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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【482】

主の絶えて久しいあばら家の畳の上に、ぽつりとお守り袋が落ちていた。
薄汚れてはいても、元は絹糸で丁寧に優美な蝶が刺繍されていたのだと見て取れる。
ほうっておくのも気が引けて、かがんで拾い上げようとしたその時、ふわり、と蝶の羽が動いた。
蝶はゆっくりと羽を動かし、縫いとめられていた袋から飛び立つ。
月の光の中を優美に飛んでゆく蝶を見送って、無地になってしまった袋を拾う手を戻した。
おそらく、あの蝶は持ち主の元へ行くのだろう。
無事にたどり着けますように。
普段は祈らない神仏に、不意に祈りたくなった。

お題:「畳」、「お守り」、「蝶」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
廃屋に忍んだのは泥棒か、旅人か。
どちらにせよ少しすさんだ心に、何か暖かいものを残していったようです。


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【481】

剣客、などと偉そうな言葉はあっても、剣の道を歩むものは所詮人やものを斬るためにその技を修練する、人にあるまじきものであると、左京は時々思ったりする。
特に寺の境内や長屋で子供と遊んでやるときなど、その無邪気な笑顔に剣など何の役に立とうか、と思う気持ちを強くする。
それでも、天に与えられた才はこれしかないのだ。
せめて役に立つときには、有効に使わねばばちが当たるだろう。
その剣技のわりに剣を抜くのが嫌いな男は、ため息をついて、化け物屋敷と噂される廃屋に足を踏み入れた。
「おや、物騒な男が来たね」
逃げも隠れもせず、部屋の上座に悠々と座っているのは、色が白く、瞳が赤いあやかしであった。
髪を無造作に束ねる組紐の鮮やかな青が、やけにその銀色の髪に似合っている、と左京は刀に触れた右手を微動だにせず思った。
殺気はない。理性を感じる。
人に害をなさぬと約束し、斬らずに済むならそれが一番だが。
色の違う双眸が、互いの思惑を探ってぶつかった。

お題:「廃屋」、「組紐」、「剣客」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578

以前、【476】で書いた左京を出してみたり。お題物なのでぜんぜん別の話の導入部っぽいですが。
本当はここから続きをかければなあと思っているのですが、なんとも書く暇がありません。


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【480】

「散歩に行くぞ」
 言葉少なに犬神に言われて、根付の兎はぽぽんと人の子供の姿に変化した。
 まだあやかしとして未熟なので昼は変化できないが、夜は人の姿で一緒に歩いてゆけるから、兎は夜の散歩が好きなのだ。
 にこにこと笑い、はしゃいで、犬神の前をぱたぱたと走る。
 だが、ふとその足がぴたりと止まった。
 行き当たった川の岸辺一面に、真っ赤な彼岸花が咲いていた。
「・・・あかい」
 河岸を染めて月の光の下で揺れる彼岸花は、別の場所においでおいでと誘う手のひらのようで、兎はふるりと耳を震わせると犬神の腕にしがみついた。
「どうした?」
「こわい」
 震える兎の頭を、犬神は優しく撫ぜた。
「大丈夫だ」
 その温かな手と声に体の力が抜ける。
 そして安心した途端、お腹がぐうと鳴った。
「何か食うか。一膳飯屋なら、まだ開いている店があったはずだ」
「くう!」
 一気に元気になって目を輝かせた兎に、犬神は苦笑した。
「行くか」
「うん」
 懐かしい誰かが呼んでいる声が聞こえた気がしたが、兎は犬神の手をしっかりと握ったまま、河原に背を向けた。
 後には、ただ、静かにおいでおいでと誰かを誘う一面の彼岸花。


お題:「一膳飯屋」、「根付」、「彼岸花」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
そろそろ今年の彼岸花も終わりですね。
個人的には「天蓋花」という呼び名が好きです。
蓮の花と同じで、どこか神々しさを感じるのです。


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【479】

 屋敷の庭は、紅葉が燃え上がるような紅で彩りを添えていた。
 その紅に紛れて、人の背丈の倍はあろうかという高さの枝に、青年が一人座り込み空を見上げていた。
 太い幹に背を預け、風に伸ばし放題の髪を遊ばせている。
 昔なじみの招きで訪問したものの、普段山で暮らしている身にはどうにも居心地が悪くて、雲隠れを決め込んでいるのだ。
 その首筋に、船の櫂がぴたりと当てられた。
「仙人とか呼ばれている割には、隙だらけだぜ?」
 声はまだ少年のものだった。
「舟の櫂とはね・・・武蔵かよ」
「俺が武蔵なら、あんたの首はもう胴体から離れてるだろ」
 その言い草に、仙人はくすりと笑うと右手を軽く上げた。
 次の瞬間、突き出されていた櫂ごと放り投げられた少年が、木の下に落下していた。
「気配の消し方と剣筋はまあまあだな。だが、優位であるからといって気を抜かないことだ」
 木の下から少年が真っ赤な顔でにらんでいる。
 だが、高さのわりに怪我一つしていないということは、身も軽いのだろう。
「俺を呼びつけた理由は、これか」
 少し離れた場所に現れた昔なじみに目をやる。
 悪戯を仕掛けるようなその笑顔に、仙人は苦笑して木から飛び降りた。
 猫のように威嚇する少年の髪をくしゃりとかきまわす。
「強くなりたいか?」
 仙人の問いに少年は目を見開き、そして無言で頷いた。
「わかった。お前を預かろう」

お題:「屋敷」、「櫂」、「仙人」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
そもそも仙人が剣術をやってもいいのか、という突っ込みはなしの方向で。
普段俗世を離れて山にこもっているのでそう呼ばれている、いわゆる通称のようなものと思っていただければ。

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【478】

経師屋が巻物を開くと、そこには雷雲と雨が描かれていた。
「見てろよ」
にやりと笑った経師屋の手元からその雲が湧き上がり、晴天に吸い込まれてゆく。
すると空はみるみる曇り、やがて雨を降らせ始めた。
友である妖狐の琥珀の瞳に驚きが浮かぶ。
「お前、ますます化け物じみてきたな」
「てめえが言うな」

お題: 「晴天」、「琥珀」、「経師屋」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578

久々に、140字に挑戦。
経師屋とは、巻物や掛け軸の表装、ふすまや障子の張替えをする仕事です。
必殺仕事人で、TOKIOの松岡君がやってましたね。
ちなみに題名は「らいうんふうかん」と読みます。適当です(^^;;;)。


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宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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