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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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露草小路に機織りの音が響く。
からからぱったん。からからぱったん。
人は機械で安く大量に布を作るけれど、あやかしによっては化学繊維が肌に合わない者もいるから、狛犬の阿騎(あき)は自然の糸を自然のもので染めたものを使って、手で布を織る。
ひとつひとつ丁寧に。


しゃらん、と微かな音に気づいて、阿騎は機織りの手を止めた。
少し体の綿埃を払ってお茶を入れる。
ほどなく鈴彦姫のささねが現れた。
彼女は時々やって来ては阿騎の布を買ってくれる。
「こんにちは、阿騎さん。織り上がったのを見せてくださる?」
「ああ、でも、お茶の後でね」


「あら、珍しいわね、これ」
ささねがつまみ上げたのは羊の形の饅頭だった。
めえめえと可愛く鳴いている。
「夢の中で群れていたとかで、貘の旦那にもらったんだよ。どうやら誉めると喜ぶらしい。美味いよ」
ささねは笑みを浮かべて羊の形の饅頭を撫でた。


「可愛いわねえ。食べちゃいたいくらい」
そして本当にぱくりと一口。
「ほんと。おいしい」
「この辺では見たこと無いから、どっか夢を通じて流れてきたんだろうってさ。夢の中は距離があるようでないものだから」
阿騎は自分もぱくりと食べると、立ち上がった。

「持ってくるよ。待ってて」
織った布はとりあえずすべて彼女に見せることにしていた。
その中で彼女が気に入ったものだけを買い取ってもらう。
柄や質感で仕立てる服が変わるのだから、すべて買えと言うのは無理な話だが、もちろん他にもお得意様はいるので困ることはない。


ただ、彼女の作る服や着物が一番自分の布に合っている気がして、阿騎は彼女にまず選んでもらうことにしていた。
「どう?」
「そうね」
ささねが首をかしげると、しゃらんと音がする。
「これとこれ。あと、これ」
最後に選んだ布を少し広げてささねは笑った。
「これ、自分用ね?」


「ばれた?」
悪びれもせず笑って見せる。
それは、自分好みの柄と手触りで織った布だった。
彼女が気づけば自分の服を頼もうと織ったものだ。
悪戯に引っ掛かった顔をしてささねは苦笑した。
「わかったわ。仕立て賃は取るわよ?」
「よろしく」
代金を受け取り、布を包む。


「じゃあ、いつも通り送っておくよ」
「ええ。お茶とお饅頭、ごちそうさま」
ささねは軽く頭を下げて、手ぶらのまましゃらんと名残の音を残して帰っていった。
布は重いので、小鬼便で送るのだ。
「今日はよく笑ってたな」
満足げに阿騎は呟くと、小鬼を呼ぶべく呪符を手に取った。


診断メーカー【あやかし町へ、いらっしゃい】( http://shindanmaker.com/279875 )を使用して。

診断結果
狛犬(こまいぬ)で露草小路に住んでいる機織りです。扇子を大事にしています。鈴彦姫(すずひこひめ)とは仕事で付き合いがあるようです。

ここから広げて書いてみました。
ひつじまんじゅうは、友達の空想横丁の和菓子屋さん【雨竜堂】( http://togetter.com/li/391904 )で売り出していたもので、夢の中経由でちょっとお借りしました。


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冬がくる前に色んな色の糸を紡いで、手袋や毛糸の帽子やマフラーを編んでおかないと。
秋になると桔梗さんは忙しい。
木枯らしが吹く頃には、山の木の実やキノコを持って狐や狸や木霊の子が桔梗さんの家に冬支度を整えに来るのだから。
桔梗さんはそれを楽しみに、編み物を始める。

桔梗さんの指は魔法の指なのだ。何からでも糸を紡ぎ出すことができる。
毛糸から絹のような細いものまで自由自在だ。
縫うもの、編むもの、織るもの。
用途によって太さや柔らかさを変えて糸を紡ぎ、色々なものを作り出す。
自然の糸を使うと体にも心にも優しいものが出来上がる。

風が涼しくなると、桔梗さんはかぎ針を引っ張り出す。
夏の間は毛糸を扱うのは大変。
だから、秋に入るのを見計らって編み物を始めるのが毎年の習慣なのだ。
今年は何を編もうか。
そう考えながら桔梗さんは散歩に出る。
そして空や色づき始めた葉っぱからするすると毛糸を紡ぎ出した。


