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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【768】

「これを主様に」
 月華花魁はふっと笑って、花活けに飾ってあった花の中から笹の葉を一枚とった。
 優雅な白い指がそれを笹舟に仕立てる。
「うまいもんだな」
「幼き頃に覚えたものは忘れませぬ」
「そういえば、おてんばで外で遊ぶ方が好きだったな」
「もう昔のことです」
 月華は「花街のかぐや姫」と称される美貌を少し苦笑で彩った。
「内緒ですよ?本当は郷のことに触れるのは禁じられているのです」
 俺も苦笑して差し出されたそれを受け取った。
「まあ、いいんじゃねえの?俺は人じゃねえし」
 そう。俺は客じゃない。人ですらない。月華の生まれ郷にある古い神社の神使のひとつだ。
 主が月華に懸想して売られる彼女を攫おうとした時、月華はきっぱりとそれを拒んでこの花街に売られてきた。
 人としての生を全うしたらおそばに上がります、と言ったその言葉を主は受け入れ、しかし心配でたまらぬからと俺を時折様子見にやるのだ。
「まあ、どうしようもねえ主だけど、あんたのこと気にしてることだけはおぼえていてやってくれよな」
「ありがたいことです。こんなわたくしの言葉を受け入れてくださって」
「変わりもんなんだよ」
 俺が肩をすくめて言うと、俺の頭をふわりと撫でて、残っている方の手に懐紙に包んだ菓子を持たせてくれる。
「よろしくお伝えくださいね。道中お気をつけて、烏丸殿」
「ありがとよ。・・・また来る」
 月華の思いのこもった笹舟と菓子を持って、俺は人目につかぬよう窓から空へ飛び立った。
 俺の背中の黒い翼を、月華はどんな思いで見上げているのだろう、と思いながら。


お題: 「神社」、「笹舟」、「花魁」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578


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自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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