は生命力を妖気に変えて結界を強化した。
「やめなさい!お前が死んでしまう」
 背後でやっと慌てた声を出す主を見れば、瞳に光が戻っている。心配で動揺している。ほんと、術者をするには優しすぎる。
「俺を・・・抱え込んだ罰だ・・・」
 命が蝋燭のように燃えていくのを感じる。結界を張りつつ守護の力を永続的に付与するような呪を刻み付ける。終われば俺は死ぬだろう。だが、それでいい。
「・・・もういい。もういいんです・・・紗月(さつき)」
 付けられた名に体が強張る。俺を止めようとする力が働いている。抗うのは無駄だと知りつつ、それでも俺は術を続ける。
「もう、十分お前の気持ちはわかりましたから・・・死んではならない」
 その一言で、俺の術が切れた。
「・・・邪魔・・・すんじゃ・・・ねえ・・・」
 その場に膝をついた俺の頭を、主がふわりと撫でた。
「・・・宵香(しょうか)・・・?」
 見上げた視線の先に、少し困った顔をした主の顔があった。
「まったく、お前がこんなに頑固だったとはね。ですが、お前を抱えて生きるのも悪くはない」
 血に染まった式服がひらりと舞い、主が俺の前に出た。
「茶番はおわり?」
 黙って俺達を見ていた敵が、まだ血の乾かない刀をぶら下げたまま問う。その声に、主は・・・宵香は笑みを浮かべた。
「ええ。お待たせしました。私のオサキ狐が泣くので、貴方に殺されるのはやめておきます。兄上」
「やっとその気になったんだね。じゃあ、本気で殺しにおいで」
「ええ、遠慮なく」
 殺気が膨れ上がり、そして戦いが幕を開けた。


お題:自分で作った書き出しと、「#4月10日は主従の日」(^^;)
そういうタグがツイッターでまわってきましてね。
とりあえず、祭りに理由は要らないぜ!ってことで乗っかってますw
もっと武将とか侍とか王と騎士とかその編がいいのかもしれないけど、うちクオリティっていうことで、術者としもべのオサキ狐にしてみました。
ワケありな兄弟もちょっと気に入ってますw


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【805】

 朝焼けが空を染める。
 少しまだ肌寒い空気を吸い込んで、妖狐の琥珀は空を見上げた。
 朝焼けは天気が悪くなる前兆と言うが、その茜色は不吉と言うには美しく、どこか物悲しいが暗くはなく、思わず笑みを浮かべるほどには琥珀はその色が気に入っていた。
 むしろ、雨になる前に一時目を楽しませてくれる粋が、いいではないか。
「おはようございやす」
 低い声に目を戻すと、強面の豆腐売りが天秤棒を担いで歩いてきた。二の腕に麒麟の彫り物をした大柄な男だが、真面目な商売の姿勢と豆腐の味が良いことで、ここいらではそこそこ人気がある。
 琥珀の家は村から少し外れているが、同居している猫又の翡翠が豆腐はこの男からしか買わぬと決めているからか、わざわざ足を向けてくれるのだ。
「よう、早ぇな」
「へえ、豆腐売りは朝が勝負なんで。旦那こそ、今日は早起きじゃあないですか」
「たまにはな」
 長い髪を気にもせず頭をかいて、琥珀はあくびをした。
「もしかして、寝てねえんで?」
「・・・今から寝るだけだ」
「深酒もほどほどにしなせえよ。いつもの、翡翠さんに渡しておくんなさい」
「おう」
 厨から桶を出して豆腐を受け取ると、銭を払う。
 豆腐売りはにこりともせずに頭を下げると村の方へ歩いていった。
「・・・ほんと愛想がねえ野郎だな」
 手に豆腐を入れた桶を持ってそれを見送ると、琥珀はもう一度あくびをしてきびすを返した。
「さて、寝るか」
 朝焼けはもう薄れて、朝日が射し始めていた。


お題:「朝焼け」、「琥珀」、「麒麟」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
琥珀さん、徹夜明けw


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【804】

 仙人というと、もっとじいさんだと思っていた。
 俺は目の前で茶を飲む女の子を見つめてそんなことを考えていた。
「何を考えておるか、当ててやろうか?」
 伏せていた目を片方だけ開いてちろりと俺を見ると、彼女はそんなことを言った。
「どうせじいさんじゃないとか考えておったのであろう?外見などあてにはならぬぞ。我らは好きな外見をとれるし、時と場合に応じて変えるでの」
「そうですか。女の子の姿になんの利点が?」
「ああ、これは趣味じゃ」
 そうですか。
 年を食っていると、どうにも人をからかう悪い癖がつくらしい。
 俺は気を取り直して姿勢を正した。
「で、仙人が俺に何のようですか」
「それじゃ」
 仙人は湯飲みを置くと、懐から筆を取り出した。よく手入れされているが、ずいぶんと古いもののようだ。柄の部分には何やら紙が貼られている。
「これを預かってくれぬか?」
「筆ですか?」
「筆じゃ」
「どうして俺が?」
 貼られているのは札だろう。となれば、危ないものが封じられているか、これ自体が危ないものなのだ。
 だが俺はといえば、普通の筆屋でしかない。仙人の訪問を受けることも初めてなら、こんないわくありげな品を押し付けられるのも初めてだ。
「ある者から勧められての。筆は筆屋に預けるが目立たぬと。また、お前の気性ならば、粗末に扱うこともないとな」
「誰ですか、そんなことを言いやがったのは」
 ぼやく俺にふふっと笑って、仙人は立ち上がった。
「ほんの数日でよい。できるだけ早う取りに来る」
「はあ」
「それとな」
「はい?」
「札は剥がすなよ。これは雷を呼ぶ性を持つ」
 何だって?
 問い直そうとしたときには、仙人の姿は消えていた。
「冗談じゃねえぞ、おい」
 俺の声に答えるように、筆がかたりと音を立てた。


