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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【1059】

「お願い、ね」
猫又の翡翠は乾いた瞳で空を見た。
「思い付かないよ」
何も望むことはない。
気がつけば生まれていた。
長生きを望んだわけでもないのに猫又だった。
「僕はなんでここにいるんだろう」
それはまだ、彼を揺るがせる出会いの前の話。


【1060】

「家内安全。健康第一」
犬神の瑠璃丸の短冊には、そう記されていた。
「面白味などなくていい。やはり事故も怪我もなく、健康で過ごせるのが一番だ」
そうは言ったものの少し考えて、彼ははっとした。
「琥珀の酒と翡翠のおやつを半減させねば!」


【1061】

短冊が揺れる笹飾りと縁側に並べたつまみといつもより上等の酒。
「いい七夕だなあ」
妖狐の琥珀は目を細める。
そこに面倒を見ている半龍の少女がぱたぱたと走ってきた。
「琥珀のお願いは?」
「そうだな。お前の願いを叶えることが俺の願いだな」


【1062】

まったく、なんでこんなに泣いてんだ。
お前が泣いたら下界もどしゃ降りだろうが。
年に一度はもう覆せない約束だってのに、こんなことじゃ気になって他の日にも来たくなっちまうじゃねえか。
なにしろ一目惚れで仕事もほっぽりだしたくらい惚れてんだからな。
なあ、連れて帰ってもいいか?


七夕の二人の逢瀬を見せまいと織姫が引く雲のカーテン

君の涙は織姫の雨 会えぬ誰かを乞うる声

雲の上でも逢瀬の時間 地上の君も手を伸ばせ


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【1056】 

「これは何ですか?」
師匠の手に乗っている勾玉は深い藍で、中にいくつもの星が弾けている。
「秘めし星の勾玉という」
すごい力が閉じ込められているのだろう。
背筋が少し寒い。
術師として未熟な僕が触ったら、きっと町くらい吹き飛ぶ。
「怯えなくてもいい。封印すればただの石だ」

設定:とても美しい宝玉で秘めた力が宿っている。使い方を誤ると、街1つを壊滅する。(神威鴉魔さん)


【1057】 戦嫌い

知らん顔ばかりが得意になる。
でもこれでいい。
ぶつけられた凶器に凶器で返したってずたぼろになるばかりで誰も得しやしないんだし、無関心でいればそのうち張り合いがなくなって飽きるでしょ。
だから、僕は何もしない。
「殿!合戦中ですぞ!」
「逃げよう」
「殿!」

書き出しをお借りして。


【1058】 背の傷

「敵に背を向けた証だから、背中の傷は恥ずかしいって言われたんだ」
息子の言葉に俺は笑んだ。
共に風呂に入る度に俺の背の傷を見ている彼は、俺のために胸を痛めているのだ。
「大事な者を守るためなら恥ずかしくないさ」
そう言って抱きしめると息子は背の傷の意味を悟ってくれた。

身を挺して守るため、敵に背を向ける勇気。


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【1052】 本望

「君の夢見て死ねるなら本望ですがね」
封印を施されかけていながら、鬼はまだふざけた口をきいている。
思えば初対面で封殺師の自分を口説いたのだった、と少し眉をひそめると、鬼は甘い笑みを浮かべた。
「どうせなら一緒の道行きなんてどうです?」

書き出しをお借りして。


【1053】 氷の瞳

毛羽毛現の桔梗が、紅の格子の中で三味線を爪弾いている。
客は引かない。色目も使わぬ。
氷のような瞳には花街の賑わいも映ってはいないようで、それが逆に男を引き付けるという。
だがまだ若い十兵衛親分には、その色香よりもあやかしの女の寂しさが目を引いた。

