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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【516】

君の元気がどこかにいっちゃったけど、どこにいったのか猫の僕には見当もつかない。きっと出掛けてるときにどこかに落としてきたんだと思うんだ。君が心配で、僕は君にくっついてごろごろ喉をならしてみせた。ねえ、僕は何があっても君の味方だよ?だから一緒に探しにいこうよ。


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【515】

 水は嫌いだけど、海は案外嫌いじゃない。
 猫又の翡翠はそんなことを思いながら、浜辺をゆっくりと歩いていた。
 さくさくと足の下で崩れる細かい砂の感触や、低く体に響くけれども静かでゆっくりとしたなみの音や、きらきらと陽射しを反射して輝く水面は、何度訪れても飽きない。
 嵐のあとなどに来れば、珍しいものや思いがけないものが打ち揚げられているのを見つけたりもする。
 たとえば、読めない異国の言葉が書かれた木の箱の残骸とか、淡い桜色の貝殻とか、海の色をそのまま形にしたような色のすっかり角が取れて滑らかに丸くなった石の欠片とか。
「あれはなにかな」
 その日は、波打ち際にきらりと光るものが目をひいた。
 歩み寄ると、しっかりと封がされた硝子の瓶だった。
 透明なその中には小さな袋が入っている。
 翡翠は封を破り、瓶の口を開けてみた。
「・・・花の香り?」
 ふわり、と甘い香りがあたりに漂う。
 それは今までかいだどの花の香りにも似ていなかった。
「異国の匂い袋なんだね」
 何故瓶に封じてあったのかは、わからない。
 香りすら逃がさぬようにしたかったのだろうか。
 どんな人に渡したかったのだろう。
 その手作りに違いない匂い袋がたどった旅路に思いをはせながら、捨てて行くのは忍びなくて、翡翠はそれを懐へ入れた。
「届けるのは無理だしね。気に入ったから、大事にしてあげるよ」
 海の向こうの誰かに呟いて、翡翠は浜辺をあとにした。


お題:「浜辺」、「匂い袋」、「猫又」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
翡翠が拾ったのはポプリのサシェでしょうか。
ラベンダーとか、バラとか、江戸時代ならなじみがない香りじゃないかな、と思います。


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【514】

 主の仇を討つために、あやかしどもの月見の宴に潜り込んだ。
 「月の君」と呼ばれるあやかし。
 その命を奪えと渡されたのは、銘もない小柄(こづか)だけだった。
 それが何を意味するのかわからないほど愚かであれたなら、きっともっと楽だっただろう。
 汗に湿る手に小柄を握りしめ、私は仇を探す。
 その時、ふわりと微かだが甘い百合の香が体を包んだ。
「子犬が何をしている?」
 降ってきた声に驚いて顔を上げると、そこには着流し姿の男が立っていた。
 結わえもせずに背に流した長い髪。その一握りだけが月光で染めたような銀。
「月の君!?」
 思わず声をあげた。その口がいささか乱暴にふさがれる。
「子犬よ。人とばれれば酒の肴にされるぞえ」
「構わぬ」
 小柄を握りしめる。
「食われるのは覚悟の上」
 そう。所詮そのための捨てごまなのだ。
 主の死になにもせぬ訳にはいかぬが、あやかしは恐ろしい。
 そう考えた家来たちが主の仇を討つという体裁をとるために送り込んだのが、身寄りもない下働きだったのだ。
 恐ろしいあやかしに刃を向ければ生きては帰れまい。しかし、殺されれば、これ以上手を出すのは危険だと知らしめることができる。
 また、恐ろしいあやかしであっても、人の子一人食らえば、恐らく刃を向けられた不興も晴れるであろう、と。
「私はここで死なねばならぬ。悲しむものもいない軽い命だ」
「ほお?」
 月の君は面白そうに笑うと、あっさりと私の手から小柄を抜き取った。
「返せ!」
「切れ味は悪くないが、小柄程度では我は殺せぬ」
 風のように手がひるがえった。
 気づけば、その手には髪が一房乗っていた。
 私の髪が、肩の辺りで断たれていた。
「これに丁寧に文をつけて、おぬしをここへ寄越した者に送りつけてやろう。そうじゃな、多少血もつけておいた方がいいか?」
「何を考えている?」
「なに、食ってしまうよりも飼ってみたいと思ってな。その命、捨てるなら俺がもらおう」
 にやりと笑うあやかしに、私は毒気を抜かれて差し出されたその手をとってしまった。


お題: 「月見」、「小柄」、「百合」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578


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【512】

波に飲まれるように君の感情に飲まれる。もがいても泳げない。手を伸ばす余裕なんてない。流れに抗おうにも動けない。だから僕はもうあがくことをやめて、深く深く沈んでいこう。君の波は、僕をどこまでも引きずり込んで、やがて光の射さない場所まで連れて行くんだろう。

【513】

寝よう。寝ている間は、なにも考えなくていい。はりねずみみたいに自分を守りたい一心で他人を傷つけてる君のことも。その隙間をナイフでこっそりえぐっている僕の血まみれの手のことも。


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【511】

 三日月に、すすきがさやさやと揺れる宵。
 飴売りは古い陶器の入れ物を荷物の奥から大事そうに取り出す。
 虫の声しか聞こえない静かな場所で、ろうそくの火すらつけず、三日月の先から滴る月光をこぼさないように慎重にその入れ物に受ける。
 ゆっくりとたまっていく月光は、次第にとろりと濃密になり、やがて飴売りはにっこり笑うとふたを閉めた。
 紙で包み、布でくるみ、荷物の奥に入れ物をしまいこむのを見て、遠巻きにしていた狐や狸の子が駆け寄ってきて着物をひっぱった。
「月の飴!」
「飴!しまっちゃうの?」
「ちょうだい!」
 飴売りは苦笑した。
「これはもっと時間をかけないと、甘くならないんだ。ほら、代わりにこれをやろう」
 手妻のように指の間に小さな飴玉がぽんぽんと現れる。
 それを一個ずつ子供たちの口に放り込んでやると、飴売りは今日採った月光の飴が甘くなる頃にまた来ると約束して、その場を後にした。
 

お題:「三日月」、「着物」、「飴売り」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
飴売りも、三回目くらいの登場です。ちょっとさかのぼってないんですが。
いい加減、気に入ったものだけでも一覧を作るべきかもしれませんね。

昨日の狐さんが好評です。
ありがとうございます(^^)。
このあと、お嬢とどういう関係になるのかなー、なんて考えたりすると楽しいですね。


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宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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