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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【833】

【書き出し、はじめました】
 店先にひらりと翻る短冊に、冗談のようにそれだけ書かれている。
「あれは何だ?」
 それを横目に店に入ってきた妖狐の琥珀が聞くと、店主はにやりと笑った。
「物語のさわりだけを買ったり売ったりするのさ。育てられなかった種を他人に譲って有効活用してもらうんだよ」
 そういえば、仮名草紙を扱う店で【書き出し】を商い始めた、と噂は流れてきていた。なんだろうと思ったが、こういうことかと琥珀は棚を眺める。
 短い文が書いてある短冊が、無造作に棚に並んでいる。
「要は思いついたはいいが育てられなかった物語の種をうちであずかるんだ。うちはそれを棚に並べておき、欲しい人に譲り渡す。本業ではないからお代は頂かない。その分、店をのぞいてくれれば御の字だ」
「なんだ、客寄せか?」
「いや、こいつは物語を紡ぐのは楽しいってことを思い出させてくれるのさ」
 店主は笑った。
「物語を育てるのは時に難しい。うまく育たない時は自分の未熟を悔やむ。だがうまく育ててくれるお人に巡り合わせてやれたら、これはその為に生まれたんだって思えるのさ。捨て置くよりずっといいだろう?それに人が育てた文章を読むのも存外楽しいしな」
「とことん物語好きなんだな」
 苦笑する琥珀に、店主は短冊を一枚差し出した。
「ひとつあんたも育ててみないか」
「やめてくれよ」
 琥珀は肩をすくめた。
「文才がありゃ、こうやってあんたの店に来ちゃいねえよ」
 琥珀はあやかしの話を店主にしては、それを仮名草紙に仕立ててもらっているのだ。お代は売れた冊数に応じて支払われる。店主がまだ店を持たずにいろんな店で物語を書いていた頃から、変わらぬ関係だった。
「確かに。あんたが自分で書くようになっちゃ、【あやかし話の宵月楼】で売れなくなっちまう」
 店主は笑んで筆を取り出した。
「では、妖狐の旦那。今日はどんなお話で?」


最近ツイッターで気に入っている「この書き出しいかがですか」というタグからふくらませてみました。


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ついのべとか短歌とかヤンデレとかおじさん HOME ついのべデー週末企画 お題:花見

HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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