宵月楼-しょうげつろう-
あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。
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「ウタウタイ」という存在であるKAITOを主人公に、旅する物語を書いてみたい、と思っていますが、なかなか(^^;)。
あくまでイメージですので、そこのところはぬるくスルーしていただける方のみでお願いします。
風が吹いている。
葉擦れの音。
鳥のさえずり。
獣の足音。
森の木々に包まれ、穏やかな、静かな時間を彼はただ聞く。
その耳は、すべての音を捉える。
その唇は、人々を魅了する言葉を紡ぐ。
その喉は、妙なる調べを紡ぎだす。
だが、その深き青の瞳は何も映してはいなかった。
造られた存在である彼に許されたのは、ただ神をも魅了する歌を歌うことのみ。
しかし、わずかな触れ合いから肌の温かさを知り、自分に向けられる言葉から人の想いを知り、そこに「心」が宿ると知って。
同時に自分の歌が争いを煽り、人々を死地へ追いたて、大地を血で染めたことを知ったとき、彼の生まれたばかりの「心」は砕け散った。
歌う機械は歌を忘れ、抜け殻は深き森に捨てられた。
それでも。
彼の耳は音を聞く。
生きているすべてが発する音は、自分が奏でるよりも遥かに優しく生を歌う。
生きている喜びを。
そこに在る奇跡を。
わけ隔てなくすべてのものに、その祝福を。
例え、破壊しか生まなかった壊れた機械人形にも。
「おにいちゃん」
やがて、目覚めは無邪気な声で促される。
「寝ているの?ここに寝てると風邪ひくよ?起きよう?」
生きているものの発する妙なる調べに、砕けたはずの「心」がゆるゆると形を取り戻し始める。
人ならざるものの証である青の髪にためらいなく触れた幼い指から、温かさと優しさが染みてくる。
今ならば、「生」を歌えるだろうか。
「死」を煽るのではなく、「生」を謳歌するものたちを守る為に。
かつての罪への悔恨と、存在を許される喜びと、それを感じることができるうれしさに、青の瞳から雫が零れる。
濡れた瞳に、世界が鮮やかに映る。
「あ、起きた!」
この「心」が望む歌を、今ならば歌える気がする。
世界に満ちているこの優しい歌を。
生きている喜びを。
自分も紡げる気がする。
自分に向けられる透き通る笑顔に、彼は笑みを返した。
「おはよう」
目覚めよう。
優しい歌を紡ぐ為に。
【ウタウタイ】♪KAITO
http://www.nicovideo.jp/watch/sm3705128