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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【496】

 それは初めて聞く音で、根付兎はびくりと震えた。
 耳をつんざき、体全体がびりびりと痺れ、自然と涙が浮かぶ。
 空は暗く日が当たらないせいで、自分しかいない部屋はいつもよりも冷たく不気味に感じる。
 何処に隠れようと音は真っ直ぐに自分を追いかけてきて、ひょこひょこと逃げては物陰で震えた。
 何かすごいものが襲ってきて、食べられてしまうのかもしれない。
 頭をよぎった考えに、ぎゅっと目を閉じる。
 その時。
 勢いよく障子が開いて、誰かが駆け込んできた。
「ああ、やっぱり!」
 少女の声に見上げると、心配そうなまなざしがこちらを見下ろしていた。
 犬神とともに暮らしている少女だというのは知っているが、こんなに近くで見るのは初めてだった。
 昼間は小さな根付の兎の形なのでこの部屋からあまりでないし、少女はまだ子供で夜は早くに寝てしまう。
 同じ家に居ても、会う機会があまりなかった。
「今、瑠璃丸が留守なんだよ。雷怖いんじゃないかと思って」
 そっと伸ばされた手が自分を包み込む。
 逃げようにも体が強張り言うことをきかなかったので仕方なく捕まえられたが、両手の手のひらに包まれると、恐ろしい音が少し弱くなって、兎は気持ちが緩むのを感じた。
「凛音も雷嫌いなんだよ。でもね、この前瑠璃丸がこれを買ってきてくれたの」
 すとん、と少女は座り込むと、兎を膝の上にのせた。
 そして、そばに赤い生地に蝶や花を描いた布で作られた小さなお手玉を置く。
 そこに犬神の匂いが残っているのを感じ取って、兎はお手玉に身を寄せた。
 ちりん、と、中に入っている鈴が可愛らしい音をたてる。
「ね、怖くなくなるでしょ?お守りなんだよ。二つあるから、一つあげる」
 驚いて少女を見上げると、優しい笑顔があった。
 しゃべられないのがもどかしく、兎は精一杯の感謝の気持ちをこめて少女の手に頭を摺り寄せた。
「うん。一緒に我慢しようね」
 時折お手玉を揺らして鈴をちりんちりんと鳴らしながら、雷が去るまで兎は少女の膝から降りようとはしなかった。


お題:「雷」、「お守り」、「描く」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578

瑠璃丸は犬神の名前です。
付喪神の根付兎を拾って面倒をみています。
凛音は瑠璃丸と一緒に住んでいますが(他に猫又と妖狐もいますが)、今まで二人はあまり接触がありませんでした。
兎は昼間は瑠璃丸の部屋から出ないのと、きちんと整理された瑠璃丸の部屋に凛音はあまり入らないので。
凛音が少しお姉さんぶってます。
これを期に仲良くなって、帰ってきた瑠璃丸が遊んでいる二人を見て少し驚いたりするといいな。

以前の根付兎
Twitter Novel 7/31 【215】
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掌編未満 9/28 【474】
根付兎 彼岸花

凛音が持っていたお手玉の話
雷鳴とどろく

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オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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