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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【543】

 気がつくと、そこは小舟の中だった。
 水の音と、きいきいという櫂の動く音がする。
 ゆらゆらと揺られながらうっすらと目を開けて、彼女は船尾で櫂を操っている男を見上げた。
 まだ夜だった。
 星明かりではやはり顔は良く見えないが、動きに合わせて無造作に首の辺りで結わえただけの髪が踊るのが見えた。
 その揺れて時折風になびく髪がきれいだと思った。
「ああ、気がついたか?」
 笑みを含んだ声が降ってきて、彼が気付いていると知った彼女は、体を起こすと座りなおした。
 逃げる気はない。
 泳ぐことは出来ないのだから、水に入るのは死ぬようなものだし、それならばもっと切羽詰ってからでも遅くはない。
 ただ、自分はどうなるのか、それが知りたかった。
「ここはどこか聞いてもいいですか?」
「すまねえな。それは言えねえ。だが、三途の川の渡し舟じゃないことは確かだ」
 冗談めかしているが、当分は生かされているということなのだろう。
「私は身寄りもなく、お金も持ち合わせていません。もしお金が目当てでしたら、満足するほどはお渡しできないと思います」
「知っている」
「知ってる?」
 驚いて目を見開くと、男は苦笑して河岸に舟を寄せた。流れないように固定させてから、彼女の前にどかりとあぐらをかいて座る。
「ああ、知っている。あんたが一人で暮らしていることも、人には言えぬ力を持っていることも、その力を使っても代価は受け取ろうとしないことも。だから、裕福でないこともわかっている。若菜殿」
「あのようなひと気のない場所で行き会ったのは、偶然ではなかったのですね」
 ため息をつくと、若菜はそっと目を伏せた。
「そうだな。俺の仕事は、あんたを調べ、待ち伏せてかどわかすことだったからな。あんたの持つ、先を見通す力。それを主が欲しがっている。あんたをかどわかし、強引に婚姻を結び、一生その力を自分のために使わせる、そういう計画だ。さっきは三途の川じゃねえと言ったが、あんたにとっちゃ似たようなものかも知れねえ」
 若菜はため息をついて、口調のわりには優しい表情を浮かべている男を見つめた。
「自分が絡むと、先を見通すことは出来ません。でも、いつかこうなるのではないかと思っていました」
 人は誰しも未来を知りたがる。特に欲が絡む出来事ならなおさらだ。
 そして、いくら隠していても、勘が鋭いと誤魔化しても、噂は流れるものなのだ。
「特に身を守る術も持たない女の身ですから、自害する他、逃れる術はありません。でも、貴方に止められてしまうでしょうね」
「物分りが良すぎるのも、損だな。例えば、こんな未来はどうだい?」
「え?」
 聞き返す前に、体がふわりと浮いた。
 気がつけば、男の肩に担がれている。そして、目の前に刀が差し出された。
「鞘、握れ」
 呆気にとられ、言われるがままに鞘をつかむと、男は空いている片手でその鞘から刀を引き抜いた。若菜の手には殻の鞘だけが残る。
「何を?!」
「あんたをあの強欲じじいに渡すのが、ちょいと惜しくなったのさ。俺は元々盗人だからな。このままあんたを盗むことにする」
 そして、闇に向かって彼は大声を張り上げた。
「そういうことだからよ、このかまいたちの十夜に斬られてもあのじじいに義理立てしようって奴はかかって来な!」
「裏切るのか!」
「させぬぞ、十夜!」
 どこに潜んでいたのか、幾人もの影が現れる。
「やっぱり監視してやがったか。若菜殿、その鞘落とさないでくれよ?」
 十夜と名乗った男は、そう言うと、若菜の返事も聞かずに走り出した。
 女一人担いでいるとは思えない身のこなしで、襲い掛かる影をなぎ払っていく。
 若菜は鞘を彼の剣の邪魔にならぬようしっかりと握って、何故か彼の言いなりに担がれたままになっていた。
 自分の未来は見えない。
 だが、強引とも言える力で流されていく自分の未来に不安は感じなかった。
 そして、彼が刀を振るうたびに揺れる髪がやはりきれいだと、何故かそんなことをぼんやり考えていた。