お題:今日のお題 「氷」 「三味線」 「親分」  http://t.co/AMef1Qc2


【1054】 月の鏡

その鏡には、月の魔力が封じられている。
あやかしに向ければ正体を映し、人に向ければその内に封じるという。
「その魔鏡が何でここにあるんです?」
「だって、普通の鏡じゃ割れてしまうのだもの」
その妖力が強すぎる主は、鏡を覗いて満足げに薬指で紅をひいた。


【1055】 風邪

「あーあ、熱があるねえ」
猫又の翡翠は少女の額に当てていた手を外すと苦笑した。
人間は簡単に病気になったり怪我をしたりする。
ついうっかりしていた。
「ごめんね。夜中に連れ出しちゃったから」
ひんやりした手を頬にあてる。
「そばにいるから安心しておやすみ」

お題:今日の書き出し/締めの一文 【 「あーあ、熱があるねえ」 】 http://t.co/a8HWCWxj


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【1049】 僕の心

君はまぶたを伏せると両手で光る星を包み込んだ。
淡い光を放つそれは僕の心。
君は気づいているのかいないのか、それを大事そうに胸元に抱き寄せて、「大丈夫」って囁いた。
僕はとても安心して、柔らかい眠りに身を委ねた。
僕の心はとっくに君に預けてあるんだ。

お題:本日の身体部位は「まぶた」、行動は「包む」、甘い作品を創作しましょう。補助要素は「心」です。 #karadai http://t.co/Ef6WvKqa

【1050】 忠誠

いつまでもこの方の側にあるのが自分の役目だと、そう心に決めたのは五歳の時だった。
それ以来、俺の命はこの方のものだ。
俺はお頭の影に控えて、頭を下げる。
「お前の命をくれとは俺には言えぬ」
「そのお気持ちだけでじゅうぶんです」
甘い人だ。
だが、だから仕えたい人なのだ。

お題:今日の書き出し/締めの一文 【 いつまでもこの方の側にあるのが自分の役目だと 】  http://t.co/xa0YiAVQ


【1051】 ゲーム

「君はこのゲームにのる?」
僕の問いに君が悩む。
その表情が見たいから、こんなギリギリのゲームを仕掛けたんだよ。
本来、僕は勝てる勝負しかしない。
でも君は僕の中の冷静さを狂わせる。
「君と命のやり取りなんて、ゾクゾクするよ」
僕はその時、確かに心から楽しんでいたんだ。

お題:今日の書き出し/締めの一文 【 君はこのゲームにのる? 】


【1052】 精一杯

「ったく、めんどくせえな」
無意識に口癖を呟けば、お前が申し訳なさそうにするのが目に入る。
まずいな、と思っても、今さら優しい言葉なんざ柄じゃねえ。
仕方ないからそっぽを向いたまま手を差し出す。
「迷子になったら困んだろうが」
これが精一杯だ。
さあ、お前はどう出る?

友達の「めんどくさいとか言いながらも優しい人がいい」っていう言葉に、「じゃあ、こんなの?」と書いたもの。
実はアンサーで女の子側を書いてもらって、それがまたかわいくてかわいくて(^^)


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【1047】 くちなしの宿

梔子の木が一本、旅籠の入り口に立っている。
「花が咲く頃には匂いがきつすぎるんじゃないか?」
俺の言葉に宿の主らしい少女は笑う。
「それでいい。普通の人間には入れないの」
そして彼女はべっ甲の櫛を差し出した。
「彼女が待ってるわ」その櫛は血に濡れていた。

お題:今日のお題 「旅籠」 「べっ甲」 「梔子」  http://t.co/AMef1Qc2


【1048】 雨宿り

「雨じゃ」
「雨だね。やっぱ、濡れるの嫌?」
「そうじゃの。良い気分ではない」
「それで出てきたの?」
「濡れるのは、ガワだけでじゅうぶんじゃろ」
「ガワって。でも確かにね」
同調すると、黒い狐は当然だと言わんばかりに尻尾をひと振り。
稲荷の社で雨宿り。

お題:雨宿り
【ガワ】というのは、神社の狐の石像です(^^;)


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HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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