忍者ブログ

宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

[5]  [6]  [7]  [8]  [9]  [10]  [11]  [12

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【701】 

 星空が頭上に広がっていた。
 ちゃぽん、と音がして丸いものが水面に浮かぶ。それは河童の頭だった。河童は浮いたまま、ぽつりと呟いた。
「あー、綺麗だなあ」
「そうですなあ」
 岸辺から応える声がする。
 草の中に隠れるように座っていたのは豆腐小僧。
 両手で持っている盆には真っ白い豆腐がふるふると揺れている。
「住み処離れてうろうろしてるなんざ珍しいなあ。豆腐が崩れるから、遠出嫌いじゃねえの?」
「・・・そうですなあ」
 豆腐小僧は空を見上げて、ぼうっとしたまま生返事を返す。
 河童は首をかしげ、やがて、理由に思い至る。
「お絹ちゃん、輿入れだったっけか?」
 豆腐がふるんと揺れた。
「ざる豆腐小僧・・・北陸の方だっけ?」
「はあ・・・綺麗でしたなあ・・・」
 豆腐小僧は星を見上げたまま、ぽつりと呟いた。
 幼なじみの嫁入りを見送りここに一人で来たは、色々溢れる思いを捨てに来たのか。それとも・・・。
 ま、いいさね。
 奴も男さ。
 自分でケリをつけにゃならねえ思いも、時にはあるさ。
 河童は水面に浮かんだまま、自分も視線は空に向けた。
「綺麗だなあ」
「・・・そうですねえ・・・」
 それきり黙って、二人は星を眺めていた。


お題:「星空」、「豆腐」、「河童」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578

豆腐小僧の幼なじみは絹豆腐のお絹ちゃん。
地方から出てきたざる豆腐と所帯をもって、ざる豆腐の在所へ行くようです。
なぜかドラマチックになっちゃった豆腐小僧www

Twitterのフォロワーさんに箱ドットのアイコンを作っていただきました♪
前に翡翠をいただいていたんですが、猫又だと言うことで尻尾二本バージョンと、琥珀と瑠璃丸も!
ありがとうございます(^^)
愛されてるなあ、お前ら。

翡翠尻尾二本バージョン


琥珀


瑠璃丸



参加しています。もしよろしければクリックお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

拍手[0回]

PR
【698】

 屋根の上で蜜柑色の三日月を見上げていると、烏天狗がばさばさと空から舞い降りてきた。
「よう、犬神のダンナ。今日はまたやけにおとなしいじゃねえか」
 人の姿の烏天狗は、ちょこんと俺の横に座り込む。
 口は悪いが修験者の格好をしたこのあやかしはどう見ても十そこそこの童の姿で、きりっとした目元や生意気そうな口を置いておいても案外可愛らしい。
 それを言ってつつかれるほど趣味は良くないから何もいわぬが。
「お前は俺を何だと思っているのだ。そう始終刀を振り回したりはしておらぬ」
「そうかい?この間はなにやら酔っ払って猫又とケンカしてたそうじゃないか。壁に大穴開けたって?」
「・・・うるさい」
 あれはこいつの兄貴分である天狗のやつが悪いのだ。
 俺は強いほうだと思うが、やつはザルよりひどいうわばみで、おかげでしこたま飲まされた俺は、どうやら長屋で酒臭いと文句を言った翡翠と喧嘩をしたらしい。
 翌日俺たちは琥珀に久しぶりに怒鳴られ、壁の穴を直さねばならなくなった。
「これが江戸の長屋住まいだったら、きっと一棟ぶち壊して大家泣かせてただろうなあ」
「黙れ」
「へいへい」
 烏天狗はにやにやして懐からだまって包みを取り出した。
「なんだ?」
 開けるとやっと出たばかりのたらの芽が入っている。
「どうしたのだ?」
「天狗のアニキがよ、悪かったって。わびの品だってさ」
「そうか」
 大柄で豪放に見えるが、意外と神経の細かいいい奴なのだ。
 それゆえ良く憂さ晴らしの酒の相手をさせられるのだが。
「そういえば、もらい物の大根だの白菜だのがあったな。持ってゆけ」
「え?いいよ。おいら使いで来ただけだし」
「では、天狗に使いをしてくれ。また酒を飲みに山を降りて来いと伝えてくれるか?土産はその駄賃だ」
「んじゃ、ありがたく」
 烏天狗が笑う。
 俺は立ち上がると屋根から軽々と飛び降りた。
 何か童が好きそうなものも持たせてやれないか、と思案しながら。