 お題:「渡し舟」、「鞘」、「婚姻」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
拍手ありがとうございます。
これの前の話で、娘さんかどわかされて、「えええ?」って感じだったので、続きを書いてみました。
どないでしょう?(^^)


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【542】

 三日月が空の端に引っかかっている。
 星も出ているが、やはり月が大きくないと夜は深くどこかに何かが潜んでいるような気がして、彼女はふるりと身を震わせた。
 本来ならこんな夜更けに外に出るつもりではなかったのだ。
 最近は物騒な噂が多いし、闇が深くなればあやかしも現れる。だが、少し遠い所に嫁いだ幼馴染の見舞いがことのほか長引いてしまったのだった。
「早く、帰ろう」
 呟いて、近道をしようと大通りから路地へ入る。
 しかし、その足がふと、止まった。
「誰?」
 目の前に誰かが立っていた。
 暗くて、提灯をかざしても顔は見えない。かろうじて着流しの男であることは見て取れた。
「すみません、通してください」
 男は路地の中央にたたずんでいた。脇をすり抜けるにもほとんど隙間はない。困った彼女の声に、ふっと笑う気配がした。
「なるほど、梅ほど香らず、桜ほど華麗ではないが、桃の可憐さを持つ、って感じだな。年頃の可愛い娘さんが供も連れずに外出とは、物騒じゃねえかい?」
「あの・・・」
「だから、こんな目に遭うんだぜ。すまねえな」
 気付いたら、すぐそばににやりと笑う男の顔があった。
 そして、首の後ろを軽く叩かれる。
 体から力が抜ける。
「あ・・・」
 崩れる自分の体が男に抱きとめられるのを感じた。
 倒れそうになった拍子に、懐から地面に小さな匂い袋が転がり落ちる。
 幼い頃、幼馴染と交換したそれに手を伸ばそうとして、彼女は闇に落ちていくように意識を失った。


お題:「三日月」、「匂い袋」、「桃」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
「かどわかし」とは誘拐のことです。
今日は頭が死んでいる・・・。
風邪ひいてて。
そのわりに日常雑記は書きまくりですが(^^;)。

拍手ありがとうございます。
そう、犬は大喜びしているよりも、ちょっとしょぼくれている時が可愛いと思います。
どちらにせよ、ストレートな表現をするイメージですよね。
要は、どちらも可愛い♪

あやかしbotでついのべをするのはどうなのかな、と自分でも思わないでもないのですが、現在本家のアカを鍵つきにしているので、ハッシュタグつけても見えないし、でも、月一のついのべデーくらいは参加したいし、で、時々そちらでついのべを落としてます。
創作にもbotにも中途半端ですが、まあ、当分はこの形式で。文句が来るほど見てる人もいないし(^^;)。
ちなみにbotは少しずつ言葉増やしています。
最近だと「かまいたち」と「豆腐小僧」が呼ばれると出てきます。あと、「雪」、「金平糖」、「卵」、「元気」なんかに反応するようになりました。
そのうち、説明ページにも付け加えておきますね。

ツイッターの鍵、なかなか外す踏ん切りがつかないな・・・(^^;)。


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【541】 

 朝は、コーヒーとパンと目玉焼き。
 ちょっと寝坊するからばたばたと急いで食べて、でも僕のご飯だけはちゃんと用意して、そして、僕を抱きあげて頬ずり。
 スーツに毛がついちゃうと後で困るから、僕はちょっと控えめに尻尾をよけて、鼻と鼻をくっつけていってらっしゃいの挨拶。
 僕を撫でる指先には、昨夜料理をしているときに包丁で切った傷。
 かっちりとしたスーツには不釣合いの可愛い絆創膏が貼ってあって、僕は思わずくすりと笑う。
 それがわかったのか、君はちょっと僕の額をつついた。
「笑うな」
 そして、大きなかばんを肩に掛ける。
「いってきます」
 いってらっしゃい。早く帰ってきてね。
 帰ってきたら、ちょっとだけでいいから遊んでね。
 約束だよ。
 ぱたん、とドアが閉まると、がらんとした部屋に僕だけが残された。
 君が帰ってくるまで、僕はまた一人で留守番。
 それが僕のお仕事だもの。ちゃんとできるよ。大丈夫。
 
