宵月楼－しょうげつろう－

【611】

　目が覚めたら、珍しく雪が積もっていた。
　年に二、三回しか積もらぬこの地では、その一面白銀の景色はただただ美しく感じる。
　犬神は少し嬉しげに微笑むと、長い髪を軽く結わえて外へ出た。
　まっさらな雪の中を足跡をつけていくと無性にそこらじゅうを足跡だらけにしたくなるが、もう童ではないのだから、と、自分に言い聞かせて釣瓶を落とす。
　　釣瓶の音がからからと小気味いい音を立て、冬でも凍らない井戸の水の中へ落ちる音が、今日は妙に響いて聞こえた。
　雪の日の、音が吸い取られたような静けさが、彼はとても好きだった。
　こんな日は、遥か遠くの音がよく聞こえる。
　かすかに蜆売りの声がするのに気付いて、彼は朝の味噌汁は蜆にしようと思った。
　温かい味噌汁はきっと体に染み渡るだろう。
　そして、くみ上げた水で顔を洗うと、蜆売りの声がする方へふらりと歩き始めた。
　雪の上に、嬉しそうに足跡をつけながら。


お題：「釣瓶」、「蜆」、「犬神」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
犬神の瑠璃丸は寒さに強くて雪も好き＜犬だから（＾＾；）
表情をあまりあらわにしませんが、よく見ると少し微笑んでさくさくと雪を踏んでいると思います。
食事の担当は猫又の翡翠ですが、猫ですので雪の朝はなかなか起きてこず、瑠璃丸が作っているのかも知れないですね。

拍手ありがとうございます。
クリスマス、少し切ないお話でどうかなと思ったのですが、拍手いただけて嬉しいです。
メリークリスマスもありがとうございます（＾＾）。


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