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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【510】

 神使の狐である彼は、いつも小さな神社の境内に居た。
 季節毎の植物の柄を散らした着流し姿で、ご神木に背を預けている。
 そして、たいていは煙管を手に、つり上がった目を細めて笑っている。
 無造作に肩の辺りで結わえただけの髪の間から黄金に輝く毛で覆われた耳がのぞく他は、人間とほとんど変わらない姿をしている。
「お嬢、どうしたんだえ?」
 少女は声を掛けられて、涙を隠すようにごしごしと目をこすった。
「ああ、こすっちゃ駄目だ。腫れちまう」
 彼は苦笑して少女の手を押さえ、懐から手拭いを出して優しく涙を拭いた。
「せっかくの別嬪さんが台無しだ」
「だって、みんなが嘘つきだっていうの」
 少女は、彼にぎゅっとしがみついた。
 見えるのに。触れるのに。そんなものはいないと言われるのだ。
「お嬢はね、特別な目を持ってるんだ」
「特別?」
「そう。神使たる我を見る目を持っている。だが、それはおいそれと人に与えられるもんじゃない。だからみんなには見えない。わかるかえ?」
 ゆっくりと幼い少女でもわかるように言葉を紡ぐ彼に、少女はこくりと頷いた。
「いい子だ。特別なお嬢に、特別な約束をやるよ」
「なに?」
 不思議そうな顔をして見上げる少女に微笑んで、彼は少し手を振った。持っていた煙管が消える。
 細く、少しひやりとする指が、少女の額にあてられる。
「神使の狐の加護を与える」
 その指先がぼんやりと光った。
「何をしたの?」
 問う少女に、彼は額に当てていた指を己の唇に当てて見せた。
 内緒話をするように声を落とす。
 瞳が、悪戯っぽくきらめいた。
「お嬢は我が守ってやる。お嬢はいつでも我を呼べる。ただし、誰にも内緒だ。特別だから」
「いつでも一緒?」
「一緒だ。嬉しいかえ?」
 少女は笑みを浮かべて頷いた。
「お嬢はそうやって笑ってるのがいい」
 狐はそう言って、くしゃりと少女の髪をかき回した。
 この小さな約束が、この先何をもたらすのか、そんなことはどうでもよかった。
 少女の笑顔さえ守れれば、それでよかったのだ。


お題: 「境内」、「煙管」、「内緒話」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578


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月光の飴 HOME 欲しいのは、ただ、真実

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オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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