宵月楼-しょうげつろう-
あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。
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【684】
弟は私の邪魔をしない距離感をなぜか心得ている。
研究に没頭する私の身の回りの世話をし、食事を作り、さりげなく私を現実に引き戻す。
「別にほっといていいんだぞ」
「身内が干物になるのは嫌だもの」
「だが血の繋がりもないのに」
「縁は繋がってるよ」
弟は義母の連れ子なのだ。
三日だけ義母が留守だからと私の研究所へ転がり込んできた弟は、しかしこれだけ家事ができるのなら一人で留守番もできただろう。
だが、なぜか追い返す気にならなかった。
研究所とは名ばかりのあばら家で一人で暮らす私にとって、人との接触は苦痛でしかないはずなのに。
するりと私の生活に入り込んだ弟は、帰らなくていいからといつもよりゆったり私の世話をしているようだった。心なしか楽しげにすら見える。
「何を研究しているんだっけ?」
洗濯物をたたみながらの質問に私が答える気になったのは、私にもその楽しげな気分が移っていたのだろうか。
「人の気持ちを知ることができる機械」
「へえ」
素直に驚く弟に、私は曖昧に笑んで見せた。
私には人の気持ちがわからない。特に恋愛感情は難解以外の何物でもない。いや、昔は私にも恋をするという感情があったはずなのだ。だが幼い時から大恋愛の末結ばれたと聞かされていた両親の離婚と父の再婚で、「恋する」ことをはじめとする人の感情が一切わからなくなってしまった。
そこまでは私も言うつもりはなかったが、弟も根掘り葉掘り聞く気はなかったのだろう。それ以上この話題に触れることはなかった。
弟が帰る三日目、彼は普段は締め切っている家中の窓を開けた。
「たまには気分を変えてみようよ」
笑った彼は私をまぶしい日の光が溢れるテラスに連れ出し、椅子に座らせる。
「何をするつもりだ?」
「こうするんだよ」
そういうと、私が抗議する間も与えず前髪にハサミをいれた。
呆然としている私をよそに、弟は手慣れた様子でほったらかしだった私の髪を切り、何やらいい匂いのするクリームめいたもので整える。気づけば器用に編み込みまでされている。
「おい」
「僕が何も言う資格がないのはわかってるけど」
前髪を切ったせいで、弟の表情が嫌でも目に入る。
いつもの朗らかな彼の表情ではなかった。家族の優しさよりも、もっと優しく甘い笑み。
「せっかく綺麗なんだから、前髪で隠してたらもったいないよ、姉さん」
そして、椅子に座ったままの私の頬にそっと触れた。
「ねえ、機械の代わりに僕じゃダメかな?」
彼は何を言っているのだろう。
混乱する私に、彼は苦笑したようだった。
幼子を諭すようにゆっくりと穏やかに言葉を紡ぐ。
「僕と母さんが姉さんを傷つけたのはわかってる。だから資格がないのもわかってるけど、でももうほっとけないんだ。ねえ、姉さん。僕はあなたに恋をしてる。だから、感情を研究するなら機械相手じゃなく僕を研究してみない?僕、きっと役に立つよ」
わからない。
わからないけど、彼の目が本気なのはわかる。
その感情が私の心を揺さぶる。
わからない。わからない。
だから。
私は恐らく初めて、真っ直ぐに彼を見つめた。
「わかるまで調べることにする・・・お前を」
「うん」
弟は嬉しそうににっこり笑った。
なぜか私も同じ表情になっていることに、そのときの私はまだ気づいてはいなかった。
お題:ねー久遠、恋し方を忘れた研究者と血の繋がりのない弟との3日間の話書いてー。 http://shindanmaker.com/151526
お題を診断メーカーからいただいたのですが、なかなか難しいものに当たりまして(^^;
思い付くままにTwitterでだらだら書いたものをまとめてみました。十個くらいツイート使ったかな。Twitterは、140字制限なのです。
いつもとは少し違う文章になったかな。でもなんとなく自分の色は変わらないもんですね。
ちなみに、ついのべやあやかしたちの呟きを落としているTwitterアカウントは@ayakashi_botです。
