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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【778】

 花街に文字通り桜が咲き誇る時期になった。
 もとから植えてあるのではない。この季節、俗世を忘れて遊んでもらうために、わざわざ大きな通りの両脇に満開の桜を植えるのだ。
 花が咲いている間だけ桜の並木の方を運んでくるという大掛かりな仕掛け。
 それが桜には迷惑かもしれないと思っても、かむろの香野(こうの)は楽しみで仕方なかった。
 香野はまだ幼い。
 この花街に売られてきて三年。今は白藤太夫のかむろとして雑用をしている。
 雑用であってもこの街から出られないことに変わりはなく、桜を見たければ向こうから来るのを待つより他はないのだ。
 桜の花びらが舞う春の風を感じて外を眺めていると、聞き覚えのある声が降ってきた。
「よお、ぼーっとしてどうした?さぼってんのか?」
 気付くと窓の外には燕が一羽。
「飛来!」
 驚いて呼びかけると、燕はぽわんと少年の姿に変化(へんげ)した。
「よ、半年ぶり?ちったあ、オシトヤカになったか?」
「う・・・うるさいよ!香野はもう立派なかむろです!」
「その調子じゃまたおっちょこちょいが失敗して太夫に怒られてんだな」
 にやにや笑う燕のあやかしに、香野は頬を膨らませたが、すぐにこらえきれずにふきだしてしまった。
 春になると顔を出し、旅の話をしてくれるこの燕がどうして自分にだけ見えるのかわからない。だが、なにかとかまってくれる燕のあやかしが、香野は好きだった。会いに来てくれたことが嬉しくて、仏頂面などしていられない。
「今はちょっと時間があるの。桜餅もらったんだ。食べる?」
「いいのか?じゃあ、ちょっと邪魔するかな」
 いそいそと窓から入ってくる飛来の髪に花びらがくっついているのを見つけて、香野は思わず微笑んだ。
 今年も桜と燕が、香野に春を連れて来てくれた。
 それが嬉しかった。

お題:「花街」、「桜餅」、「燕」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
春!なお題が出ましたねえ。


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自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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