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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【528】

「姫君のご機嫌がうるわしくないとか?」
 花街一の楼閣の太夫を相手に、その男は軽い口調で言うと翡翠の瞳を細めて笑んで見せる。
 その余裕が面白くなくて、夕菊は相手の額を扇子でぴしゃりと叩いた。
「いてっ」
 ひどいな、と額を押さえる男に、夕菊は冷たい視線を浴びせる。
 この、一番人気の自分を散々待たせておいて、開口一番の台詞がそれか。
 もちろん、夕菊には、それが男の照れ隠しであるとわかっている。
 猫のように本心を見せるのが苦手で、その気になれば甘い台詞などいくらでも吐くくせに本気で惚れるのはただ一人。
 ふわふわと浮き草のように見えて、奥の奥に氷のような孤独を抱えている、そんな男なのだと知っている。
 だが、それを暴くのも無粋。
 しかし、その軽い言葉にのるのは不本意。
 だから夕菊はわざと呆れたふりをする。
「今度そんな口をきいたら三味線にしますえ」
 この男にだけは甘い言葉も、世辞も、花魁の手管も使わない。
 本気で惚れた相手に対する、それが夕菊のけじめだった。
 男にはそれがわかっているのか、ただ苦笑をうかべ、そっと腕を伸ばすと夕菊を抱き寄せた。
 額をその首筋にうずめ、表情を隠す。
 そして、かすかに震える声でぽつりと「遅くなってごめん」と囁いた。


お題:「花街」、「翡翠」、「姫君」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
「運命の相手」が再開した時花魁だったら。
一度目は知らずに会って、そこで気付いたら、二度目はきっと悩んだりしてなかなか会えないのではないか。
そんなシチュエーション。
ちなみに、この男は翡翠といいまして、猫又です。
それをわかっているので、夕菊は「三味線にする」と言っているのですねw


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南天 HOME 烏と椿

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自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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