興味がおありでしたら声をかけてやってください。
参加しています。もしよろしければクリックお願いします。
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弟は私の邪魔をしない距離感をなぜか心得ている。
研究に没頭する私の身の回りの世話をし、食事を作り、さりげなく私を現実に引き戻す。
「別にほっといていいんだぞ」
「身内が干物になるのは嫌だもの」
「だが血の繋がりもないのに」
「縁は繋がってるよ」
弟は義母の連れ子なのだ。
三日だけ義母が留守だからと私の研究所へ転がり込んできた弟は、しかしこれだけ家事ができるのなら一人で留守番もできただろう。
だが、なぜか追い返す気にならなかった。
研究所とは名ばかりのあばら家で一人で暮らす私にとって、人との接触は苦痛でしかないはずなのに。
するりと私の生活に入り込んだ弟は、帰らなくていいからといつもよりゆったり私の世話をしているようだった。心なしか楽しげにすら見える。
「何を研究しているんだっけ?」
洗濯物をたたみながらの質問に私が答える気になったのは、私にもその楽しげな気分が移っていたのだろうか。
「人の気持ちを知ることができる機械」
「へえ」
素直に驚く弟に、私は曖昧に笑んで見せた。
私には人の気持ちがわからない。特に恋愛感情は難解以外の何物でもない。いや、昔は私にも恋をするという感情があったはずなのだ。だが幼い時から大恋愛の末結ばれたと聞かされていた両親の離婚と父の再婚で、「恋する」ことをはじめとする人の感情が一切わからなくなってしまった。
そこまでは私も言うつもりはなかったが、弟も根掘り葉掘り聞く気はなかったのだろう。それ以上この話題に触れることはなかった。
弟が帰る三日目、彼は普段は締め切っている家中の窓を開けた。
「たまには気分を変えてみようよ」
笑った彼は私をまぶしい日の光が溢れるテラスに連れ出し、椅子に座らせる。
「何をするつもりだ?」
「こうするんだよ」
そういうと、私が抗議する間も与えず前髪にハサミをいれた。
呆然としている私をよそに、弟は手慣れた様子でほったらかしだった私の髪を切り、何やらいい匂いのするクリームめいたもので整える。気づけば器用に編み込みまでされている。
「おい」
「僕が何も言う資格がないのはわかってるけど」
前髪を切ったせいで、弟の表情が嫌でも目に入る。
いつもの朗らかな彼の表情ではなかった。家族の優しさよりも、もっと優しく甘い笑み。
「せっかく綺麗なんだから、前髪で隠してたらもったいないよ、姉さん」
そして、椅子に座ったままの私の頬にそっと触れた。
「ねえ、機械の代わりに僕じゃダメかな?」
彼は何を言っているのだろう。
混乱する私に、彼は苦笑したようだった。
幼子を諭すようにゆっくりと穏やかに言葉を紡ぐ。
「僕と母さんが姉さんを傷つけたのはわかってる。だから資格がないのもわかってるけど、でももうほっとけないんだ。ねえ、姉さん。僕はあなたに恋をしてる。だから、感情を研究するなら機械相手じゃなく僕を研究してみない?僕、きっと役に立つよ」
わからない。
わからないけど、彼の目が本気なのはわかる。
その感情が私の心を揺さぶる。
わからない。わからない。
だから。
私は恐らく初めて、真っ直ぐに彼を見つめた。
「わかるまで調べることにする・・・お前を」
「うん」
弟は嬉しそうににっこり笑った。
なぜか私も同じ表情になっていることに、そのときの私はまだ気づいてはいなかった。
お題:ねー久遠、恋し方を忘れた研究者と血の繋がりのない弟との3日間の話書いてー。 http://shindanmaker.com/151526
お題を診断メーカーからいただいたのですが、なかなか難しいものに当たりまして(^^;
思い付くままにTwitterでだらだら書いたものをまとめてみました。十個くらいツイート使ったかな。Twitterは、140字制限なのです。
いつもとは少し違う文章になったかな。でもなんとなく自分の色は変わらないもんですね。
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【682】 おでかけ
