宵月楼-しょうげつろう-
あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。
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【492】
「なんだい、坊。食いたいのかえ?」
甘い匂いに誘われたのか、馴染みの甘味屋の前で立ち尽くしていた男の子に、琥珀は声をかけた。
男の子ははっと我に返って、琥珀を大きな目で見つめた。
「・・・おあしが、ないの」
着ているものの良さから大店の子供のように見えるが、そばに居るはずの子守もお付きも見当たらない。
はぐれたか、勝手に出てきたか。
どちらにせよ、こんないい身なりでうろついていれば、あっという間に面倒に巻き込まれるのは目に見えている。
幸い、足元や着物はそれほど汚れてはいない。
あまり遠くから来たのではないと見当をつけて、琥珀は店ののれんを手でちょいと持ち上げる。
「おう、ぜんざいと団子をくんな」
店の奥に声をかけると、小柄で人の良さそうな男が腰をかがめて出てきた。
「あれ、狐の。今日は女の子じゃなくて男の子連れかい?」
「ここに一人で突っ立ってたんだよ。おっつけ誰か迎えに来るだろうから、表に居させてやってくんな」
「へええ。また、おせっかいの虫が出たねえ」
「・・・うるせえよ」
口をゆがめる琥珀に、男は笑って、腰をかがめたまま店の奥に引っ込むと、ぜんざいの椀と団子を一皿持ってきた。
「ごゆっくり」
「ありがとよ。さあ、坊。ここに座んな」
茶店の常で、店の表にも床机が置いてある。そこに座らせて、琥珀はぜんざいの椀を子供に渡した。
「ありがとう」
にっこり笑って子供はそれを一口食べた。そして、大きな目を丸くする。
「おいしい!」
普段からいいものを食べているだろうが、やはりここのぜんざいは別格らしい。
琥珀は笑みを浮かべてあんこの乗った団子を口に放り込んだ。
「うまいな」
わかっていたのに思わず呟いてしまい、とても迷子には見えない嬉しそうな子供と、顔を見合わせて笑った。
美味しいものを食べていれば、たいていのことは何とかなる気がするものだ。
小豆洗いは、今日もいい仕事をしている。
お題:「大店」、「ぜんざい」、「狐」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
お久しぶりの小豆洗いの甘味屋です。
腰をかがめているのは、小豆洗いだからなんです。
ほら、たいてい前かがみになって小豆を洗っているじゃないですかw
ちなみに小豆洗いが琥珀を「狐の」と呼んでいるのは、彼が妖狐だからです。どうも彼の面倒見の良さとおせっかいはすっかり知れ渡っているようです。
以前の小豆洗いの甘味屋
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「なんだい、坊。食いたいのかえ?」
甘い匂いに誘われたのか、馴染みの甘味屋の前で立ち尽くしていた男の子に、琥珀は声をかけた。
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「・・・おあしが、ないの」
着ているものの良さから大店の子供のように見えるが、そばに居るはずの子守もお付きも見当たらない。
はぐれたか、勝手に出てきたか。
どちらにせよ、こんないい身なりでうろついていれば、あっという間に面倒に巻き込まれるのは目に見えている。
幸い、足元や着物はそれほど汚れてはいない。
あまり遠くから来たのではないと見当をつけて、琥珀は店ののれんを手でちょいと持ち上げる。
「おう、ぜんざいと団子をくんな」
店の奥に声をかけると、小柄で人の良さそうな男が腰をかがめて出てきた。
「あれ、狐の。今日は女の子じゃなくて男の子連れかい?」
「ここに一人で突っ立ってたんだよ。おっつけ誰か迎えに来るだろうから、表に居させてやってくんな」
「へええ。また、おせっかいの虫が出たねえ」
「・・・うるせえよ」
口をゆがめる琥珀に、男は笑って、腰をかがめたまま店の奥に引っ込むと、ぜんざいの椀と団子を一皿持ってきた。
「ごゆっくり」
「ありがとよ。さあ、坊。ここに座んな」
茶店の常で、店の表にも床机が置いてある。そこに座らせて、琥珀はぜんざいの椀を子供に渡した。
「ありがとう」
にっこり笑って子供はそれを一口食べた。そして、大きな目を丸くする。
「おいしい!」
普段からいいものを食べているだろうが、やはりここのぜんざいは別格らしい。
琥珀は笑みを浮かべてあんこの乗った団子を口に放り込んだ。
「うまいな」
わかっていたのに思わず呟いてしまい、とても迷子には見えない嬉しそうな子供と、顔を見合わせて笑った。
美味しいものを食べていれば、たいていのことは何とかなる気がするものだ。
小豆洗いは、今日もいい仕事をしている。
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お久しぶりの小豆洗いの甘味屋です。
腰をかがめているのは、小豆洗いだからなんです。
ほら、たいてい前かがみになって小豆を洗っているじゃないですかw
ちなみに小豆洗いが琥珀を「狐の」と呼んでいるのは、彼が妖狐だからです。どうも彼の面倒見の良さとおせっかいはすっかり知れ渡っているようです。
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【491】
「うわ、寒っ!」
布団の外に放り出していた手が冷たくて目が覚めた。
気がつけばこんなに空気が冷たくなってたんだ。
上着を引っ張り出して肩にひっかけ、やかんを火にかける。
そういえば、冷たいものを飲むこともなくなって、気付けばあったかいものを作ってる。
「そうか。もう秋なんだな」
しってる?
