宵月楼-しょうげつろう-
あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。
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【九夜月(くやづき)】
「何をしている?九夜月(くやづき)」
俺の声に振り返ったのは、黒い毛並みに金の瞳の猫。
少し睨むような目付きのせいで、金の瞳は上弦よりもやや満ちた、まさに九夜の月のよう。
真ん丸に満ちることのない瞳のせいでいつも損をしているこの猫が俺は妙に気に入っていた。
「お主は変わっておるな」
九夜月はそういうと、もそもそと俺の膝にのぼって丸くなった。
「特に強くもない猫又を望んで僕(しもべ)にする術者など聞いたこともない」
「そうか?まあ、お前が嫌ならいつでも契約解除していいんだぜ?それまでは暇潰しと思って一緒にいろよ」
「・・・ふん」
九夜月は力がないと言うが、猫又としてそれなりの能力は持っている。
人に化けるのも、能力を使うのも、自分のためにはしないだけだ。
過去に何かあったらしく、自ら封じているのだ。
しかし、その理由を誰にも明かさない。
そういうところも周りに敬遠される原因なのだろう。
「まあ、気楽に行こうぜ。俺だって下っぱの雇われ術師だしな」
「ふん、よう言うわ」
口ではそう言いつつも、九夜月は俺の膝の上で寝息をたて始めた。
心を開けとは言わない。
安心してくれる。それだけで妙に嬉しい気がして、俺は笑った。
もちろん、そのあと足がしびれて悶絶したわけだが。
【散る】
わかっていたんだ。君がいなくなることは。
儚い笑顔で春風と共に現れて、言葉を交わして、いつしか君を無意識に探すようになるまでたった二週間。
桜吹雪のなかで頭を下げた君に手を伸ばしたけれど、残ったのは握りしめた拳の中に、薄紅の欠片がひとつ。
お題:今日の書き出し/締めの一文 【 握りしめた拳の中に、薄紅の欠片がひとつ 】 http://shindanmaker.com/231854
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