今日は特別。みんな寝静まった夜中にこっそり家を抜け出して、近所の子達と連れだってあやかし道を歩いてく。人の気配がなくなると、そこは祭りの真っ只中だ。二本足で踊って笑ってマタタビ酒で乾杯。明日二日酔いでも気づかないふりしててよね。猫の日の無礼講なんだからさ。
お題:猫の日♪
【683】 まなざし
邂逅は、偶然迷いこんだ紫のあやめ咲く庭。刺さるような鋭い視線がこの身を貫いた。あやめの館のあやめの姫は、人を殺めて命をすする。そんな噂にたがわぬ眼差しに奪われたのは命ではなく、心。ほんの一瞬で恋に落ちた。
お題:『紫』と『邂逅』、登場人物が『刺さる』というお題でツイノベを書いてみて下さい。 #twidai000 http://shindanmaker.com/73977
金曜日は忙しいのでついのべで茶を濁しますw
今日も来てくれてありがとうございます(^^)
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今日は特別。みんな寝静まった夜中にこっそり家を抜け出して、近所の子達と連れだってあやかし道を歩いてく。人の気配がなくなると、そこは祭りの真っ只中だ。二本足で踊って笑ってマタタビ酒で乾杯。明日二日酔いでも気づかないふりしててよね。猫の日の無礼講なんだからさ。
お題:猫の日♪
【683】 まなざし
邂逅は、偶然迷いこんだ紫のあやめ咲く庭。刺さるような鋭い視線がこの身を貫いた。あやめの館のあやめの姫は、人を殺めて命をすする。そんな噂にたがわぬ眼差しに奪われたのは命ではなく、心。ほんの一瞬で恋に落ちた。
お題:『紫』と『邂逅』、登場人物が『刺さる』というお題でツイノベを書いてみて下さい。 #twidai000 http://shindanmaker.com/73977
金曜日は忙しいのでついのべで茶を濁しますw
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【681】
それを目にした途端、翡翠は身体中の血が熱くなるのを感じた。
「どうしたの、それ!」
彼女の体に浮かび上がるアザと、唇の端にこびりついた血の匂い。
多少ぬぐったぐらいでは、あやかしの鼻はごまかせない。
「気にするな。なんでもないから」
下働きの彼女が主家の人間に多少の嫌がらせをされることは聞いていた。だが、今までは血が出るほど殴られて帰ることなどなかったはずだ。
「やったのは誰?まあ、聞かなくてもわかるけど」
翡翠の声が低く唸るように響いた時、後ろから無遠慮な声がかけられた。
「まだこんなところにいたのか」
彼女の体がびくりと震える。
振り返るとそこには仕立てのいい着物を着た男たちが、手に木刀を持って立っていた。
真ん中の男が蔑むような目で彼女を見る。
「暇を出したのにいつまでも我が所領でうろうろするでないわ。それが引っ張りこんだという男か。そいつのために俺を拒んだのだな。下働きのくせに」
「・・・お許しくださいませ」
男の口にした内容と消え入りそうな彼女の声に、翡翠は目の前が赤く染まった気がした。
怒りが感情のたがを吹き飛ばした。
「・・・身の程を知れ。ただの人のくせに、僕の愛しい人に傷をつけた罪は重いよ」
ざわりと空気が揺らいだ。
思わず息を飲んだ彼らが見たものは、人の形をしていたが人ではなかった。
我を忘れた瞳は光彩が縦に切れ、緑色に輝いている。
毛に覆われた耳が、跳ねる黒髪の間から姿を現す。
構えた爪が鋭く伸びる。
二又の尻尾が現れて、その背でゆらりと揺れる。
「殺してやる!」
叫んだ口許に鋭い牙が見え隠れしていた。
「化け物!」
男たちがどよめく中で、彼女の主人だった男は叫んだ。
「化け物に身を売る女など、こっちから願い下げだ。汚らわしい!」
「それ以上侮辱するな!」
だが、叫んで飛び出そうとした翡翠の体は、ぶつかるように抱きついた彼女に止められていた。
「離せ!殺してやるんだ!」
叫びは血を吐くように響く。
相手だけを見据え、その爪で引き裂こうと手を伸ばす。
あふれ出る殺気で、男たちは動けなくなっていた。今なら易々とその体を引き裂けるだろう。
なのに、彼女は決して翡翠の体を離そうとはしなかった。
「殺してはだめだ。血に染まったら、戻れなくなる」
