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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【609】

憎まれても君の記憶の中に僕がいるのと、憎しみも僕も君の中から消えて君が穏やかに過ごせるのと、僕はどっちを望んでいるんだろう。忘れないでほしい。忘れてほしい。相反する心が砕けて、いつか粉々になった欠片が君に届いたとき、それは君を苛むだろうか。


【610】

見上げても、見えないと思うよ。でも僕はいつでもここにいる。どこかにいると信じてくれたら、きっと僕の手はいつか君に届く。それを夢見て微睡む僕は、闇夜の新月。君から見えない朔の月。


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【608】

 多分それは気まぐれだったんだと思う。
 酔っぱらった君の目に、夕方から降り続いた雪がとてもきれいに映ったこととか。
 月の光がたまたま雲の切れ間から降り注いだこととか。
 泣くこともできずにお酒を飲んで、ちょっぴりヤケ気味だったりとか。

 その原因とか。

 色々重なった末の気まぐれだったんだ。
 そんなに大きくないけど、君は二つの雪玉を作り、それを重ねて、木の枝で手を作り、葉っぱで目を作ってくれた。
 そして僕は生まれたんだ。
 君は少し気がすんだのか、微笑んで僕の頭をとんとんと叩くと部屋に入った。
 少し涙がにじんだ笑顔に、僕はそっと夜空を見上げる。
 もう雪はやんで、雲はどこかに飛んでいった。
 月と星が、特別な夜のイルミネーションになる。
 知ってる?
 今夜は僕にも少しだけ魔法が使えるんだ。
 だってクリスマスイブだもん。
 大切な人に、贈り物をあげる夜でしょ?
 僕を作ってくれた君に、僕は魔法をかける。
 大切な人との別れを乗り越える力と、悲しみに沈む君におだやかな眠りを。
 そうやって魔法を使っても、明日の朝には普通の雪だるまに戻る。
 もしかしたらすぐに溶けちゃうかもしれない。
 だから明日の朝の君を見ることはできないけど、でも、きっと僕の願いは叶うよ。
 だって雪でできてる僕は冷たいはずなのに、君を思うとこんなにあったかい気持ちになる。
 僕を作ってくれてありがとう。
 だから、明日は笑ってね。


お題:Christmas
素敵なクリスマスをお過ごしください。


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【607】サンタの娘

「クリスマスなんてつまんない」
娘はご機嫌斜めだ。
なぜならパパがサンタだから。
よその子にプレゼントを配るのに忙しくて、家に帰れもしない。
「ごめん」
困った顔をした俺を見て、娘は抱きついてきた。
「でもサンタのパパはかっこいいよ」
夜が明けたら一緒にケーキを食べような。


サンタがおじいさんじゃなくて(おじいさんに徹夜は酷だしw)ちゃんと職業としてやってたら、きっと子供は最高につまんないけど、最高に誇らしいだろうな、と思って(^^)。
パパは娘にめろめろなのがいいですよね。


【608】年甲斐もなく

「今さらクリスマスって年かよ」なんて言ってたくせに、実は24日に休むためにがんばって仕事を終わらせたのは、知ってるけど知らないふりをしてあげる。
家で鍋をつつく色気のない夕飯に持ってきたケーキが、大分前から予約してあったのもね。
メリークリスマス!