 お題:「三日月」、「蜜柑」、「大家」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
農家のかやぶきの屋根に座り込んでしゃべる瑠璃丸と烏天狗の坊主。
寒いのは平気なので、日が暮れたころ、三日月に見守られつつのんびりと。
三月ですね。
もうすぐ春。そろそろタラの芽やふきのとう、梅の話題が聞こえてこないかな。
桔梗堂も三月からは春めいて、のほほん、ほのぼのモードで行きたいと思っております。
最近切ないの多かったし(^^;)

拍手、ご訪問ありがとうございます。
そのカウンターや拍手がとても励みになってます。
そういえば、昨日の。
瑠璃や琥珀や翡翠でにやにやしていただけて、本望です♪


参加しています。もしよろしければクリックお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

拍手[0回]

【695】 春を待つ

 桜待つ。
 佐保の姫君目を覚まし、世に桜舞う春を待つ。
 目覚める御身を彩るように、瑠璃のかんざし、琥珀の飾り。
 翡翠磨いてその白き指に似合いの杯を。
 華やぐ季節を待ちわびて、古人が美しい言葉を選んで和歌を詠む。
 鳥も負けずに清らかな声で御身の目覚めを誘う。
 さあ、早く。
 我らに春をもたらし給え。

お題: 「和歌」、「瑠璃」、「桜」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
今日のお題はきれいだこと♪


参加しています。もしよろしければクリックお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

拍手[0回]

【681】

 それを目にした途端、翡翠は身体中の血が熱くなるのを感じた。
「どうしたの、それ!」
 彼女の体に浮かび上がるアザと、唇の端にこびりついた血の匂い。
 多少ぬぐったぐらいでは、あやかしの鼻はごまかせない。
「気にするな。なんでもないから」
 下働きの彼女が主家の人間に多少の嫌がらせをされることは聞いていた。だが、今までは血が出るほど殴られて帰ることなどなかったはずだ。
「やったのは誰?まあ、聞かなくてもわかるけど」
 翡翠の声が低く唸るように響いた時、後ろから無遠慮な声がかけられた。
「まだこんなところにいたのか」
 彼女の体がびくりと震える。
 振り返るとそこには仕立てのいい着物を着た男たちが、手に木刀を持って立っていた。
 真ん中の男が蔑むような目で彼女を見る。
「暇を出したのにいつまでも我が所領でうろうろするでないわ。それが引っ張りこんだという男か。そいつのために俺を拒んだのだな。下働きのくせに」
「・・・お許しくださいませ」
 男の口にした内容と消え入りそうな彼女の声に、翡翠は目の前が赤く染まった気がした。
 怒りが感情のたがを吹き飛ばした。
「・・・身の程を知れ。ただの人のくせに、僕の愛しい人に傷をつけた罪は重いよ」
 ざわりと空気が揺らいだ。
 思わず息を飲んだ彼らが見たものは、人の形をしていたが人ではなかった。
 我を忘れた瞳は光彩が縦に切れ、緑色に輝いている。
 毛に覆われた耳が、跳ねる黒髪の間から姿を現す。
 構えた爪が鋭く伸びる。
 二又の尻尾が現れて、その背でゆらりと揺れる。
「殺してやる!」
 叫んだ口許に鋭い牙が見え隠れしていた。
「化け物!」
 男たちがどよめく中で、彼女の主人だった男は叫んだ。
「化け物に身を売る女など、こっちから願い下げだ。汚らわしい!」
「それ以上侮辱するな!」
 だが、叫んで飛び出そうとした翡翠の体は、ぶつかるように抱きついた彼女に止められていた。
「離せ!殺してやるんだ!」
 叫びは血を吐くように響く。
 相手だけを見据え、その爪で引き裂こうと手を伸ばす。
 あふれ出る殺気で、男たちは動けなくなっていた。今なら易々とその体を引き裂けるだろう。
 なのに、彼女は決して翡翠の体を離そうとはしなかった。
「殺してはだめだ。血に染まったら、戻れなくなる」
「嫌だ!離せ!離せよ!君を傷つけた!君の体も、心も、傷つけたのはやつらの方じゃないか!」
「・・・それでも、だめ」
 あやかしの力ならば、女一人の腕など簡単に振りほどける。
 それでも抱きついた彼女の涙が着物に染みていくにつれて、翡翠の体はもがくのをやめた。
 代わりにその瞳から涙がこぼれ落ちる。
 耳が、花がしおれるように力なく伏せた。
「ずるいよ。なんで君が止めるのさ・・・」
 二つに分かれた尻尾が不機嫌に揺れる。伸ばしていた手を翡翠は下ろして小さな子供が文句を言うように呟いた。
「・・・ずるいよ」
「あんたに人を殺めて欲しくないの」
 そう言った彼女の声が震えているのに気づいて、翡翠はその小柄な体をぎゅっと抱き締めて、瞳を閉じた。
 翡翠が殺す気をなくしたと気づいて逃げていく男たちは、きっと多くの人を連れてくるだろう。
 このままだと狩られるに違いない。
 人は、時にあやかしより残忍だから。
「あいつらを殺さなかった。だから僕と逃げて。僕が守るから。君が言うとおり、人を殺さないように守るから。このままじゃ、君が殺されちゃうよ。僕を選んで・・・お願いだから」
 抱きしめた腕の中で、彼女は迷っているようだった。
 傾いていた日がすっかり沈む頃になって、やっとかすかに頷く。
 その迷いに翡翠の胸が痛んだ。
 自分が彼女を愛さなかったら、彼女は故郷を捨てなくてすんだだろうか。
 自分があやかしでなかったら。
 彼女をもっと上手に守れたら。
 答えは出ない。かける言葉は見つからない。
 その時、彼女が囁いた。
「行こう。逃げるんじゃない。旅に出るの・・・一緒に生きたいから」
「・・・うん」
 一緒に、生きたい。
 その気持ちがすとんと胸に落ちてきて、荒ぶっていた気持ちが嘘のように凪いでゆく。
 だから、翡翠はもう何も言わずに彼女の手を握って歩き出した。


