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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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 【629】

 山あいの隠れ里では、早朝、とろりと濃い霧が村を包み込む。
 俺はその霧に濡れるのもかまわず、大きな枇杷の木の根元に寝転んでいた。
 見上げれば、寒空の下でも健気に枇杷の花が咲いている。
 それはまるで霧をそのまま固めたように白く可憐で儚げに見える。
 だが、それは寒さをものともせず、目立たないがしたたかに咲き誇り、やがて温かな太陽の色の実を成すのだ。
「・・・まるであいつのようだな」
 ぽつりと我知らず零れた声が合図であったかのように、霧を裂いて小柄が飛んできた。
 それを右手を軽く持ち上げ、指の間にしっかりと挟んで止める。
 まったく。
 この霧の中をわざわざ出迎えに来てやったのにこの仕打ちだ。
「帰還の挨拶にしちゃ、あぶねえじゃねえか」
 霧の向こうにそう声をかけると、旅姿のあいつが姿を現した。
 俺の指にはさまれた己の小柄を見て、軽く眉をひそめる。
「また止められた」
「当たり前だ。止めねば、怪我をするだろうが」
 俺が苦笑して小柄を返してやると、悔しそうな表情でそれを受け取る。
 幼い頃にした「いつでも一本取りに来い」という約束を、ことあるごとに実行するのは困ったものだ。
 だが。
「おかえり」
「ただいま」
 昔は泣き虫で鈍くさかった幼馴染は、もういっぱしの忍びの顔をしていた。


お題:「霧」、「小柄」、「枇杷」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
今日はあやかしではなく、忍風味です。
お題の「枇杷」を調べたら、花期は冬だそうなのでそこから連想してみました。


ご訪問、拍手ありがとうございます。
瑠璃丸に「おすわり!」って言いたいと聞いて、ついボットの反応語に「おすわり」を入れてしまいました(^^;)。


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オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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