宵月楼-しょうげつろう-
あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。
[490] [489] [488] [487] [486] [485] [484] [483] [482] [481] [480]
【一寸法師】
地平線の先にはなにがあるのだろう。
一寸法師は旅に出る。
姫を助けるためじゃなく、自分の好奇心を満たすために。
この小さな身では地平線は隣の町かもしれないけど、それでも動物tたちに乗せてもらい、鳥に空を運んでもらえばいつかもっと遠くへいけるはず。
行こう。
書き出しをお借りして。
【彦星の覚悟】
君を待つだけの簡単なお仕事に僕はすっかり飽きているんだ。
会えるまで待ち続けるだけなんて、退屈でつまらない。
だいたい、もう何千年同じことを繰り返してると思ってるんだ。
「やめた。もう待たない」
僕は呟いて天の川へ飛び込んだ。
君をさらって逃げるために。
書き出しをお借りして。
【攻防】
「覚悟しろっ!」
びしりと降り下ろされる刀を僕は軽々とかわす。
「甘いね」
「悪逆非道な猫又め!我が成敗してくれると言うに!」
悔しがって地団駄を踏むそれは、僕の膝の高さにも満たない三頭身の侍だ。
それは顔を真っ赤にして叫んだ。
「我のおやつ返せ!ばかーっ!」
お題:今日の書き出し/締めの一文 【 覚悟しろっ! 】 http://t.co/xa0YiAVQ
【狛犬騒動】
「誰でぇ、奉行所に狛犬なんざ運び込んだ奴ぁ」
南町奉行の大塚左京がべらんめえな口調で問うと、同心の吉野日向が頭をかいた。
「申し訳ありません。夜毎暴れるとかで近隣の住民に泣きつかれまして」
「これがか」
左京は日本刀をすらりと抜くとぴたりと狛犬に当てた。
「一応、これでも免許皆伝の腕前だ。石でもばっさりいくぜ?さあ、正体を現しねぇ」
殺気すらまとわせた左京の声に、狛犬がごとりと震えた。
石の表面が次第に色づき、たてがみや尻尾が柔らかくうねり出す。
そして目だけで左京を見上げた。
「おっかねえ奉行さんだねえ」
「ほ、ほんとにしゃべった!?」
「日向、ガタガタ言うんじゃねぇよ」
ニヤリと笑って左京が刃を収めると、狛犬はほっとしたように伸びをして行儀よく前足を揃えて座った。
尻尾が左右に揺れている。
「で、なんだって夜中に暴れているんでぇ」
「別に暴れちゃおりやせんよ」
「じゃあ、なんだって出歩いているのだ」
若さゆえか驚きよりも好奇心が勝ったらしい日向の問いに、狛犬はため息をついた。
「旦那方、考えてもみなせえ。一年中じっとしているのがどんなに退屈かわかりますかえ?たまには駆け回ってもバチは当たらねえと思うんですがね」
「お主は神社にじっとしておるのが仕事であろうが」
「いやあ、実は神の使いで出歩くこともあるんでさあ。しかしまあ、月夜に浮かれ出ちまったのはやりすぎでしたね。お陰で近所の大工に見つかっちまいやして。面目ない」
「あのなあ」
「日向、まあいいじゃねぇか」
「大塚様?」
「月に浮かれるなんざ風流だ。今回は大目にみてやれ」
「話のわかる奉行さんだねえ」
尻尾を振る狛犬に左京は刃のような笑みを浮かべた。
「今度俺達の仕事を増やしやがったらわかってるだろうな?」
途端にしょげた尻尾がおかしくて、日向が声をあげて笑った。
お題:今日のお題 「奉行所」 「日本刀」 「狛犬」 http://t.co/AMef1Qc2
【若夫婦と式神】
落とした釣瓶を引き上げると、冷たい水を桶に移す。
脇にはこの時期には珍しい笹百合の白い花が三本、そっと置かれている。
懐紙を取り出して百合の花粉を外すと、花を桶に入れた。
「少々見映えが」
眉をひそめる主の脇で、山に咲き残っていた百合を取ってきた式神が笑う。
「奥方は気にしないと思うぜ?」
「まあな」
桶を持ち上げて主も笑った。
今、臥せっている奥方を元気付けるために好きな百合の花を一目見せたいと、主従でない知恵を絞ったのだ。
水をこぼさないように注意して運ぶ主のために、式神が奥方の部屋のふすまを開ける。
「気分はどうだ?」
「まあ」
奥方は驚いて目を見開くと体を起こした。
「この時期に百合を見られるなんて」
少し強い匂いに式神が小窓を開けると、吹き抜ける風が匂いを散らして優しく一同を包み込んだ。
「ありがとうございます」
頭を下げて、その後奥方はくすっと笑う。
「ただの風邪で、ほんの数日寝込んだだけですのよ?明日には起きられますのに」
「夏風邪を軽く見ちゃいかん」
「そうだぜ。人は弱いんだから気を付けねえと!」
反論する男性陣に奥方は優しく微笑んだ。
それが風邪ではなく懐妊だとわかったのは、数日後のことである。
お題:今日のお題 「釣瓶」 「懐紙」 「百合」 http://po.st/JFfiCd
