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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【540】

 寂れた宿場の半分崩れたような旅籠とくれば怪談の舞台としてはうってつけである。しかもその一番奥、宿の主が使っていたらしい部屋には、妖しの力を秘めた一振りの刀が打ち捨てられているという。
 胡蝶(こちょう)は、漂うおどろおどろしい雰囲気に一瞬足を止めたが、すぐに唇をかみ締めてその旅籠に足を踏み入れた。
 ぎしぎしとなる廊下を進み、ふすまに手をかける。
 そっとひくと、その部屋の中央に、埃をかぶった刀があった。
「見つけた」
 呟いて、そばに膝をつくと、胡蝶はその埃を優しく払った。
「お前が炎将(えんしょう)?迎えに来たわ。お前が妖刀でも構わない。意に染まぬ使い方をしたなら、私を呪ってもいい。だから、それまでは私に力を貸して」
 囁きに、刀が淡く赤い光を帯びる。
 そして、胡蝶の目の前に、紅の衣をまとった青年が立っていた。
「その言葉、偽りではないな?」
 炎将の名にふさわしい赤い瞳が、胡蝶を鋭く射抜く。
 だが、胡蝶は、何故かその瞳が寂しげに揺らいだように見えた。
 長い孤独と、自由を奪われて人に使われる生き方を天秤に乗せ、迷うかのようだった。
「ええ。だから、私は貴方を縛らない。契約も、束縛も施さない。いつか、私を主と認める時まで」
 微笑む胡蝶に、炎将は一瞬ののち、頷いた。
「悪くない」
 ぽつりと呟いて、姿を消す。
 とりあえずの了承ととって、胡蝶は刀を両手で持ち上げ、かき抱いた。
「ありがとう」
 呟きに呼応するように、かたりとかすかな鞘鳴りがした。


お題: 「旅籠」、「妖刀」、「呪う」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578 #jidaiodai

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自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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