宵月楼-しょうげつろう-
あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。
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【1009】
「夏至なんて嘘でしょ?何この寒さ」
猫又の翡翠が文句を言っている。
すでに布団に潜り込んでいるせいであまり迫力がない。
「夏至の祭りは取り止めか?」
「いや、鎮守の森で結界を張るのだと」
「そこにいくまでに濡れちゃうじゃない!」
・・・猫は置いていこう。
せっかく夏至なので、と思って書いてみました。瑠璃丸視点。
【1010】
雨はやまないけど、僕は迷った末、番傘をさして外へ出た。
夏至の祭りは年一回だものね。
人混みは苦手だけど、珍しいものが手に入るかもしれないし。
意外とあやかしたちは新しいものにも敏感だから、出店は気になるんだ。
「好奇心は猫をも殺すってな」
「うるさいよ」
翡翠視点。
翡翠は新しもの好きです。現代になったら、PCもスマホも真っ先に手を出して使いこなします。
あやかしたちは、新しいもの=珍しいもの、としてこっそり拝借してきちゃったりしてるような気がしますw
【1011】
夏至の夜、鎮守の森に灯が点る。
人には見えぬよう張られた結界の中で、狐火、蛍火がぼんやりと辺りを照らし、様々な出店が軒を連ねる。
神社はこの夜だけ、あやかしや神や人ならぬものの貸切だ。
少女はその賑わいに驚いて目を見開いた。
気付けばここに立っていた。急に霧が晴れるように賑わいが目に飛び込んできたのだ。
「あれ?君って・・・」
声に振り返ると、猫の耳を生やした黒髪の青年が、緑の瞳で自分を見ていた。
「あの、え?耳?じゃなくて、ここ・・・あの、私・・・」
「まあ、落ち着いて。このお祭りは初めてだよね?」
青年は苦笑して出店のない場所に手招きする。つられて少女がついてゆくと、青年は安心させるように微笑んだ。少し皮肉っぽいが瞳が優しい。
「とりあえず、これは夢だと思って、全部置いといて。だって、ありえないものがいろいろ見えるでしょ?」
「あ、はい・・・」
「よし、じゃあ、想像してみて。夜店、夏祭り、君は浴衣。そうだな、藍地に蛍なんかいいね」
「え?」
気がつけば自分がその通りの装いをしているのを見て少女は驚く。そして、逆に「ああ、夢なんだな」と納得した。
そうなれば、この賑わいが楽しくなってくる。
「すごい」
「そうだね」
青年は微笑んで、少女の髪を軽く纏め上げ、ホタルブクロを挿した。
「まあ、なにかの縁だものね。案内してあげるよ」
青年が手を差し出した。
出店を冷やかし、いくつかよくわからない食べ物を味見し、だいぶ夜も更けた頃、少女はふと呼ばれたような気がして空を見上げた。
今夜はあいにくの雨で空には月も星もない。雨がよけるようにと張られた結界とやらがあるらしく、うっすらと霧の膜がかかっているように見えるその向こうから、それは自分を呼んでいた。
「・・・気付いた?」
振り返ると猫耳の青年が自分を見つめていた。
その向こうには祭りの灯り。
柔らかくあたたかい光で青年の表情は影になっているはずなのに、何故かその視線の優しさがわかる気がした。
「耳を澄ませてごらん。君が行くべきところがわかるから」
そういわれて目を閉じる。
言葉にならない声が、記憶を呼び起こす。
「・・・そうだった」
目を開けて、少女は呟いた。
「私、死んだのね。わかってた?」
「この祭りは人ならぬものしか入れないからね。うすうすは。よけいなこと、したかな」
「ううん・・・楽しかった」
「その姿でお行きよ。お土産持っていくのも悪くないよ」
「うん、ありがとう」
声に沿うように心を軽くすれば、体は透き通って薄れていく。
消えるのではない。上っていくのだ。空へ。また、生れ落ちてくる日まで。
「さよなら」
「さよなら」
呟きが消える頃、少女の姿は淡い光となって空に吸い込まれた。
それを見上げて、翡翠は呟く。
「また元気に生まれておいで。今度は人の世でお祭りに行こうね」
優しい声に応えるように、切れた雲の隙間から星が瞬いていた。
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「夏至なんて嘘でしょ?何この寒さ」