参加しています。もしよろしければクリックお願いします。
にほんブログ村
地平線の先にはなにがあるのだろう。
一寸法師は旅に出る。
姫を助けるためじゃなく、自分の好奇心を満たすために。
この小さな身では地平線は隣の町かもしれないけど、それでも動物tたちに乗せてもらい、鳥に空を運んでもらえばいつかもっと遠くへいけるはず。
行こう。
書き出しをお借りして。
【彦星の覚悟】
君を待つだけの簡単なお仕事に僕はすっかり飽きているんだ。
会えるまで待ち続けるだけなんて、退屈でつまらない。
だいたい、もう何千年同じことを繰り返してると思ってるんだ。
「やめた。もう待たない」
僕は呟いて天の川へ飛び込んだ。
君をさらって逃げるために。
書き出しをお借りして。
【攻防】
「覚悟しろっ!」
びしりと降り下ろされる刀を僕は軽々とかわす。
「甘いね」
「悪逆非道な猫又め!我が成敗してくれると言うに!」
悔しがって地団駄を踏むそれは、僕の膝の高さにも満たない三頭身の侍だ。
それは顔を真っ赤にして叫んだ。
「我のおやつ返せ!ばかーっ!」
お題:今日の書き出し/締めの一文 【 覚悟しろっ! 】 http://t.co/xa0YiAVQ
【狛犬騒動】
「誰でぇ、奉行所に狛犬なんざ運び込んだ奴ぁ」
南町奉行の大塚左京がべらんめえな口調で問うと、同心の吉野日向が頭をかいた。
「申し訳ありません。夜毎暴れるとかで近隣の住民に泣きつかれまして」
「これがか」
左京は日本刀をすらりと抜くとぴたりと狛犬に当てた。
「一応、これでも免許皆伝の腕前だ。石でもばっさりいくぜ?さあ、正体を現しねぇ」
殺気すらまとわせた左京の声に、狛犬がごとりと震えた。
石の表面が次第に色づき、たてがみや尻尾が柔らかくうねり出す。
そして目だけで左京を見上げた。
「おっかねえ奉行さんだねえ」
「ほ、ほんとにしゃべった!?」
「日向、ガタガタ言うんじゃねぇよ」
ニヤリと笑って左京が刃を収めると、狛犬はほっとしたように伸びをして行儀よく前足を揃えて座った。
尻尾が左右に揺れている。
「で、なんだって夜中に暴れているんでぇ」
「別に暴れちゃおりやせんよ」
「じゃあ、なんだって出歩いているのだ」
若さゆえか驚きよりも好奇心が勝ったらしい日向の問いに、狛犬はため息をついた。
「旦那方、考えてもみなせえ。一年中じっとしているのがどんなに退屈かわかりますかえ?たまには駆け回ってもバチは当たらねえと思うんですがね」
「お主は神社にじっとしておるのが仕事であろうが」
「いやあ、実は神の使いで出歩くこともあるんでさあ。しかしまあ、月夜に浮かれ出ちまったのはやりすぎでしたね。お陰で近所の大工に見つかっちまいやして。面目ない」
「あのなあ」
「日向、まあいいじゃねぇか」
「大塚様?」
「月に浮かれるなんざ風流だ。今回は大目にみてやれ」
「話のわかる奉行さんだねえ」
尻尾を振る狛犬に左京は刃のような笑みを浮かべた。
「今度俺達の仕事を増やしやがったらわかってるだろうな?」
途端にしょげた尻尾がおかしくて、日向が声をあげて笑った。
お題:今日のお題 「奉行所」 「日本刀」 「狛犬」 http://t.co/AMef1Qc2
【若夫婦と式神】
落とした釣瓶を引き上げると、冷たい水を桶に移す。
脇にはこの時期には珍しい笹百合の白い花が三本、そっと置かれている。
懐紙を取り出して百合の花粉を外すと、花を桶に入れた。
「少々見映えが」
眉をひそめる主の脇で、山に咲き残っていた百合を取ってきた式神が笑う。
「奥方は気にしないと思うぜ?」
「まあな」
桶を持ち上げて主も笑った。
今、臥せっている奥方を元気付けるために好きな百合の花を一目見せたいと、主従でない知恵を絞ったのだ。
水をこぼさないように注意して運ぶ主のために、式神が奥方の部屋のふすまを開ける。
「気分はどうだ?」
「まあ」
奥方は驚いて目を見開くと体を起こした。
「この時期に百合を見られるなんて」
少し強い匂いに式神が小窓を開けると、吹き抜ける風が匂いを散らして優しく一同を包み込んだ。
「ありがとうございます」
頭を下げて、その後奥方はくすっと笑う。
「ただの風邪で、ほんの数日寝込んだだけですのよ?明日には起きられますのに」
「夏風邪を軽く見ちゃいかん」
「そうだぜ。人は弱いんだから気を付けねえと!」
反論する男性陣に奥方は優しく微笑んだ。
それが風邪ではなく懐妊だとわかったのは、数日後のことである。
お題:今日のお題 「釣瓶」 「懐紙」 「百合」 http://po.st/JFfiCd
参加しています。もしよろしければクリックお願いします。
にほんブログ村
PR
HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
カウンター