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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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 【630】

 屋敷の最奥に忘れられし鏡。
 布をかけられたまま磨く者も映すものもなく、動かぬ時間を数えることすらないままに、朽ちていくのだと諦めて。
 この身が物であるならば、何故虚しさを感じるのか。
 ふとそんな思いが眠りの合間に陽炎のように立ち上っては、答えをつかむ前に消えていく。
 だから、突然吹きつけた風も、なにかの幻のように思っていた。
 布越しにきらめきを感じ、風に布が吹き払われる。
 開けた視界に映った部屋は記憶よりも古びて、それでも開け放たれた襖から差し込んでくるそれが、日の光であると、やっと気付いた。
「意外と物が残ってるもんだな。お袋の道具かな」
 そう言いつつ振り返った浪人風の男の言葉で、彼が持ち主の息子であると気付く。
 すっかり大人になってはいたが、確かに笑んだ目元に面影が残っていた。
 この身に姿を映しては、はしゃいでいた子供。
 時間が動き出す。懐かしさが溢れ、同時に自分がどれだけ孤独だったのかを悟る。
 その、もう二度と味わいたくない虚無の時に体が震える。
 だから、彼が近づいた時、それを伝える姿を欲した。
「・・・もう一人にしないで」
 彼の手をつかむ自分の白く細い指が見える。
 こちらを驚いて見つめる彼の目に、泣きそうな少女の姿が映っている。
 それは、初めて見る自分の姿だった。


お題:「屋敷」、「鏡」、「浪人」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578

初めて人の姿になった鏡の付喪神。


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自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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