何も言わずに旅立つ僕に、君は何も聞かずに「いってらっしゃい」と送り出してくれた。
その言葉が、僕の背中を今も押してくれてるんだ。
離れていてもなくならないものがあるってそう思わせてくれたから、離れても頑張れるって思えたんだ。
だから、僕はもう少しここで頑張ってみるよ。
いつか、君に胸をはって「ただいま」って言えるように、できることを精一杯するよ。
僕は要領がよくないから、きっと、いくつも季節が過ぎちゃうだろうけど。
「さ、今日も頑張るか!」
僕は青い空に思い切り伸びをした。
君のところも晴れてるといいな、と思いながら。
お題:「いってらっしゃい」
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布団の外に放り出していた手が冷たくて目が覚めた。
気がつけばこんなに空気が冷たくなってたんだ。
上着を引っ張り出して肩にひっかけ、やかんを火にかける。
そういえば、冷たいものを飲むこともなくなって、気付けばあったかいものを作ってる。
「そうか。もう秋なんだな」
しってる?
何も言わずに旅立つ僕に、君は何も聞かずに「いってらっしゃい」と送り出してくれた。
その言葉が、僕の背中を今も押してくれてるんだ。
離れていてもなくならないものがあるってそう思わせてくれたから、離れても頑張れるって思えたんだ。
だから、僕はもう少しここで頑張ってみるよ。
いつか、君に胸をはって「ただいま」って言えるように、できることを精一杯するよ。
僕は要領がよくないから、きっと、いくつも季節が過ぎちゃうだろうけど。
「さ、今日も頑張るか!」
僕は青い空に思い切り伸びをした。
君のところも晴れてるといいな、と思いながら。
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【490】
「日本刀か」
俺の持つ長い包みを一瞥し、彼はふわりと笑って見せた。
「気品があって、鋭くて、飾り気がない。君に似合いの武器だね」
緊張感などない口調でそう言う彼の背後で、カナカナとヒグラシの遠い声がする。
今度の夏祭りに縁日でも行こうか、とか、花火大会があるらしいよ、と言っているようなのどかさだ。
だが、気を緩めてはいけないことを俺は知っている。
今、この街に居るのは、互いを殺しあうことを定められた者だけなのだ。
「言いたいことはそれだけか?」
包みを解き、鞘から刀を抜き放つ俺を見て、彼の瞳が少しだけ寂しげに細められた。
もう、子犬のようにじゃれていた幼い頃は帰ってこない。
「そうだね、始めようか」
彼は頭につけていた狐の面で表情を隠し、懐から札を取り出した。
互いの殺気がぶつかる。
「覚悟」
さっきとはまるで違う温かみを失った声が、面の奥から響いた。
感情をそぎ落としたはずのその声は、何故か泣いている様に聞こえた。
お題:「縁日」、「日本刀」、「泣く」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
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「日本刀か」
俺の持つ長い包みを一瞥し、彼はふわりと笑って見せた。
「気品があって、鋭くて、飾り気がない。君に似合いの武器だね」
緊張感などない口調でそう言う彼の背後で、カナカナとヒグラシの遠い声がする。
今度の夏祭りに縁日でも行こうか、とか、花火大会があるらしいよ、と言っているようなのどかさだ。
だが、気を緩めてはいけないことを俺は知っている。
今、この街に居るのは、互いを殺しあうことを定められた者だけなのだ。
「言いたいことはそれだけか?」
包みを解き、鞘から刀を抜き放つ俺を見て、彼の瞳が少しだけ寂しげに細められた。
もう、子犬のようにじゃれていた幼い頃は帰ってこない。
「そうだね、始めようか」
彼は頭につけていた狐の面で表情を隠し、懐から札を取り出した。
互いの殺気がぶつかる。
「覚悟」
さっきとはまるで違う温かみを失った声が、面の奥から響いた。
感情をそぎ落としたはずのその声は、何故か泣いている様に聞こえた。
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【489】
朝焼けの空を映して紅に染まる川の中ほどで、ぽこりと水面に河童が顔を出した。
少し先の船着場が妙に騒がしくて、目を覚ましてしまったのだ。
