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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【556】

 経師屋の仕事と言うと、ふすま・障子の張替えや掛軸の表装、和本の装丁なんかが仕事だが、これはさすがに専門外だろう、と俺は途方に暮れていた。
 花街随一の妓楼「宵月楼」の主人は、おもねるでもなく脅すでもなく、ほんの茶飲み話のように微笑んで上質な紙を俺の前に置く。
「護符と言ったって、神仏の加護をほしいわけじゃございません」
 湯飲みを両手で持ち、一口茶を含んで、また口を開く。
「欲しいのは、よこしまなものを近寄らせない絵です。例えば、鼠には猫、蛇には鷲、天敵となるものを魂を込めて描いていただきたいのです」
 穏やかに言いながらも、その目は鋭くこちらを探っている。
 これは、噂を聞いたんだなと俺は思い至ってため息をついた。
 絵を描くことで紙にものを封じ込める技を身につけたことは、誰にも言っていないつもりだったが。
 友である妖狐のしかめ面が脳裏に浮かんで、逆に俺の頭は冷えた。
 なるようになれ、だ。
「で、何を描けばよろしいんで」
 平静を装い訪ねると、主人はにやりと人の悪い笑みを浮かべた。
「悪しき心を持つ鬼には、天女を」
 ああ、そうかい。
 まったく食えない野郎だ。
 思うに俺の噂を半分も信じてはいないのだろう。試してものになればよし、ならなくてもそれなりの美人画を、しかも自分の妓楼の花魁を使って描かせれば、版元に売るつてはいくらでもあるだろう。どちらに転んでも出しただけの画料のもとはとるつもりなのだ。
 こちらも馬鹿正直に力を使うわけにはいかないが、小手先で誤魔化せる相手でもない。
 裏の人間にも繋がっているから、下手をうてば命が危うい。
 さて、どうするか。
 黙った俺に、主人は鷹揚に頷いて見せた。
「即答でなくともよろしいですよ。花魁の顔見せもかねて、三日後に使いをやりましょう」
 逃げるなら、それまでに。
 そう言われているようで、俺は逆に笑みをうかべた。
「お待ちしております」
 受けてたってやる、くそじじい。
 狐にこっぴどく叱られそうだなと思い至った時には、後の祭りだった。


お題: 「花街」、「護符」、「経師屋」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
おかしい。
時代物も書かなきゃ、と思って始めたのに、刀も侍も出てこない・・・w
一応、江戸の話っぽいかんじということでご容赦ください。
出てくる妖狐は琥珀さんです。


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冷たく澄んだ空気の夜に HOME ついのべデー追加、2編

HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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