猫又の翡翠が文句を言っている。
すでに布団に潜り込んでいるせいであまり迫力がない。
「夏至の祭りは取り止めか?」
「いや、鎮守の森で結界を張るのだと」
「そこにいくまでに濡れちゃうじゃない!」
・・・猫は置いていこう。
せっかく夏至なので、と思って書いてみました。瑠璃丸視点。
【1010】
雨はやまないけど、僕は迷った末、番傘をさして外へ出た。
夏至の祭りは年一回だものね。
人混みは苦手だけど、珍しいものが手に入るかもしれないし。
意外とあやかしたちは新しいものにも敏感だから、出店は気になるんだ。
「好奇心は猫をも殺すってな」
「うるさいよ」
翡翠視点。
翡翠は新しもの好きです。現代になったら、PCもスマホも真っ先に手を出して使いこなします。
あやかしたちは、新しいもの=珍しいもの、としてこっそり拝借してきちゃったりしてるような気がしますw
【1011】
夏至の夜、鎮守の森に灯が点る。
人には見えぬよう張られた結界の中で、狐火、蛍火がぼんやりと辺りを照らし、様々な出店が軒を連ねる。
神社はこの夜だけ、あやかしや神や人ならぬものの貸切だ。
少女はその賑わいに驚いて目を見開いた。
気付けばここに立っていた。急に霧が晴れるように賑わいが目に飛び込んできたのだ。
「あれ?君って・・・」
声に振り返ると、猫の耳を生やした黒髪の青年が、緑の瞳で自分を見ていた。
「あの、え?耳?じゃなくて、ここ・・・あの、私・・・」
「まあ、落ち着いて。このお祭りは初めてだよね?」
青年は苦笑して出店のない場所に手招きする。つられて少女がついてゆくと、青年は安心させるように微笑んだ。少し皮肉っぽいが瞳が優しい。
「とりあえず、これは夢だと思って、全部置いといて。だって、ありえないものがいろいろ見えるでしょ?」
「あ、はい・・・」
「よし、じゃあ、想像してみて。夜店、夏祭り、君は浴衣。そうだな、藍地に蛍なんかいいね」
「え?」
気がつけば自分がその通りの装いをしているのを見て少女は驚く。そして、逆に「ああ、夢なんだな」と納得した。
そうなれば、この賑わいが楽しくなってくる。
「すごい」
「そうだね」
青年は微笑んで、少女の髪を軽く纏め上げ、ホタルブクロを挿した。
「まあ、なにかの縁だものね。案内してあげるよ」
青年が手を差し出した。
出店を冷やかし、いくつかよくわからない食べ物を味見し、だいぶ夜も更けた頃、少女はふと呼ばれたような気がして空を見上げた。
今夜はあいにくの雨で空には月も星もない。雨がよけるようにと張られた結界とやらがあるらしく、うっすらと霧の膜がかかっているように見えるその向こうから、それは自分を呼んでいた。
「・・・気付いた?」
振り返ると猫耳の青年が自分を見つめていた。
その向こうには祭りの灯り。
柔らかくあたたかい光で青年の表情は影になっているはずなのに、何故かその視線の優しさがわかる気がした。
「耳を澄ませてごらん。君が行くべきところがわかるから」
そういわれて目を閉じる。
言葉にならない声が、記憶を呼び起こす。
「・・・そうだった」
目を開けて、少女は呟いた。
「私、死んだのね。わかってた?」
「この祭りは人ならぬものしか入れないからね。うすうすは。よけいなこと、したかな」
「ううん・・・楽しかった」
「その姿でお行きよ。お土産持っていくのも悪くないよ」
「うん、ありがとう」
声に沿うように心を軽くすれば、体は透き通って薄れていく。
消えるのではない。上っていくのだ。空へ。また、生れ落ちてくる日まで。
「さよなら」
「さよなら」
呟きが消える頃、少女の姿は淡い光となって空に吸い込まれた。
それを見上げて、翡翠は呟く。
「また元気に生まれておいで。今度は人の世でお祭りに行こうね」
優しい声に応えるように、切れた雲の隙間から星が瞬いていた。
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HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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