見れば、こんな時間から人が何人か船を用意している。
その中央にいるのはこのあたりの下級武士の倅で、随分と河童とも遊んだものだった。
「最近見ないと思ったら、もう城勤めの歳なのか」
見ない間に顔は少々大人びたが、初めて着たのか身につけた裃がどこか似合わない。
「・・・人間はすぐに大きくなって、つまらねえな」
河童は呟いた。
だが、船が川面を滑り出すと、馴染みの顔の晴れの日を他のあやかしの悪戯で台無しにされぬよう、河童はこっそりと船を追いかけた。
お題:「朝焼け」、「裃」、「河童」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
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朝焼けの空を映して紅に染まる川の中ほどで、ぽこりと水面に河童が顔を出した。
少し先の船着場が妙に騒がしくて、目を覚ましてしまったのだ。
見れば、こんな時間から人が何人か船を用意している。
その中央にいるのはこのあたりの下級武士の倅で、随分と河童とも遊んだものだった。
「最近見ないと思ったら、もう城勤めの歳なのか」
見ない間に顔は少々大人びたが、初めて着たのか身につけた裃がどこか似合わない。
「・・・人間はすぐに大きくなって、つまらねえな」
河童は呟いた。
だが、船が川面を滑り出すと、馴染みの顔の晴れの日を他のあやかしの悪戯で台無しにされぬよう、河童はこっそりと船を追いかけた。
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【488】
「あの鼓は!」
月下に突如響いたその鋭い音色に、花鬼は我知らず走り出していた。
幼い日、一度だけ迷い込んだ人間の宿場で、自分をかばってくれた人がいた。
助けだし、飯を食わせ、あまつさえ風呂に放り込み、そして、月明かりを浴びてその美しい音色を聞かせてくれた。
それに合わせて舞って見せれば、笑顔で誉めてくれた。
あとで知ったのだが、鼓の名手であるがゆえに、偉い人に請われては鼓を披露するため旅から旅の生活だということだった。
だから、もうこんな辺鄙なところには立ち寄らぬだろうと、思っていたのに。
あの日、自分だけをそばに置いて鼓を打っていたあの丘にたどり着くと、その人は月明かりを浴びて静かに笑った。
「私の鼓で舞うお前が忘れられなくてね」
「我も、その音色が恋しかった」
まるで恋情を告白するようにやっとそれだけを口にして、花鬼はほろほろと涙をこぼした。
お題:「宿場」、「鼓」、「笑う」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
題名は適当です。ますます作成能力が落ちていて、浮かんでこない(^^;
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「あの鼓は!」
月下に突如響いたその鋭い音色に、花鬼は我知らず走り出していた。
幼い日、一度だけ迷い込んだ人間の宿場で、自分をかばってくれた人がいた。
助けだし、飯を食わせ、あまつさえ風呂に放り込み、そして、月明かりを浴びてその美しい音色を聞かせてくれた。
それに合わせて舞って見せれば、笑顔で誉めてくれた。
あとで知ったのだが、鼓の名手であるがゆえに、偉い人に請われては鼓を披露するため旅から旅の生活だということだった。
だから、もうこんな辺鄙なところには立ち寄らぬだろうと、思っていたのに。
あの日、自分だけをそばに置いて鼓を打っていたあの丘にたどり着くと、その人は月明かりを浴びて静かに笑った。
「私の鼓で舞うお前が忘れられなくてね」
「我も、その音色が恋しかった」
まるで恋情を告白するようにやっとそれだけを口にして、花鬼はほろほろと涙をこぼした。
お題:「宿場」、「鼓」、「笑う」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
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HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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