ツイッターでぽつぽつと書いた童話風なお話。
オチはない(^^;)
指で触れると糸になる設定は胡桃ちのさんの漫画よりお借りしちゃいました。すみません。


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【紡ぐ】

吐き出した息が色をもって風に流れた。
細く息を吐いているのは、毛羽毛現というあやかし。
糸に関わるものを操る才を持つ彼女は、色のついた息をそっとたぐって束ねる。
その艶やかな糸の束は人には作り出せぬ幻の絹となる。
だが囚われの彼女がその絹をまとうことはないのだ。

書き出しをお借りして


【火焔華】

花が燃えている。朽ちるでなく、萎れもせず、炎の花弁が狂い咲いている。
燃え盛る花を鬼の娘が摘んでいる。
手折られた花は、たおやかな指で花冠に編まれ、娘はそれを持って里へ行く。
人であった時の記憶の中のいる、愛しい男を探してそれを被せるために。

書き出しをお借りして

【翼猫】

とがった耳と細く長い尻尾が生えた子供を拾った。
正確には、うちの庭で寝ていたんだが。
門は閉じているし、うちはひとけもあまりない町外れにあって子供が入り込んだらわかりそうなものだが、全く気づかなかった。
耳と尻尾は黒くて手触りは猫のようだが、さて、何者だ?
しかし、放っておくわけにもいかないと脇に手を入れて抱き上げるとぱちりと目を開けた。
おや、この子はオッドアイだ。
金と銀の色違いの瞳が臆せず俺を見つめる。
切れた光彩は縦長で、やはり猫のようだ。
「どこから迷いこんだんだい?」
俺の問いに子供は上を指差した。
「空?」
「うん」
そう言うと、子供はぽわんと猫に戻った。
黒い子猫は俺の手からすり抜けて落ちるかと思ったが、俺の目の高さに居続けている。
「ああ、道理で」
俺の声に子猫は自慢げに宙返り。
子猫の背には一対の翼が生えていたのだ。
翼猫。
本物を見たのは初めてだった。
「空から庭見たん。お花と木が呼んだん。ボク、ここに住む」
そう言ってふわふわと飛び回っている。
どうやら翼猫君はうちの庭がお気に召したらしい。
追い出すほど野暮でもないつもりだ。
「一緒に朝ごはんをどうだい?」
「にゃ!」
こうしてうちは少し賑やかになった。


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【一寸法師】

地平線の先にはなにがあるのだろう。
一寸法師は旅に出る。
姫を助けるためじゃなく、自分の好奇心を満たすために。
この小さな身では地平線は隣の町かもしれないけど、それでも動物tたちに乗せてもらい、鳥に空を運んでもらえばいつかもっと遠くへいけるはず。
行こう。

書き出しをお借りして。


【彦星の覚悟】

君を待つだけの簡単なお仕事に僕はすっかり飽きているんだ。
会えるまで待ち続けるだけなんて、退屈でつまらない。
だいたい、もう何千年同じことを繰り返してると思ってるんだ。
「やめた。もう待たない」
僕は呟いて天の川へ飛び込んだ。
君をさらって逃げるために。

書き出しをお借りして。


【攻防】

「覚悟しろっ!」
びしりと降り下ろされる刀を僕は軽々とかわす。
「甘いね」
「悪逆非道な猫又め!我が成敗してくれると言うに!」
悔しがって地団駄を踏むそれは、僕の膝の高さにも満たない三頭身の侍だ。
それは顔を真っ赤にして叫んだ。
「我のおやつ返せ!ばかーっ!」

お題:今日の書き出し/締めの一文 【 覚悟しろっ! 】  http://t.co/xa0YiAVQ


【狛犬騒動】

「誰でぇ、奉行所に狛犬なんざ運び込んだ奴ぁ」
南町奉行の大塚左京がべらんめえな口調で問うと、同心の吉野日向が頭をかいた。
「申し訳ありません。夜毎暴れるとかで近隣の住民に泣きつかれまして」
「これがか」
左京は日本刀をすらりと抜くとぴたりと狛犬に当てた。
「一応、これでも免許皆伝の腕前だ。石でもばっさりいくぜ?さあ、正体を現しねぇ」
殺気すらまとわせた左京の声に、狛犬がごとりと震えた。
石の表面が次第に色づき、たてがみや尻尾が柔らかくうねり出す。
そして目だけで左京を見上げた。
「おっかねえ奉行さんだねえ」
「ほ、ほんとにしゃべった!?」
「日向、ガタガタ言うんじゃねぇよ」
ニヤリと笑って左京が刃を収めると、狛犬はほっとしたように伸びをして行儀よく前足を揃えて座った。
尻尾が左右に揺れている。
「で、なんだって夜中に暴れているんでぇ」
「別に暴れちゃおりやせんよ」
「じゃあ、なんだって出歩いているのだ」
若さゆえか驚きよりも好奇心が勝ったらしい日向の問いに、狛犬はため息をついた。
「旦那方、考えてもみなせえ。一年中じっとしているのがどんなに退屈かわかりますかえ?たまには駆け回ってもバチは当たらねえと思うんですがね」
「お主は神社にじっとしておるのが仕事であろうが」
「いやあ、実は神の使いで出歩くこともあるんでさあ。しかしまあ、月夜に浮かれ出ちまったのはやりすぎでしたね。お陰で近所の大工に見つかっちまいやして。面目ない」
「あのなあ」
「日向、まあいいじゃねぇか」
「大塚様?」
「月に浮かれるなんざ風流だ。今回は大目にみてやれ」
「話のわかる奉行さんだねえ」
尻尾を振る狛犬に左京は刃のような笑みを浮かべた。
「今度俺達の仕事を増やしやがったらわかってるだろうな?」
途端にしょげた尻尾がおかしくて、日向が声をあげて笑った。

