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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【529】

「もうこんな時期なのか」
 庭に南天の実が赤く色づいているのを見て、彼はうっすら微笑んだ。
 病を得てから縛り付けられている部屋だが、襖をあければ庭が見渡せる。狭くとも、四季折々の表情を見せる草木は、彼の安らぎとなっていた。
 彼は上着を羽織ると庭へ出た。
 たわわに実をつける南天を一枝だけ折り取って、部屋へ戻る。
 それだけで薄くなった胸は締め付けられ、息が荒くなる。
 動かないことで足も腕も筋肉が落ち、始終浮かされている熱で節々が痛む。
 それでも彼は微笑んで、畳に張り付いてしまったような薄い布団に戻ると、文箱から久しく使っていない組紐を取り出した。
 それは髪の結い紐として長年使っていたものだった。
 病で臥せるようになってからは、髪を結うこともなくずっとしまってあったものだ。
 それを南天の枝にくるりと巻いて蝶結びにする。
「うん、似合う」
 白に青を混ぜた柔らかな色合いの組紐は、まるで羽衣のように淡く南天を彩った。
「これで、いい」
 枝を枕元に置いて、彼は力尽きたようにぱたん、と布団に転がる。
 紐をくれたときの照れたような笑みが、脳裏に浮かんだ。
 お返しもしないうちに臥せってしまったから、心残りだったのだ。
 せめてこの枝を君に。
 きっとこの南天が枯れる前に、君はこれを見つけるだろう。
「・・・あまり、君が泣かないといいけど・・・」
 彼はそう呟いて、ゆっくりと目を伏せた。


お題:「畳」、「組紐」、「南天」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578


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一番の薬 HOME 久方の逢瀬

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自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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