宵月楼-しょうげつろう-
あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。
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【606】
夜も遅い、船宿で船でも借りてやろうと言う旦那衆の申し出を断ったのは、軽率だったかも知れない。
宴に呼ばれて三味線を弾くのが仕事であれば、夜道には慣れている。
暗い怖いと言っていては、仕事になりはしないのだ。
しかし今夜は、なぜか背筋が冷たく感じた。
じっとりといくつもの視線が自分を見ているような感覚に、足が震える。
そして、赤い月が雲間から顔を出した時、不気味な影たちが自分を取り囲んでいることを知った。
それらは血に飢えた目をしていた。
「・・・ど・・・して・・・」
「ほおずきは、鬼の灯火と書くであろう?」
かすれた声に応じたのは、若い男の声だった。
気づいたときには、腕に抱えていたほおずきを取り上げられていた。
手から奪われたほおずきは、名の通りぼんやりと赤い光を放っている。
「このようなものを持っておっては、要らぬあやかしを呼び寄せようぞ」
「さっきまで、そんな風に光ってはいなかったわ」
「これは我が手にした故、そなたにも見えるほど光が強くなったにすぎぬ。しかし、あやかしにとってはこれはよく見通せる灯火となる。光に虫が寄せられるように、やつらは惹き付けられるのだ」
「あなた、なに?」
かざした提灯の光に浮かび上がったのは、長い髪を風になびかせた青年だった。その頭には細く優美な角が二本生えていた。
「鬼?」
「ああ、そうだ。我が追い払ってやろうか?代償は、そうだな、そなたの懐に入っている包みで良い」
「懐の包み?」
そういえば、と取り出す。それは店の主人に持たされた饅頭の包みだった。
恐る恐る差し出すと、鬼は嬉しそうにそれを受け取った。
包んである竹の皮を開けて、ひとつ頬張る。
嬉しそうに目を細めたところを見ると、好物であるらしい。
鬼はもうひとつくわえると、周りを取り囲んだあやかしたちにほおずきを向けた。
「我を相手にするのは、あまり賢いとは言えぬぞ」
そこに潜んだ殺気に、ざわりと空気が揺れる。
気づけば、あやかしたちは姿を消していた。
「あの、ありがとうございます」
「いや、うまい饅頭が食えた」
鬼は童のようにふわりと笑う。
しかし、次の瞬間、その姿はどこにもなかった。
ほおずきも、なくなっていた。
すべてが幻だったかのような唐突さにしばし呆然とする。
だが、地面に落ちた竹の皮が目に入って、彼女は思わず微笑みを浮かべた。
確かに鬼はいたのだ。
今度あったら、もっと美味しい饅頭をご馳走しよう。
「船宿」、「饅頭」、「鬼灯」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578 #jidaiodai
冬至です。
かぼちゃを食べて、柚子湯には浸かりましたか?
参加しています。もしよろしければクリックお願いします。
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夜も遅い、船宿で船でも借りてやろうと言う旦那衆の申し出を断ったのは、軽率だったかも知れない。
宴に呼ばれて三味線を弾くのが仕事であれば、夜道には慣れている。
暗い怖いと言っていては、仕事になりはしないのだ。
しかし今夜は、なぜか背筋が冷たく感じた。
じっとりといくつもの視線が自分を見ているような感覚に、足が震える。
そして、赤い月が雲間から顔を出した時、不気味な影たちが自分を取り囲んでいることを知った。
それらは血に飢えた目をしていた。
「・・・ど・・・して・・・」
「ほおずきは、鬼の灯火と書くであろう?」
かすれた声に応じたのは、若い男の声だった。
気づいたときには、腕に抱えていたほおずきを取り上げられていた。
手から奪われたほおずきは、名の通りぼんやりと赤い光を放っている。
「このようなものを持っておっては、要らぬあやかしを呼び寄せようぞ」
「さっきまで、そんな風に光ってはいなかったわ」
「これは我が手にした故、そなたにも見えるほど光が強くなったにすぎぬ。しかし、あやかしにとってはこれはよく見通せる灯火となる。光に虫が寄せられるように、やつらは惹き付けられるのだ」
「あなた、なに?」
かざした提灯の光に浮かび上がったのは、長い髪を風になびかせた青年だった。その頭には細く優美な角が二本生えていた。
「鬼?」
「ああ、そうだ。我が追い払ってやろうか?代償は、そうだな、そなたの懐に入っている包みで良い」
「懐の包み?」
そういえば、と取り出す。それは店の主人に持たされた饅頭の包みだった。
恐る恐る差し出すと、鬼は嬉しそうにそれを受け取った。
包んである竹の皮を開けて、ひとつ頬張る。
嬉しそうに目を細めたところを見ると、好物であるらしい。
鬼はもうひとつくわえると、周りを取り囲んだあやかしたちにほおずきを向けた。
「我を相手にするのは、あまり賢いとは言えぬぞ」
そこに潜んだ殺気に、ざわりと空気が揺れる。
気づけば、あやかしたちは姿を消していた。
「あの、ありがとうございます」
「いや、うまい饅頭が食えた」
鬼は童のようにふわりと笑う。
しかし、次の瞬間、その姿はどこにもなかった。
ほおずきも、なくなっていた。
すべてが幻だったかのような唐突さにしばし呆然とする。
だが、地面に落ちた竹の皮が目に入って、彼女は思わず微笑みを浮かべた。
確かに鬼はいたのだ。
今度あったら、もっと美味しい饅頭をご馳走しよう。
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HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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