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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【538】

 月夜の橋の上に、弁慶と牛若丸よろしく向かい合う影があった。
 一人は僧衣をまとった大柄な男。
 墨染めの衣に不似合いな長い棒を構えている。
 もう一人は旅装の少年。
 右手に持つは一本の扇のみ。
 だが、腰には刀を佩き、何処にも隙はない。
「もう一度言う」
 大柄な男が口を開いた。
「寺へ戻れ」
「ははっ」
 少年は優美に揚羽蝶の舞う扇を広げて顔を半分覆うと、あらわになっている目だけを細めて嗤った。
「誰が戻るか。僕はもうあそこへは戻らない。もう十五だ。自由に生きてもいい年だろう?それに、豆腐と野菜ばかりの精進料理はもう食べ飽きた。そのせいで、僕はいまだにこんなにひょろひょろじゃないか」
「なんだそりゃ。とんだ言いがかりだ。第一、お前にふらふらされると、周りが迷惑なんだよ」
「僕がなんとかいう偉い貴族の烙印だからかい?それとも、母がどこぞの霊験あらたかな巫女だから?どちらにせよ、僕を捨てたのは彼らなのだから、今更どうこう言われたくないね。ああ、寺には多額の世話料が入らなくなるね。だからかい?」
 目は笑っていても、その奥には冷たく青い炎が燃えているようだった。
「違うな」
 男はにやりと物騒な笑みを浮かべる。
 そして、そのまま持っていた自分の背丈ほどもある棒を片手で振り回した。
 低い音を立てて空を切った棒は、少年に背後から襲いかかろうとしていたあやかしを一撃で昏倒させる。
 目を見開いて硬直した少年に、男は言った。
「お前があやかしにとってうまそうな匂いをさせているからだ」
 振り返った少年は、飢えたあやかしが闇夜に目を光らせているのを見てとって、ため息をついた。
「・・・仕方ない」
「戻るな?」
「いや」
 少年はあやかしたちに言い放った。
「欲しければ襲ってくるがいい。ただし、殺される覚悟があるのならば、だ」
 あやかしたちに背を向ける。だが、襲ってくるものはいなかった。その背は、隙など微塵もなかった。
「おい!」
 男が慌てて少年の肩に手をかける。
「お前、本気で・・・」
「命が危うくても、他人を危険に晒しても、それでも、僕は自由に生きたい」
 その呟きに、男は言葉を飲み込んだ。
 つかんでいたはずの肩から、いつしか手は離れていた。
 少年は、そんな男に向かって微かに笑みを浮かべ、そして真っ直ぐに、前だけを向いて歩き出した。


お題:「寺」、「豆腐」、「揚羽」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578


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【537】

寒くて寒くて、一声にゃあと鳴いて君の布団に潜り込む。
寝ていた君は薄く目を開けると苦笑して、ポンポンと僕の背中を軽く叩いて、またすうっと寝てしまう。
でも手はそのまま僕の背中。
湯たんぽみたいだねって君はいつも言うけど、この手が僕には何よりあったかい湯たんぽだよ。



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【536】

 お屋敷は知らない人がたくさん居て、五歳で養子として入った私にはとても怖いところだった。
 たいていは刀を持った男の人か、しかめつらしい顔をして行儀をあれこれと注意する女の人で、二言目には「鄙(ひな)育ちは、これだから」と言われてさげすむような視線を遠慮なく浴びせるのだ。
 だから、半年と経たぬうちに、私は自室から出ることも難しくなっていた。
 そんな時、義父が連れてきたのが、師匠だった。
 最初、私はその大柄で無精ひげの侍がとても怖かった。
 だが、彼は私の前に一振りの小太刀を置くと、とても優しい顔で笑ったのだ。
「某はそなたの実の母君を存じ上げている。その昔、某が幼少の時にこの小太刀を下されて、励ましていただいた。それをお子であるそなたに渡す機会を得たのもなにかの縁だろう。強くありたいのであれば、某が稽古をつけて差し上げよう」
 小太刀は黒塗りに銀粉で淡く蔦の絵が施されており、その美しさに私は手にとってそれを抱きしめた。
 そして、師匠について小太刀を扱う修行を始めたのだ。
 母の形見の小太刀と、その技が、私に自信と勇気をくれた。
 そして、師匠は私にとってとても大切な失いがたい人となっていったのだった。


お題: 「屋敷」、「小太刀」、「師匠」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578



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【535】

「大丈夫だよ」
僕の言葉は軽く聞こえて、君の心に届かないかもしれない。
でも、何度も扉を叩けばきっと奥から君が顔を出すと思うんだ。
強がりで我慢強い君の、人には見せない泣き顔。
それに笑って手を差し伸べたいから僕は今日も扉を叩く。
「大丈夫だよ、いつでもここにいるから」


無責任な気持ちじゃなく、「ここにいいるよ」と伝えたい時、ありませんか?

いただいたイメージボイス、イケメンすぎて作者が照れますwww
引き続き募集中です(^^)

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【534】

 和歌を詠むなどという風流さは持ち合わせておらぬ。
 武家に生まれても位が高ければそのような雅も学んだであろうが、剣の腕を磨き、殺される前に一人でも多くの敵を殺すことでしか主家の役に立てず、出世したところでせいぜい戦場(いくさば)を駆ける者たちの頭がせいぜい。
 ある程度の学問は幼少の頃に修めたが、それも刀を振り回す日々に擦り切れて散り散りになってしまった。
 いや、それを後悔したことは、なかったのだ。
 いままでは。
 だが、今、傍らで微笑みを浮かべるその人に差し出すものを自分は何一つ、本当に何一つ持っていないのだと、刀を握ってきた無骨な自分の手を見下ろして思い知る。
 その微笑みに似合う歌も、その美しさを形容する言葉も、何も思い浮かばない。
 だから、秋風にそよぐ桔梗を手折り、懐紙にはさんで差し出した。
 ただ、その薄い紫がその人に似合うような気がして。
 だが、受け取ったその人は、少し目を見開き、頬をかすかに染めた。
 そして、嬉しげに笑みを浮かべてこう言った。
 桔梗の花言葉は【変わらぬ愛】というのですよ、と。
 

お題:「和歌」、「懐紙」、「武家」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
・・・甘い(^^;)。

瑠璃丸のもふもふに拍手ありがとうございます(^^)。
声が再生されたと言っていただいて、すごく嬉しいです。
文章を書く上で気をつけているのが、【できるだけほのぼのするものを書くこと】と【声が聞こえてくるような文章を書くこと】なので。
井上和彦さんの声で再生されたと言っていただけて光栄すぎると同時に面白いなあと思いました。
人それぞれ、再生される声が違うのだとしたら、読んでくださる方が持っているイメージを知りたいです。
もちろん、書いている上で頭の中で再生される声はあるのですが、読んだ時点で文章は読んだ方のものだと思っているので。
琥珀はどうだろう。翡翠は?
教えていただけると、とてもうれしいです♪

あ、切ない系が多いのですが、だからこその目標なんです。がんばらなきゃwww←ほのぼの路線


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HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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