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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【691】


 僕は完璧な歌声を持った機械人形。
 疲れることなく、揺らぐことなく、いつでも素晴らしい歌を歌う。
 僕の歌を聞いた人たちは、喜んだり、涙したり、楽しそうに踊ったり。
 それはいつしか僕の中に降り積もっていく。
 人々の気持ちを受け取って、僕の歌は感情を持っていく。
 僕の心は歌を理解し、僕の歌はさらに人に喜ばれるものになった。

 歌う僕はたくさんの人に会う。
 みんな僕の歌に足を止める。

 だけど、君は耳が聞こえなかった。
 僕の歌は君には届かない。
 君に何かをあげたいと思っても歌しか持たない僕は、他に唯一持っているものを君にあげることにした。
 体の中からその部品を外す。
 君に手渡すと、それは君の中に溶けて消えていくのが見えた。
 僕の気持ちは伝わったかな。
 僕には、もうそれはわからないけれど。
 なぜなら、一番大事な部品の足りなくなった僕は、もう不完全な人形でしかなかったから。
 君にあげたのは、僕の心。
 それを失くした僕の歌は、元の完璧さを持たなかった。
 どこか狂って調子の外れた聞くに堪えない歌。
 もう僕は、心なしに歌が歌えなくなっていたんだ。
 だから僕の体はこの薄暗い部屋に放り込まれて、今はもう誰も僕の歌は聞かない。
 でもいいんだ。
 僕の中にあった暖かいものが君の中で息づいていると僕は信じて、今日も誰も聞かない歌を狂った音程で口ずさむ。


お題(というか、脳内イメージ):薄暗い部屋で壁にもたれて、うつろな瞳で薄い笑みを浮かべ、ぼんやりと調子の外れた歌をかすかに歌っているKAITO。


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ついのべ三編 HOME 色、想い、世界、君。

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宵月楼 店主
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自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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