 一緒に生きる場所を見つけに行こう。



普段へらへらしてるうちの猫又が、今日は脳内であやかしモード全開で必死な顔で叫ぶもんだから、書き留めた覚書です。
ぽんと浮かんだのが、あやかしモードの翡翠が必死な顔で叫んでて、それを彼女が腰のあたりに抱きついて止めてて、敵に向かって翡翠は爪の伸びた手を伸ばしてて、でも、とどかないし彼女を振りほどけなくて動けない、そんなシーンでしたん。
必死で憎しみを込めて叫ぶ翡翠にはなかなか会えないので、書き留めておかなきゃ、って。
ほんとはもっと書き込んで短編程度にはできる素材なんだけど、ちょっと根性と時間がないなあ。
というわけで、今後の展開もあるかなと考えてカテゴリーは「オリジナル」ではなく「掌編未満」で。

しかし、やっぱり、絵でアウトプットするスキルほしい(^^; 

今日も見に来てくれてありがとうございます(^^)


参加しています。もしよろしければクリックお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村
 

拍手[0回]

【679】

 川のほとりで子供が二人、並んで水面を見つめている。
 秋には和歌に詠まれるほど美しい錦のような竜田の川も今は名残りの紅葉すらなく、冷たい水がたださらさらと流れている。
「姫様は眠ってるの?」
「そう、眠ってる。竜田の姫様は秋の姫だから、冬は静かに眠ってる」
「秋まで起きないの?」
「ううん、春になったら新芽が芽吹く。姫様も新芽のように新しく目を覚ます」
「じゃあ、もう少し?」
「うん、もう少し」
 雪はもう所々にしか残っていない。
 静かな地面の下で、木の枝の中で、春を待つ新しい命を脅かさないように。
 子供たちは内緒話をするように、声を潜めてくすくす笑って森の中へ跳ねていった。
 枯れ木の間に兎の耳が、ひょこひょこ揺れて茂みに消えた。
 

お題:「和歌」、「紅」、「内緒話」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
早く春になれの気持ちを込めて。

おまけ:同じお題で短文を。

和歌に読まれた紅の竜田の川のもみじより内緒話で唇を寄せた頬のがなお紅い。


参加しています。もしよろしければクリックお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

拍手[0回]

前のページ HOME 次のページ

HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
カウンター
カレンダー
02 2025/03 04
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31

忍者ブログ [PR]
template by repe