 でもね、お昼寝の時、人間になって君を追いかけていく夢を見たよ。
 なれるかな。
 なりたいな。
 そして、君と手を繋いで歩くんだ。
 いつか。


お題:「久遠の今日のお題は『目玉焼き』『絆創膏』『約束』です。 http://shindanmaker.com/14509 #twnv_3
猫一人称は、なんだか書いてて楽しいです。


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【540】

 寂れた宿場の半分崩れたような旅籠とくれば怪談の舞台としてはうってつけである。しかもその一番奥、宿の主が使っていたらしい部屋には、妖しの力を秘めた一振りの刀が打ち捨てられているという。
 胡蝶(こちょう)は、漂うおどろおどろしい雰囲気に一瞬足を止めたが、すぐに唇をかみ締めてその旅籠に足を踏み入れた。
 ぎしぎしとなる廊下を進み、ふすまに手をかける。
 そっとひくと、その部屋の中央に、埃をかぶった刀があった。
「見つけた」
 呟いて、そばに膝をつくと、胡蝶はその埃を優しく払った。
「お前が炎将(えんしょう)?迎えに来たわ。お前が妖刀でも構わない。意に染まぬ使い方をしたなら、私を呪ってもいい。だから、それまでは私に力を貸して」
 囁きに、刀が淡く赤い光を帯びる。
 そして、胡蝶の目の前に、紅の衣をまとった青年が立っていた。
「その言葉、偽りではないな?」
 炎将の名にふさわしい赤い瞳が、胡蝶を鋭く射抜く。
 だが、胡蝶は、何故かその瞳が寂しげに揺らいだように見えた。
 長い孤独と、自由を奪われて人に使われる生き方を天秤に乗せ、迷うかのようだった。
「ええ。だから、私は貴方を縛らない。契約も、束縛も施さない。いつか、私を主と認める時まで」
 微笑む胡蝶に、炎将は一瞬ののち、頷いた。
「悪くない」
 ぽつりと呟いて、姿を消す。
 とりあえずの了承ととって、胡蝶は刀を両手で持ち上げ、かき抱いた。
「ありがとう」
 呟きに呼応するように、かたりとかすかな鞘鳴りがした。


お題: 「旅籠」、「妖刀」、「呪う」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578 #jidaiodai

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【539】

 長屋の空いていた部屋に、浪人が越してきた。
 奴はあまり多くない荷物を持ち込むと、さっさと自分が暮らしやすいように部屋を整えてしまう。
 今まで、近所の悪がきたちから逃げて昼寝をするのにちょうどよかったんだけど、ここも使えなくなるな。
 そう思いながら奴の脇をすり抜けようとすると、声が降ってきた。
「おや、先客がいたのか」
 僕が足を止めて見上げると、今気付いた、というように少し驚いた顔で奴が僕を見下ろしている。
 失礼な奴だな。僕、さっきまで部屋の隅で昼寝してたんだけどね。
「どうした?俺が越してきたので不機嫌な様子だな」
 まあ、盗人とまでは言わないけど、追い出される気分ではあるよ。
「人の言うことがわかっているような顔だな」
 奴は笑うと、僕のそばにしゃがみこんだ。
「この部屋はお前が先に使っていたようだし、追い出すのは俺としてもあまり気分のいいものじゃない。どうだ、お前さえ良ければ、このままここに住んでみては」
 この男は、馬鹿だろうか。
 僕は呆れた。
 野良猫が勝手に入り込んでいたと、大家に食って掛かってもおかしくないというのに、一緒に住んでみないかだって?
 でも、僕はなんだかそのまま出ていけなくて、尻尾を一振りするときびすを返して部屋に戻った。
 まあ、雨露をしのげる場所が確保できるのはいいと思えたんだ。
 それに、大人なら悪がきたちのように僕を構いすぎることもないだろうし。
 ねえ、ご飯ももちろんつくんだよね?
 僕の期待するような視線に、奴は苦笑した。
「わかったよ。贅沢は言うなよ?」
 鼓が打てば響くように、何故か奴にも僕の言いたいことがわかるみたいだった。
 うまくやっていけそう。
 僕は了承の代わりに尻尾をもう一振りすると、昼寝の続きをすることにした。


お題: 「長屋」、「鼓」、「盗人」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
鼓が無理矢理でしたね(^^;)。
もっと長ければ、無理なく出せたのかもしれません。
力不足を痛感です・・・orz


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宵月楼 店主
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オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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