宵月楼-しょうげつろう-
あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。
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【684】
弟は私の邪魔をしない距離感をなぜか心得ている。
研究に没頭する私の身の回りの世話をし、食事を作り、さりげなく私を現実に引き戻す。
「別にほっといていいんだぞ」
「身内が干物になるのは嫌だもの」
「だが血の繋がりもないのに」
「縁は繋がってるよ」
弟は義母の連れ子なのだ。
三日だけ義母が留守だからと私の研究所へ転がり込んできた弟は、しかしこれだけ家事ができるのなら一人で留守番もできただろう。
だが、なぜか追い返す気にならなかった。
研究所とは名ばかりのあばら家で一人で暮らす私にとって、人との接触は苦痛でしかないはずなのに。
するりと私の生活に入り込んだ弟は、帰らなくていいからといつもよりゆったり私の世話をしているようだった。心なしか楽しげにすら見える。
「何を研究しているんだっけ?」
洗濯物をたたみながらの質問に私が答える気になったのは、私にもその楽しげな気分が移っていたのだろうか。
「人の気持ちを知ることができる機械」
「へえ」
素直に驚く弟に、私は曖昧に笑んで見せた。
私には人の気持ちがわからない。特に恋愛感情は難解以外の何物でもない。いや、昔は私にも恋をするという感情があったはずなのだ。だが幼い時から大恋愛の末結ばれたと聞かされていた両親の離婚と父の再婚で、「恋する」ことをはじめとする人の感情が一切わからなくなってしまった。
そこまでは私も言うつもりはなかったが、弟も根掘り葉掘り聞く気はなかったのだろう。それ以上この話題に触れることはなかった。
弟が帰る三日目、彼は普段は締め切っている家中の窓を開けた。
「たまには気分を変えてみようよ」
笑った彼は私をまぶしい日の光が溢れるテラスに連れ出し、椅子に座らせる。
「何をするつもりだ?」
「こうするんだよ」
そういうと、私が抗議する間も与えず前髪にハサミをいれた。
呆然としている私をよそに、弟は手慣れた様子でほったらかしだった私の髪を切り、何やらいい匂いのするクリームめいたもので整える。気づけば器用に編み込みまでされている。
「おい」
「僕が何も言う資格がないのはわかってるけど」
前髪を切ったせいで、弟の表情が嫌でも目に入る。
いつもの朗らかな彼の表情ではなかった。家族の優しさよりも、もっと優しく甘い笑み。
「せっかく綺麗なんだから、前髪で隠してたらもったいないよ、姉さん」
そして、椅子に座ったままの私の頬にそっと触れた。
「ねえ、機械の代わりに僕じゃダメかな?」
彼は何を言っているのだろう。
混乱する私に、彼は苦笑したようだった。
幼子を諭すようにゆっくりと穏やかに言葉を紡ぐ。
「僕と母さんが姉さんを傷つけたのはわかってる。だから資格がないのもわかってるけど、でももうほっとけないんだ。ねえ、姉さん。僕はあなたに恋をしてる。だから、感情を研究するなら機械相手じゃなく僕を研究してみない?僕、きっと役に立つよ」
わからない。
わからないけど、彼の目が本気なのはわかる。
その感情が私の心を揺さぶる。
わからない。わからない。
だから。
私は恐らく初めて、真っ直ぐに彼を見つめた。
「わかるまで調べることにする・・・お前を」
「うん」
弟は嬉しそうににっこり笑った。
なぜか私も同じ表情になっていることに、そのときの私はまだ気づいてはいなかった。
お題:ねー久遠、恋し方を忘れた研究者と血の繋がりのない弟との3日間の話書いてー。 http://shindanmaker.com/151526
お題を診断メーカーからいただいたのですが、なかなか難しいものに当たりまして(^^;
思い付くままにTwitterでだらだら書いたものをまとめてみました。十個くらいツイート使ったかな。Twitterは、140字制限なのです。
いつもとは少し違う文章になったかな。でもなんとなく自分の色は変わらないもんですね。
ちなみに、ついのべやあやかしたちの呟きを落としているTwitterアカウントは@ayakashi_botです。
興味がおありでしたら声をかけてやってください。
