忍者ブログ

宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

[172]  [171]  [170]  [169]  [168]  [167]  [166]  [165]  [164]  [163]  [162

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【492】

「なんだい、坊。食いたいのかえ?」
 甘い匂いに誘われたのか、馴染みの甘味屋の前で立ち尽くしていた男の子に、琥珀は声をかけた。
 男の子ははっと我に返って、琥珀を大きな目で見つめた。
「・・・おあしが、ないの」
 着ているものの良さから大店の子供のように見えるが、そばに居るはずの子守もお付きも見当たらない。
 はぐれたか、勝手に出てきたか。
 どちらにせよ、こんないい身なりでうろついていれば、あっという間に面倒に巻き込まれるのは目に見えている。
 幸い、足元や着物はそれほど汚れてはいない。
 あまり遠くから来たのではないと見当をつけて、琥珀は店ののれんを手でちょいと持ち上げる。
「おう、ぜんざいと団子をくんな」
 店の奥に声をかけると、小柄で人の良さそうな男が腰をかがめて出てきた。
「あれ、狐の。今日は女の子じゃなくて男の子連れかい?」
「ここに一人で突っ立ってたんだよ。おっつけ誰か迎えに来るだろうから、表に居させてやってくんな」
「へええ。また、おせっかいの虫が出たねえ」
「・・・うるせえよ」
 口をゆがめる琥珀に、男は笑って、腰をかがめたまま店の奥に引っ込むと、ぜんざいの椀と団子を一皿持ってきた。
「ごゆっくり」
「ありがとよ。さあ、坊。ここに座んな」
 茶店の常で、店の表にも床机が置いてある。そこに座らせて、琥珀はぜんざいの椀を子供に渡した。
「ありがとう」
 にっこり笑って子供はそれを一口食べた。そして、大きな目を丸くする。
「おいしい!」
 普段からいいものを食べているだろうが、やはりここのぜんざいは別格らしい。
 琥珀は笑みを浮かべてあんこの乗った団子を口に放り込んだ。
「うまいな」
 わかっていたのに思わず呟いてしまい、とても迷子には見えない嬉しそうな子供と、顔を見合わせて笑った。
 美味しいものを食べていれば、たいていのことは何とかなる気がするものだ。
 小豆洗いは、今日もいい仕事をしている。
 

お題:「大店」、「ぜんざい」、「狐」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
お久しぶりの小豆洗いの甘味屋です。
腰をかがめているのは、小豆洗いだからなんです。
ほら、たいてい前かがみになって小豆を洗っているじゃないですかw
ちなみに小豆洗いが琥珀を「狐の」と呼んでいるのは、彼が妖狐だからです。どうも彼の面倒見の良さとおせっかいはすっかり知れ渡っているようです。

以前の小豆洗いの甘味屋
Twitter Novel 8/21 【309】
Twitter Novel 9/14 【438】



参加しています。もしよろしければクリックお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ 掌編小説へ
にほんブログ村

拍手[0回]

PR

この記事にコメントする

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード
携帯用絵文字   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

この記事へのトラックバック

この記事にトラックバックする:

紅い蝶 HOME 遠い空の下

HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
カウンター
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

忍者ブログ [PR]
template by repe