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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【545】

「・・・寂しい」
 ぽつりと呟いた君の瞳から涙が一粒零れ落ちる。
 それがあまりにきれいで、思わず触れてしまいそうになった。
 無意識に伸ばした指を、はっと気付いて途中で押し留める。
 半透明の君の体。
 体を失くしてしまった君のためにかけた術は、君の姿をこの薄暗い部屋にとどめるだけのもの。
 触れてしまえば、術は儚く溶けて、君は消えてしまう。
 だから、見えるけど、話せるけど、君を抱きしめることも、涙を拭いてあげることも僕にはできないんだ。
「寂しいよ」
 濡れた瞳が僕を見る。
 術をかけてからずっと、笑ったことがない瞳。
 僕は、間違っていたのかもしれない。
 君を失いたくなくて必死だったけど、君はずっと寂しいままで。
 僕も、苦しいままで。
 だから。
「わかったよ。もう泣かないで」
 僕は指を伸ばすと君の涙をぬぐった。
 君はくすぐったそうに目を伏せる。
 少し冷たい、でも昔のままの柔らかな頬に触れて、そしてそっと抱きしめる。
 ああ、ずっと、こうしたかったんだ。
 きみを失うのが怖くてできなかったけど、君の笑顔を見たいから。
 君が僕の背中に腕をまわす。
 触れた部分から術が溶けていく。
 揺らいで消えていく君に、僕は微笑みかけた。
「いままで、寂しい思いをさせてごめんね。君が寂しくないようにすぐに追いつくから、ちょっとだけ待ってて」
「・・・うん、待ってる」
 濡れた瞳のまま微笑み返して、君は僕の腕の中から消えた。
 ずっと見たかったその笑顔だけを思い浮かべて、僕はナイフを振りかざした。

 お題:「思わず触れてしまいそうになった」
3つの恋のお題:思わず触れてしまいそうになった/闇にさらわれたかのよう/地下鉄のホームで君を見た http://shindanmaker.com/125562 より

拍手ありがとうございます。
連作は難しいですね。
基本こんな短い文章で人物描写までするのは無理があるのは分かっているのですが、つい、設定や名前をつけたくなるんですよね(^^;)。
区切りがあることで印象が変わってくるのは、文章力不足のせいです。
精進します。


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右手に宿る修羅 HOME 誓約

HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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