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弟は私の邪魔をしない距離感をなぜか心得ている。
研究に没頭する私の身の回りの世話をし、食事を作り、さりげなく私を現実に引き戻す。
「別にほっといていいんだぞ」
「身内が干物になるのは嫌だもの」
「だが血の繋がりもないのに」
「縁は繋がってるよ」
弟は義母の連れ子なのだ。
三日だけ義母が留守だからと私の研究所へ転がり込んできた弟は、しかしこれだけ家事ができるのなら一人で留守番もできただろう。
だが、なぜか追い返す気にならなかった。
研究所とは名ばかりのあばら家で一人で暮らす私にとって、人との接触は苦痛でしかないはずなのに。
するりと私の生活に入り込んだ弟は、帰らなくていいからといつもよりゆったり私の世話をしているようだった。心なしか楽しげにすら見える。
「何を研究しているんだっけ?」
洗濯物をたたみながらの質問に私が答える気になったのは、私にもその楽しげな気分が移っていたのだろうか。
「人の気持ちを知ることができる機械」
「へえ」
素直に驚く弟に、私は曖昧に笑んで見せた。
私には人の気持ちがわからない。特に恋愛感情は難解以外の何物でもない。いや、昔は私にも恋をするという感情があったはずなのだ。だが幼い時から大恋愛の末結ばれたと聞かされていた両親の離婚と父の再婚で、「恋する」ことをはじめとする人の感情が一切わからなくなってしまった。
そこまでは私も言うつもりはなかったが、弟も根掘り葉掘り聞く気はなかったのだろう。それ以上この話題に触れることはなかった。
弟が帰る三日目、彼は普段は締め切っている家中の窓を開けた。
「たまには気分を変えてみようよ」
笑った彼は私をまぶしい日の光が溢れるテラスに連れ出し、椅子に座らせる。
「何をするつもりだ?」
「こうするんだよ」
そういうと、私が抗議する間も与えず前髪にハサミをいれた。
呆然としている私をよそに、弟は手慣れた様子でほったらかしだった私の髪を切り、何やらいい匂いのするクリームめいたもので整える。気づけば器用に編み込みまでされている。
「おい」
「僕が何も言う資格がないのはわかってるけど」
前髪を切ったせいで、弟の表情が嫌でも目に入る。
いつもの朗らかな彼の表情ではなかった。家族の優しさよりも、もっと優しく甘い笑み。
「せっかく綺麗なんだから、前髪で隠してたらもったいないよ、姉さん」
そして、椅子に座ったままの私の頬にそっと触れた。
「ねえ、機械の代わりに僕じゃダメかな?」
彼は何を言っているのだろう。
混乱する私に、彼は苦笑したようだった。
幼子を諭すようにゆっくりと穏やかに言葉を紡ぐ。
「僕と母さんが姉さんを傷つけたのはわかってる。だから資格がないのもわかってるけど、でももうほっとけないんだ。ねえ、姉さん。僕はあなたに恋をしてる。だから、感情を研究するなら機械相手じゃなく僕を研究してみない?僕、きっと役に立つよ」
わからない。
わからないけど、彼の目が本気なのはわかる。
その感情が私の心を揺さぶる。
わからない。わからない。
だから。
私は恐らく初めて、真っ直ぐに彼を見つめた。
「わかるまで調べることにする・・・お前を」
「うん」
弟は嬉しそうににっこり笑った。
なぜか私も同じ表情になっていることに、そのときの私はまだ気づいてはいなかった。
お題:ねー久遠、恋し方を忘れた研究者と血の繋がりのない弟との3日間の話書いてー。 http://shindanmaker.com/151526
お題を診断メーカーからいただいたのですが、なかなか難しいものに当たりまして(^^;
思い付くままにTwitterでだらだら書いたものをまとめてみました。十個くらいツイート使ったかな。Twitterは、140字制限なのです。
いつもとは少し違う文章になったかな。でもなんとなく自分の色は変わらないもんですね。
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HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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