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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【530】

 彼は菅笠をかぶり、大きな木の箱を背負ってやってくる。
 頼まれればついでに何でも持ってきてくれるが、本業は薬屋だ。
「いい薬が手に入った。今度は絶対に治る」
 商人にしてはぶっきらぼうな物言いで、どかりと床に木箱を下ろすと、薬屋は箱からいくつかの包みを取り出した。
「わざわざありがとう」
 布団から身を起こしてそう言うと、彼は不機嫌そうな顔をますます不機嫌そうに歪ませる。眉間に深いしわが寄っているのがおかしくて思わず笑うと、薬の包みが飛んできた。慌てて受け取った私に、薬屋の鋭い声が追い討ちをかける。
「笑っている場合か!この前はもう少し顔色が良かったろう。不摂生をしているのではないか?だいたいなんだ、夏には元気になって月見の宴には参加するとか大口をたたいておいて、風邪で寝込んで部屋も出られなかったと聞いたぞ!」
「・・・ごめん」
 そうだった。
 夏に彼が来た時に、月見の宴までには床上げすると約束していたのだった。
 結局病は休みなしに私を訪れ、月見はおろか初冬の今まで床を上げる暇もなかったのだけれど。
「もうお前のそれは聞き飽きた」
「え?」
「目を離すとすぐに無理をして倒れる奴など、放っておけるか。治るまで、俺がお前を見張っておくからそう思え!」
 一息に言い切る薬屋を、私は呆然と見つめた。
「それはつまり・・・当分ここに居てくれるということ?」
「それ以外に聞こえたのなら、耳までおかしくなったということだな」
 そっぽを向く彼の頬が少し赤い。
 私は嬉しくて、布団に顔を半分隠して呟いた。
「じゃあ、治らなかったらずっと居てくれるのかな・・・」
「いいか!治らないでいいとか馬鹿なことを考えたら、薬は五割増で苦くしてやる!」
 途端に罵声が飛んできて、私はひゃあと布団にもぐりこんだ。
 

お題:「月見」、「薬」、「商人」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578


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宵月楼 店主
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非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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