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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【769】

 根付兎の兎波(となみ)は空を見上げた。
 薄い青の霞のかかった空になにかが見えた気がして、兎波は目を凝らす。
 ひらひらと、小さな欠片が飛んでいた。
「・・・なに?」
 手を伸ばす。
 最近、人の形が身に馴染んできて人の姿でいることが多くなった兎波は、ぱたぱたと走っては降って来る欠片を捕まえ、手の中を覗き込む。
 薄紅の、少ししっとりとした小さな欠片。
 ぎゅっと握ったらつぶれてしまいそうで、そっと手のひらに包み込むと犬神の瑠璃丸のもとへ駆け寄った。
「なに?」
 手のひらを広げて見せると、瑠璃丸は目を少し細めて微笑んだ。
「桜だ」
「さくら?」
「ああ、これは桜の花びらだ。・・・こっちにおいで」
 瑠璃丸は兎波の小さな手をひいて、緑の増えてきた田舎道を歩き出した。
 ぽくぽくとあるいていくと、目の前に薄紅の雲が見えた。
 そのそばまで兎波をつれてくると、瑠璃丸は小さな体を抱き上げた。
 視界一杯に広がる薄紅。
 初めて間近に見る春の色。
「これが、桜だ」
 ざあっと風が吹いた。
 見上げた兎波を歓迎するように、桜の花吹雪が二人に降り注いだ。
「わあ・・・」
 両手を伸ばして兎波はその花びらをつかもうとする。
 そして、首を回すと「あっ」と小さく叫んで瑠璃丸の白い髪に手を伸ばした。
「つかまえた!」
 髪にくっついていた花びらを指でつまんで、兎波は嬉しそうに瑠璃丸に笑いかけた。
「春、つかまえた!」


-終-

早く桜の季節になれー(^^)
兎波(となみ)は去年犬神の瑠璃丸に拾われた兎の根付で、やっと付喪神としての力を持ち人の形になれるようになったので、初めての春に興味津々なのです。
この前の話(桜吹雪に君を待つ春)を書いて、なんだか瑠璃丸の桜を見る目が少し寂しげで優しい感じになっているのではないかと思うようになりました。
凛音に対する言葉なども、深みが出た気がします。
書いていく作業は、ちょっとずつ彼らの歴史を埋めていく作業のような気がしています。


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宵月楼 店主
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非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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