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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【514】

 主の仇を討つために、あやかしどもの月見の宴に潜り込んだ。
 「月の君」と呼ばれるあやかし。
 その命を奪えと渡されたのは、銘もない小柄(こづか)だけだった。
 それが何を意味するのかわからないほど愚かであれたなら、きっともっと楽だっただろう。
 汗に湿る手に小柄を握りしめ、私は仇を探す。
 その時、ふわりと微かだが甘い百合の香が体を包んだ。
「子犬が何をしている?」
 降ってきた声に驚いて顔を上げると、そこには着流し姿の男が立っていた。
 結わえもせずに背に流した長い髪。その一握りだけが月光で染めたような銀。
「月の君!?」
 思わず声をあげた。その口がいささか乱暴にふさがれる。
「子犬よ。人とばれれば酒の肴にされるぞえ」
「構わぬ」
 小柄を握りしめる。
「食われるのは覚悟の上」
 そう。所詮そのための捨てごまなのだ。
 主の死になにもせぬ訳にはいかぬが、あやかしは恐ろしい。
 そう考えた家来たちが主の仇を討つという体裁をとるために送り込んだのが、身寄りもない下働きだったのだ。
 恐ろしいあやかしに刃を向ければ生きては帰れまい。しかし、殺されれば、これ以上手を出すのは危険だと知らしめることができる。
 また、恐ろしいあやかしであっても、人の子一人食らえば、恐らく刃を向けられた不興も晴れるであろう、と。
「私はここで死なねばならぬ。悲しむものもいない軽い命だ」
「ほお?」
 月の君は面白そうに笑うと、あっさりと私の手から小柄を抜き取った。
「返せ!」
「切れ味は悪くないが、小柄程度では我は殺せぬ」
 風のように手がひるがえった。
 気づけば、その手には髪が一房乗っていた。
 私の髪が、肩の辺りで断たれていた。
「これに丁寧に文をつけて、おぬしをここへ寄越した者に送りつけてやろう。そうじゃな、多少血もつけておいた方がいいか?」
「何を考えている?」
「なに、食ってしまうよりも飼ってみたいと思ってな。その命、捨てるなら俺がもらおう」
 にやりと笑うあやかしに、私は毒気を抜かれて差し出されたその手をとってしまった。


お題: 「月見」、「小柄」、「百合」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578


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匂い袋 HOME 140字の欠片、二つ

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宵月楼 店主
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自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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