おじさんだって、うきうきするんです。きっと。


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【606】

 夜も遅い、船宿で船でも借りてやろうと言う旦那衆の申し出を断ったのは、軽率だったかも知れない。
 宴に呼ばれて三味線を弾くのが仕事であれば、夜道には慣れている。
 暗い怖いと言っていては、仕事になりはしないのだ。
 しかし今夜は、なぜか背筋が冷たく感じた。
 じっとりといくつもの視線が自分を見ているような感覚に、足が震える。
 そして、赤い月が雲間から顔を出した時、不気味な影たちが自分を取り囲んでいることを知った。
 それらは血に飢えた目をしていた。
「・・・ど・・・して・・・」
「ほおずきは、鬼の灯火と書くであろう?」
 かすれた声に応じたのは、若い男の声だった。
 気づいたときには、腕に抱えていたほおずきを取り上げられていた。
 手から奪われたほおずきは、名の通りぼんやりと赤い光を放っている。
「このようなものを持っておっては、要らぬあやかしを呼び寄せようぞ」
「さっきまで、そんな風に光ってはいなかったわ」
「これは我が手にした故、そなたにも見えるほど光が強くなったにすぎぬ。しかし、あやかしにとってはこれはよく見通せる灯火となる。光に虫が寄せられるように、やつらは惹き付けられるのだ」
「あなた、なに?」
 かざした提灯の光に浮かび上がったのは、長い髪を風になびかせた青年だった。その頭には細く優美な角が二本生えていた。
「鬼?」
「ああ、そうだ。我が追い払ってやろうか?代償は、そうだな、そなたの懐に入っている包みで良い」
「懐の包み?」
 そういえば、と取り出す。それは店の主人に持たされた饅頭の包みだった。
 恐る恐る差し出すと、鬼は嬉しそうにそれを受け取った。
 包んである竹の皮を開けて、ひとつ頬張る。
 嬉しそうに目を細めたところを見ると、好物であるらしい。
 鬼はもうひとつくわえると、周りを取り囲んだあやかしたちにほおずきを向けた。
「我を相手にするのは、あまり賢いとは言えぬぞ」
 そこに潜んだ殺気に、ざわりと空気が揺れる。
 気づけば、あやかしたちは姿を消していた。
「あの、ありがとうございます」
「いや、うまい饅頭が食えた」
 鬼は童のようにふわりと笑う。
 しかし、次の瞬間、その姿はどこにもなかった。
 ほおずきも、なくなっていた。
 すべてが幻だったかのような唐突さにしばし呆然とする。
 だが、地面に落ちた竹の皮が目に入って、彼女は思わず微笑みを浮かべた。
 確かに鬼はいたのだ。
 今度あったら、もっと美味しい饅頭をご馳走しよう。


「船宿」、「饅頭」、「鬼灯」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578 #jidaiodai
冬至です。
かぼちゃを食べて、柚子湯には浸かりましたか?


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【605】

 街道を進む嫁入り道中は、隣の国から姫様が嫁いで来たのだという。
 お琴は、その行列を山から見ながら、少し唇を尖らせた。
「おかしらぁ、お嫁さんなんか見えねえよ!おっさんばっかりじゃないか!」
 短い着物のお琴は、木に登って手を目の上にかざしている。
 その姿はまるで猿だか、花嫁道中の噂を聞きつけてどうしても見たいと駄々をこねたあたりは一応女だったのだな、とぼんやりと考えていた九郎は、その言葉に苦笑した。
「当たり前だろう。姫だぞ、姫。護衛ががっちりで見えるわけねえじゃねえか」
「えーっ!?」
「それに隣国から来るんだぞ。花嫁衣裳を着て移動するわけじゃねえよ。城に入ってからだろ」
 お琴は何事か考えるようにきゅっと眉をひそめた。
 そして、するすると木から下りると、九郎の着物を捕まえて上目遣いに見上げた。
 嫌な予感がした。
 この娘を赤ん坊の時に拾ってから、そのまなざしに勝てたためしがないのだ。
「・・・・・・なんだよ」
「・・・みたい」
「あ?」
「それ!その花嫁衣裳着たとこ!見たい!」
「馬鹿野郎!城ん中だぞ!」
「忍びだったらなんとかなる!お頭、凄腕だし!あたしも修行がんばってるし!」
「なるか!」
 しかし、放っておくとこの暴走娘は一人で突っ走りかねない。
 首根っこを捕まえて、九郎は深いため息をついた。
「わかったよ。仕方ねえなあ」
 十五も年下の娘に情けない。
「ありがとう!お頭、大好き!」
 だが、そう言って太陽のような笑顔を向けるお琴を見ていると、まあいいかと何故か思ってしまうのだった。


お題:「街道」、「琴」、「嫁」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
お頭、三十歳。
お琴、十五歳。
くらいのつもりで。


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HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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