お題:今日のお題 「奉行所」 「日本刀」 「狛犬」  http://t.co/AMef1Qc2


【若夫婦と式神】

落とした釣瓶を引き上げると、冷たい水を桶に移す。
脇にはこの時期には珍しい笹百合の白い花が三本、そっと置かれている。
懐紙を取り出して百合の花粉を外すと、花を桶に入れた。
「少々見映えが」
眉をひそめる主の脇で、山に咲き残っていた百合を取ってきた式神が笑う。
「奥方は気にしないと思うぜ?」
「まあな」
桶を持ち上げて主も笑った。
今、臥せっている奥方を元気付けるために好きな百合の花を一目見せたいと、主従でない知恵を絞ったのだ。
水をこぼさないように注意して運ぶ主のために、式神が奥方の部屋のふすまを開ける。
「気分はどうだ?」
「まあ」
奥方は驚いて目を見開くと体を起こした。
「この時期に百合を見られるなんて」
少し強い匂いに式神が小窓を開けると、吹き抜ける風が匂いを散らして優しく一同を包み込んだ。
「ありがとうございます」
頭を下げて、その後奥方はくすっと笑う。
「ただの風邪で、ほんの数日寝込んだだけですのよ?明日には起きられますのに」
「夏風邪を軽く見ちゃいかん」
「そうだぜ。人は弱いんだから気を付けねえと!」
反論する男性陣に奥方は優しく微笑んだ。
それが風邪ではなく懐妊だとわかったのは、数日後のことである。

お題:今日のお題 「釣瓶」 「懐紙」 「百合」  http://po.st/JFfiCd


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【九夜月(くやづき)】

「何をしている?九夜月(くやづき)」
俺の声に振り返ったのは、黒い毛並みに金の瞳の猫。
少し睨むような目付きのせいで、金の瞳は上弦よりもやや満ちた、まさに九夜の月のよう。
真ん丸に満ちることのない瞳のせいでいつも損をしているこの猫が俺は妙に気に入っていた。
「お主は変わっておるな」
九夜月はそういうと、もそもそと俺の膝にのぼって丸くなった。
「特に強くもない猫又を望んで僕(しもべ)にする術者など聞いたこともない」
「そうか?まあ、お前が嫌ならいつでも契約解除していいんだぜ?それまでは暇潰しと思って一緒にいろよ」
「・・・ふん」
九夜月は力がないと言うが、猫又としてそれなりの能力は持っている。
人に化けるのも、能力を使うのも、自分のためにはしないだけだ。
過去に何かあったらしく、自ら封じているのだ。
しかし、その理由を誰にも明かさない。
そういうところも周りに敬遠される原因なのだろう。
「まあ、気楽に行こうぜ。俺だって下っぱの雇われ術師だしな」
「ふん、よう言うわ」
口ではそう言いつつも、九夜月は俺の膝の上で寝息をたて始めた。
心を開けとは言わない。
安心してくれる。それだけで妙に嬉しい気がして、俺は笑った。
もちろん、そのあと足がしびれて悶絶したわけだが。


【散る】

わかっていたんだ。君がいなくなることは。
儚い笑顔で春風と共に現れて、言葉を交わして、いつしか君を無意識に探すようになるまでたった二週間。
桜吹雪のなかで頭を下げた君に手を伸ばしたけれど、残ったのは握りしめた拳の中に、薄紅の欠片がひとつ。

お題:今日の書き出し/締めの一文 【 握りしめた拳の中に、薄紅の欠片がひとつ 】  http://shindanmaker.com/231854


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宵月楼 店主
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オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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