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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【515】

 水は嫌いだけど、海は案外嫌いじゃない。
 猫又の翡翠はそんなことを思いながら、浜辺をゆっくりと歩いていた。
 さくさくと足の下で崩れる細かい砂の感触や、低く体に響くけれども静かでゆっくりとしたなみの音や、きらきらと陽射しを反射して輝く水面は、何度訪れても飽きない。
 嵐のあとなどに来れば、珍しいものや思いがけないものが打ち揚げられているのを見つけたりもする。
 たとえば、読めない異国の言葉が書かれた木の箱の残骸とか、淡い桜色の貝殻とか、海の色をそのまま形にしたような色のすっかり角が取れて滑らかに丸くなった石の欠片とか。
「あれはなにかな」
 その日は、波打ち際にきらりと光るものが目をひいた。
 歩み寄ると、しっかりと封がされた硝子の瓶だった。
 透明なその中には小さな袋が入っている。
 翡翠は封を破り、瓶の口を開けてみた。
「・・・花の香り?」
 ふわり、と甘い香りがあたりに漂う。
 それは今までかいだどの花の香りにも似ていなかった。
「異国の匂い袋なんだね」
 何故瓶に封じてあったのかは、わからない。
 香りすら逃がさぬようにしたかったのだろうか。
 どんな人に渡したかったのだろう。
 その手作りに違いない匂い袋がたどった旅路に思いをはせながら、捨てて行くのは忍びなくて、翡翠はそれを懐へ入れた。
「届けるのは無理だしね。気に入ったから、大事にしてあげるよ」
 海の向こうの誰かに呟いて、翡翠は浜辺をあとにした。


お題:「浜辺」、「匂い袋」、「猫又」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
翡翠が拾ったのはポプリのサシェでしょうか。
ラベンダーとか、バラとか、江戸時代ならなじみがない香りじゃないかな、と思います。


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元気出して HOME 月の君

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オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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