「嫌だ!離せ!離せよ!君を傷つけた!君の体も、心も、傷つけたのはやつらの方じゃないか!」
「・・・それでも、だめ」
あやかしの力ならば、女一人の腕など簡単に振りほどける。
それでも抱きついた彼女の涙が着物に染みていくにつれて、翡翠の体はもがくのをやめた。
代わりにその瞳から涙がこぼれ落ちる。
耳が、花がしおれるように力なく伏せた。
「ずるいよ。なんで君が止めるのさ・・・」
二つに分かれた尻尾が不機嫌に揺れる。伸ばしていた手を翡翠は下ろして小さな子供が文句を言うように呟いた。
「・・・ずるいよ」
「あんたに人を殺めて欲しくないの」
そう言った彼女の声が震えているのに気づいて、翡翠はその小柄な体をぎゅっと抱き締めて、瞳を閉じた。
翡翠が殺す気をなくしたと気づいて逃げていく男たちは、きっと多くの人を連れてくるだろう。
このままだと狩られるに違いない。
人は、時にあやかしより残忍だから。
「あいつらを殺さなかった。だから僕と逃げて。僕が守るから。君が言うとおり、人を殺さないように守るから。このままじゃ、君が殺されちゃうよ。僕を選んで・・・お願いだから」
抱きしめた腕の中で、彼女は迷っているようだった。
傾いていた日がすっかり沈む頃になって、やっとかすかに頷く。
その迷いに翡翠の胸が痛んだ。
自分が彼女を愛さなかったら、彼女は故郷を捨てなくてすんだだろうか。
自分があやかしでなかったら。
彼女をもっと上手に守れたら。
答えは出ない。かける言葉は見つからない。
その時、彼女が囁いた。
「行こう。逃げるんじゃない。旅に出るの・・・一緒に生きたいから」
「・・・うん」
一緒に、生きたい。
その気持ちがすとんと胸に落ちてきて、荒ぶっていた気持ちが嘘のように凪いでゆく。
だから、翡翠はもう何も言わずに彼女の手を握って歩き出した。
それを目にした途端、翡翠は身体中の血が熱くなるのを感じた。
「どうしたの、それ!」
彼女の体に浮かび上がるアザと、唇の端にこびりついた血の匂い。
多少ぬぐったぐらいでは、あやかしの鼻はごまかせない。
「気にするな。なんでもないから」
下働きの彼女が主家の人間に多少の嫌がらせをされることは聞いていた。だが、今までは血が出るほど殴られて帰ることなどなかったはずだ。
「やったのは誰?まあ、聞かなくてもわかるけど」
翡翠の声が低く唸るように響いた時、後ろから無遠慮な声がかけられた。
「まだこんなところにいたのか」
彼女の体がびくりと震える。
振り返るとそこには仕立てのいい着物を着た男たちが、手に木刀を持って立っていた。
真ん中の男が蔑むような目で彼女を見る。
「暇を出したのにいつまでも我が所領でうろうろするでないわ。それが引っ張りこんだという男か。そいつのために俺を拒んだのだな。下働きのくせに」
「・・・お許しくださいませ」
男の口にした内容と消え入りそうな彼女の声に、翡翠は目の前が赤く染まった気がした。
怒りが感情のたがを吹き飛ばした。
「・・・身の程を知れ。ただの人のくせに、僕の愛しい人に傷をつけた罪は重いよ」
ざわりと空気が揺らいだ。
思わず息を飲んだ彼らが見たものは、人の形をしていたが人ではなかった。
我を忘れた瞳は光彩が縦に切れ、緑色に輝いている。
毛に覆われた耳が、跳ねる黒髪の間から姿を現す。
構えた爪が鋭く伸びる。
二又の尻尾が現れて、その背でゆらりと揺れる。
「殺してやる!」
叫んだ口許に鋭い牙が見え隠れしていた。
「化け物!」
男たちがどよめく中で、彼女の主人だった男は叫んだ。
「化け物に身を売る女など、こっちから願い下げだ。汚らわしい!」
「それ以上侮辱するな!」
だが、叫んで飛び出そうとした翡翠の体は、ぶつかるように抱きついた彼女に止められていた。
「離せ!殺してやるんだ!」
叫びは血を吐くように響く。
相手だけを見据え、その爪で引き裂こうと手を伸ばす。
あふれ出る殺気で、男たちは動けなくなっていた。今なら易々とその体を引き裂けるだろう。
なのに、彼女は決して翡翠の体を離そうとはしなかった。
「殺してはだめだ。血に染まったら、戻れなくなる」
「嫌だ!離せ!離せよ!君を傷つけた!君の体も、心も、傷つけたのはやつらの方じゃないか!」
「・・・それでも、だめ」
あやかしの力ならば、女一人の腕など簡単に振りほどける。