お題:「雷」、「筆」、「仙人」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578

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【786】

 かすかに響く泣き声に辺りを見渡す。
 黄昏時の小さな稲荷の社(やしろ)。
 もう風雨に朽ちて鳥居の紅もほとんど残っていないような寂れた社だが、ここが俺の居場所だ。
 人が通わなくなって幾年経ったか覚えていない。仕えるはずの神も信仰を失って去っていった。それでも俺はここにいる。本体があるから。
 そんな場所だから、久しく人の声など聞いていなかったが、迷い込んだのだろうか。
 このまま夜になったらまずいだろう。
 俺は声をたどった。
 ぼろぼろの社の外れかけた扉から中をのぞくと、そこに子供がうずくまっていた。
 聞こえるはずもないのに思わず声をかけていた。
「おい、何を泣いている」
 驚いたことに、俺の声が聞こえたのか、子供はびくりと肩を震わせると泣き止んでこちらを見た。
 涙で潤んだ瞳が、少しおびえている。
 声が届くとは思わなかった俺は、逆にひるんで言葉を失い、二、三度馬鹿みたいに口を開け閉めした後、なんとか平静を取り戻した。
 返事がないので仕方なく扉の辺りにしゃがみこむ。
「怖がらなくていい。なにもせん。どうしてそんなに泣いているんだ?そろそろ帰らんと暗くなるぞ」
 できるだけ優しく言ったのが効いたのか、子供は目をごしごしとこすると立ち上がった。
 ぽてぽてと歩いて俺に近づく。
「・・・神様?」
「いや、神じゃない。あれだ」
 俺は俺の本体を指さした。
 社の前で苔むしている狐の石像。一体は崩れてしまって、かろうじて残っているのは俺の方だけだ。
「きつね・・・さん?」
「そうだ。普通は俺の姿は見えないはずなんだが、お前は珍しい目を持っているんだな・・・怖いか?」
 俺が聞くと、子供は勢いよく首を振った。勢いよく振り過ぎて首がもげるかと思ったが、それだけ否定してくれるのは、正直嬉しい。思わず笑うと、子供も嬉しそうに微笑んだ。
「怖くないならいいさ。さあ、帰れ。この辺りは人も寄らん。夜は危ないぞ」
「でも、いじめられるんだもん」
「それでここに逃げ込んで泣いていたのか」
 それでも、子供を返さねば神隠しかあやかしのせいだといわれて、下手をするとここを壊されかねない。こんな場所でも俺には唯一の居場所なのだ。
 俺は少し考えて、立ち上がった。境内とは名ばかりの狭い土地だが、人が来ないせいで自然だけは溢れている。
「お守りをやろう」
「おまもり?」
 子供の手に俺は鮮やかに色づいた紅葉の葉を一枚置いた。
「これを懐に入れておけ。いつでも迷わずにここに来られる」
「来てもいいの?」
「本当に困ったらな。それと、夜になる前に帰ると約束するなら」
「約束する!」
 子供は大事そうに紅葉を懐にしまった。そして、俺を見上げて笑った。
「ありがとう、きつねさん!またあしたね!」
 そして勢いよく駆け出していく。
「・・・毎日来るつもりか?」
 俺の呟きだけが、聞く者のない社に虚しく響いた。


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【778】

 花街に文字通り桜が咲き誇る時期になった。
 もとから植えてあるのではない。この季節、俗世を忘れて遊んでもらうために、わざわざ大きな通りの両脇に満開の桜を植えるのだ。
 花が咲いている間だけ桜の並木の方を運んでくるという大掛かりな仕掛け。
 それが桜には迷惑かもしれないと思っても、かむろの香野(こうの)は楽しみで仕方なかった。
 香野はまだ幼い。
 この花街に売られてきて三年。今は白藤太夫のかむろとして雑用をしている。
 雑用であってもこの街から出られないことに変わりはなく、桜を見たければ向こうから来るのを待つより他はないのだ。
 桜の花びらが舞う春の風を感じて外を眺めていると、聞き覚えのある声が降ってきた。
「よお、ぼーっとしてどうした?さぼってんのか?」
 気付くと窓の外には燕が一羽。
「飛来!」
 驚いて呼びかけると、燕はぽわんと少年の姿に変化(へんげ)した。
「よ、半年ぶり?ちったあ、オシトヤカになったか?」
「う・・・うるさいよ!香野はもう立派なかむろです!」
「その調子じゃまたおっちょこちょいが失敗して太夫に怒られてんだな」
 にやにや笑う燕のあやかしに、香野は頬を膨らませたが、すぐにこらえきれずにふきだしてしまった。
 春になると顔を出し、旅の話をしてくれるこの燕がどうして自分にだけ見えるのかわからない。だが、なにかとかまってくれる燕のあやかしが、香野は好きだった。会いに来てくれたことが嬉しくて、仏頂面などしていられない。
「今はちょっと時間があるの。桜餅もらったんだ。食べる?」
「いいのか?じゃあ、ちょっと邪魔するかな」
 いそいそと窓から入ってくる飛来の髪に花びらがくっついているのを見つけて、香野は思わず微笑んだ。
 今年も桜と燕が、香野に春を連れて来てくれた。
 それが嬉しかった。

お題:「花街」、「桜餅」、「燕」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
春!なお題が出ましたねえ。


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オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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