宵月楼-しょうげつろう-
あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。
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【64】
揺れる。揺れる。
一瞬ごとにくるくる変わる。
止まれと願っても聞き届けられず、揺れる心に体が呻く。
誰か、止めて。手を差し伸べて。
他力本願を嘲笑うように、心はさらに大きく振れた。
【65】
家の近くの歩道橋で、夕方、あいつが帰って来るのを待ち伏せる。
「なあ、西瓜余ってるから食べてけよ」
「もしかしてずっと待ってた?」
「そんなわけねえだろ!」
嘘をついたって、ばれてるよって笑われた。
追い付けない一年が悔しい。
あいつは中学生。
俺は小六。
お題:
「夕方の階段」で登場人物が「嘘をつく」、「西瓜」という単語を使ったお話を考えて下さい。
【66】
早朝の海辺を歩くと波の音だけが体を包んで、目を伏せればゆっくりと海の底へ沈んでいくような感覚に囚われる。
歌声に誘われて溺れた男達が、人魚のその鱗も美しい下半身を枕にして横たわるのが見えた。
髪をすくたおやかな指に、彼らは至福を感じるだろうか。
お題:
「早朝の海辺」で登場人物が「溺れる」、「枕」という単語を使ったお話を考えて下さい。
【67】
星が降る夜に君を迎えにいくよ。
この街でそんなの無理だって?
本当にそう思う?
みんなが必要最小限の電気を残してあとは消す夜があるかもしれないよ。
もしそんな夜があったら、君が見たこともないほどの星を君と一緒に見たいんだ。
だから、その時は僕にさらわれてくれますか?
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「主様は化け猫でありんすか」
花魁が大して驚かなかったんで、逆に僕の方が肩透かしを食った気がした。
「それだけ?」
少し不満げに言うと、彼女は綺麗に笑んだ。
「苦界では、あやかしよりも人間の方がよほど恐ろしゅうございますよ」
戦場に居るような壮絶さを持った笑みだった。
【63】
「何を探しているの?雨が降りそうだよ」
薄暗くなってきた神社の境内に一人残って一生懸命何かを探してる君に声をかけた。
「お守り、落としたの」
泣きそうな君の顔に胸が痛んだ。
ごめんね。それ、僕が拾ったんだ。
君に話しかけたくて、すぐには返せなかったんだ。
お題:
「夕方の神社」で登場人物が「探す」、「雨」という単語を使ったお話を考えて下さい。
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「これはゲームだよ」
くすくす笑いながら言うと、階段の少し上に立った彼女は怪訝そうな顔をした。
僕が通せんぼしていたから。
「僕はココをどかない。どうする?」
ちょっと困らせたかっただけだったのに、まさかにっこり笑って僕の腕の中に落ちてくるなんて。
お題:
「昼の階段」で登場人物が「選ぶ」、「ゲーム」という単語を使ったお話を考えて下さい。
5ツイートSSを書いたので(別記事の「アカシックレコード」)一本だけでした。

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延べられた床は夜の空気に少し冷えていた。
そのひんやりとした感触を少し湿り気のようにも感じながら体を横たえると、疲れきった体は途端に睡魔に襲われる。
明日の剣術の試験はなんとしても受からなければ。
呟きが闇に零れる。
この時のために生きて来たのだから。
お題:
「夜の床の上」で登場人物が「感じる」、「試験」という単語を使ったお話を考えて下さい。
【59】
ゆるゆると過ぎる日曜の午後。
やることが見つからない、というよりも、なにもしたくない。
でも、何もしないとそれはそれで余計なことを考えて憂鬱になる。
雨が降る前の空のように曖昧な気持ち。
しまいには布団に突っ伏して目を閉じた。
ああ、猫になりたい・・・。
【60】
僕は嘘つきだ。
文章を書く人間はみんな、嘘つきなんだ。
きれいな嘘。
悲しい嘘。
ありもしない気持ちの羅列。
絵空事のシチュエーション。
そこに混ぜたほんの少しの「本当」を悟られないように、幾重にも嘘で覆う。
僕は今日もここで嘘をつく。
嘘に隠れて「本当」を吐き出す。

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【55】
僕らは多分、馬鹿みたいにハイになっているんだと思う。
夕方、ホテルの部屋に入った途端、まず押し入れを開けて枕を取り出した。
そして飛び交う枕。
普段はめんどくさいとかかったるいとかが口癖なのに、壊れたように笑いあう、僕ら。
修学旅行、恐るべし。
お題:
「夕方のホテル」で登場人物が「笑い合う」、「枕」という単語を使ったお話を考えて下さい。
【56】
半袖。
日射し。
草いきれ。
茹でたトウモロコシ。
君の額に光る汗。
蚊取り線香の匂い。
いつの間にか近づいている、夏の気配。
・・・ねえ、まだ六月だって、知ってる?
【57】
まだ夜明け前。
ベランダに出て、うっすらと白み始めた空に手を伸ばす。
消えていく星と手を繋ぐように。
遥か遠くにいる君と手を繋ぐように。
ねえ、君はどうしてる?
君の夢に僕はいるかな?
起こして聞いてみたい思いを、苦笑して風に散らした。
お題:
「早朝のベランダ」で登場人物が「手を繋ぐ」、「星」という単語を使ったお話を考えて下さい。