それでも抱きついた彼女の涙が着物に染みていくにつれて、翡翠の体はもがくのをやめた。
代わりにその瞳から涙がこぼれ落ちる。
耳が、花がしおれるように力なく伏せた。
「ずるいよ。なんで君が止めるのさ・・・」
二つに分かれた尻尾が不機嫌に揺れる。伸ばしていた手を翡翠は下ろして小さな子供が文句を言うように呟いた。
「・・・ずるいよ」
「あんたに人を殺めて欲しくないの」
そう言った彼女の声が震えているのに気づいて、翡翠はその小柄な体をぎゅっと抱き締めて、瞳を閉じた。
翡翠が殺す気をなくしたと気づいて逃げていく男たちは、きっと多くの人を連れてくるだろう。
このままだと狩られるに違いない。
人は、時にあやかしより残忍だから。
「あいつらを殺さなかった。だから僕と逃げて。僕が守るから。君が言うとおり、人を殺さないように守るから。このままじゃ、君が殺されちゃうよ。僕を選んで・・・お願いだから」
抱きしめた腕の中で、彼女は迷っているようだった。
傾いていた日がすっかり沈む頃になって、やっとかすかに頷く。
その迷いに翡翠の胸が痛んだ。
自分が彼女を愛さなかったら、彼女は故郷を捨てなくてすんだだろうか。
自分があやかしでなかったら。
彼女をもっと上手に守れたら。
答えは出ない。かける言葉は見つからない。
その時、彼女が囁いた。
「行こう。逃げるんじゃない。旅に出るの・・・一緒に生きたいから」
「・・・うん」
一緒に、生きたい。
その気持ちがすとんと胸に落ちてきて、荒ぶっていた気持ちが嘘のように凪いでゆく。
だから、翡翠はもう何も言わずに彼女の手を握って歩き出した。
一緒に生きる場所を見つけに行こう。
普段へらへらしてるうちの猫又が、今日は脳内であやかしモード全開で必死な顔で叫ぶもんだから、書き留めた覚書です。
ぽんと浮かんだのが、あやかしモードの翡翠が必死な顔で叫んでて、それを彼女が腰のあたりに抱きついて止めてて、敵に向かって翡翠は爪の伸びた手を伸ばしてて、でも、とどかないし彼女を振りほどけなくて動けない、そんなシーンでしたん。
必死で憎しみを込めて叫ぶ翡翠にはなかなか会えないので、書き留めておかなきゃ、って。
ほんとはもっと書き込んで短編程度にはできる素材なんだけど、ちょっと根性と時間がないなあ。
というわけで、今後の展開もあるかなと考えてカテゴリーは「オリジナル」ではなく「掌編未満」で。
しかし、やっぱり、絵でアウトプットするスキルほしい(^^;
今日も見に来てくれてありがとうございます(^^)
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【680】
何度も何度もケンカを繰り返し、相手を殴るために、何かを我慢するためにぎゅっと握り締めるばかりだった拳を、彼女は笑って優しく解いた。
解放された手のひらに自分の手を滑り込ませ、気がつけば手をつないでいた。
無邪気な笑みに、いつもなら口をついて出る憎まれ口がなぜかどこかへ行ってしまう。
「ね、ケンカばかりしてないで、いっしょにあそぼ?」
「・・・ばっかじゃねえの・・・おんなとなんかあそべっかよ」
そっぽを向こうとしたが、彼女の顔が泣きそうに歪んで妙に慌ててしまう。
「な、なくんじゃねえよ」
「・・・あそぶの、いや?」
「あ・・・えっと・・・ちょっとなら・・・」
「やったあ!じゃあ、いこうよ!」
ひっぱられる手を振りほどけずにつられて走ってしまう。
繋いだ手の暖かさが胸の中まで暖めるようで、いつしか笑っていた。
あの時の想いは今も変わらずに胸を暖める。
人を殴らなくなった左手は、十年たった今も彼女だけのものだ。
お題:本日の身体部位は「手のひら」、行動は「殴る」、なごやかな作品を創作しましょう。補助要素は「想い」です。 #karadai http://shindanmaker.com/73897
一応、なごやかになったかな。
最初は五歳、思い返している今は十五歳くらいのイメージで書いてみました。
五歳でケンカばっかりというのも逆に我慢しない分、ないことはないかな、と。
拍手ありがとうございます。
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何度も何度もケンカを繰り返し、相手を殴るために、何かを我慢するためにぎゅっと握り締めるばかりだった拳を、彼女は笑って優しく解いた。
解放された手のひらに自分の手を滑り込ませ、気がつけば手をつないでいた。
無邪気な笑みに、いつもなら口をついて出る憎まれ口がなぜかどこかへ行ってしまう。
「ね、ケンカばかりしてないで、いっしょにあそぼ?」
「・・・ばっかじゃねえの・・・おんなとなんかあそべっかよ」
そっぽを向こうとしたが、彼女の顔が泣きそうに歪んで妙に慌ててしまう。
「な、なくんじゃねえよ」
「・・・あそぶの、いや?」
「あ・・・えっと・・・ちょっとなら・・・」
「やったあ!じゃあ、いこうよ!」
ひっぱられる手を振りほどけずにつられて走ってしまう。
繋いだ手の暖かさが胸の中まで暖めるようで、いつしか笑っていた。
あの時の想いは今も変わらずに胸を暖める。
人を殴らなくなった左手は、十年たった今も彼女だけのものだ。
お題:本日の身体部位は「手のひら」、行動は「殴る」、なごやかな作品を創作しましょう。補助要素は「想い」です。 #karadai http://shindanmaker.com/73897
一応、なごやかになったかな。
最初は五歳、思い返している今は十五歳くらいのイメージで書いてみました。
五歳でケンカばっかりというのも逆に我慢しない分、ないことはないかな、と。
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【679】
川のほとりで子供が二人、並んで水面を見つめている。
秋には和歌に詠まれるほど美しい錦のような竜田の川も今は名残りの紅葉すらなく、冷たい水がたださらさらと流れている。
「姫様は眠ってるの?」
「そう、眠ってる。竜田の姫様は秋の姫だから、冬は静かに眠ってる」
「秋まで起きないの?」
「ううん、春になったら新芽が芽吹く。姫様も新芽のように新しく目を覚ます」
「じゃあ、もう少し?」
「うん、もう少し」
雪はもう所々にしか残っていない。
静かな地面の下で、木の枝の中で、春を待つ新しい命を脅かさないように。
子供たちは内緒話をするように、声を潜めてくすくす笑って森の中へ跳ねていった。
枯れ木の間に兎の耳が、ひょこひょこ揺れて茂みに消えた。
お題:「和歌」、「紅」、「内緒話」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
早く春になれの気持ちを込めて。
おまけ:同じお題で短文を。
和歌に読まれた紅の竜田の川のもみじより内緒話で唇を寄せた頬のがなお紅い。
参加しています。もしよろしければクリックお願いします。
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川のほとりで子供が二人、並んで水面を見つめている。
秋には和歌に詠まれるほど美しい錦のような竜田の川も今は名残りの紅葉すらなく、冷たい水がたださらさらと流れている。
「姫様は眠ってるの?」
「そう、眠ってる。竜田の姫様は秋の姫だから、冬は静かに眠ってる」
「秋まで起きないの?」
「ううん、春になったら新芽が芽吹く。姫様も新芽のように新しく目を覚ます」
「じゃあ、もう少し?」
「うん、もう少し」
雪はもう所々にしか残っていない。
静かな地面の下で、木の枝の中で、春を待つ新しい命を脅かさないように。
子供たちは内緒話をするように、声を潜めてくすくす笑って森の中へ跳ねていった。
枯れ木の間に兎の耳が、ひょこひょこ揺れて茂みに消えた。
お題:「和歌」、「紅」、「内緒話」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
早く春になれの気持ちを込めて。
おまけ:同じお題で短文を。
和歌に読まれた紅の竜田の川のもみじより内緒話で唇を寄せた頬のがなお紅い。
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HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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