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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【477】 月見酒

「美しい月夜ですね」
 微かな衣擦れの音とともに背後に座った花魁は、俺が見上げていた月を見てそう呟いた。
「桔梗か」
 俺は持っていた杯を膳に戻して振り返る。
 少しひんやりとした空気に月は冴え冴えと輝き、灯りを落とした部屋の中でも白粉を落とした彼女の顔を美しく照らしていた。
「お一人で月見酒ですか?」
 酌もしない。酒も飲ませない。化粧と廓言葉で飾らない。
 俺と会うときだけの、それが内緒の約束だった。
「無粋ですまないな。どうしてもお前とこの月が見たくてな」
 そういうと、桔梗はにっこり笑った。
「私も、そう思っていました」
 そして、あとはただ黙って、遠い喧騒に混じって聞こえる虫の音に耳を傾けた。
 
お題: 「月夜」、「白粉」、「花魁」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578


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【476】

 あやかし退治は、まあ、「見える」者にとっては比較的似合いの商売なのではないかと、常々左京は思っていた。
 何ゆえかわからぬが、「見える」せいであやかしは必要以上にこちらに関わりを持とうとする。
 それは、姿を見られたことへの怒りであったり、構われたい為のちょっかいであったり、見えるために過剰な反応をする己への悪戯心であったりするのだが、見えぬ人間よりもよほどあやかしがらみの厄介は増えるものなのだ。
 それゆえ、身を守る為には往々にして封じたり、祓ったり、最悪の場合は斬ったりせねばならない。
 要は、人のためと称してすることでそれを行うことで生計とできるのであれば、無駄がない。
 一石二鳥である。
 そして、都合のいいことに、左京は侍として剣の腕を磨く環境に恵まれた。
 もっとも今は浪人であり、それゆえにこのような商売をせねばならないのだが。
 今日も、先祖伝来の刀を持ち、依頼である山に分け入っていた。
 夜も更け、星空は真珠をちりばめたように美しい。
 何故か山は静かで、人に害をなすあやかしがいるときの胸騒ぎはまるで感じられない。
 こんな時は、あやかしがいないか、もしくは害をなすものではない可能性が高いと、経験が教えてくれる。
 しかし、依頼は退治であるし、前金ももらっている。
 依頼人の納得を得ねば、今後の商売に差し支える。
「さて、どうしたものか」
 左京の声は、台詞のわりにはのどかに夜気に溶けた。

お題: 「星空」、「真珠」、「侍」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578


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【475】

 飴売りがこっそり額に紅を付けてくれる。
「飴を買ってくれたお礼に、おまじないをしてあげましょう」
「おまじない?」
「三日だけ悪いものは近づきませんよ。髪で隠しておおきなさい」
 すべてを見透かした顔で笑う。
 あと二日、新月の夜に贄にされるということは、村の長老しか知らないはずなのに。
 だからこそ、この世に名残のないようにちょっとだけおあしを渡されて飴を買えたのに。
「ご武運を」
 優しく笑って、飴売りは去っていく。
 思いもかけず与えられた幸運に、私は思わず頭を下げた。

お題: 「まじない」、「紅」、「飴売り」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578


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【474】

あれはなに?
これはなに?
あやかしと成った根付兎は、忙しい。
色々なものが珍しくて仕方ない。
動ける体、匂い、音、味、五感のすべてが不思議をつれてくる。
だが、昼間はいまだに根付の姿で、ひょこひょこと動いては、しょっちゅう文机から転がり落ちそうになったり、あぶないものに近づきすぎたり。
でもその度に、大きな暖かい手がふわりと掬い上げてくれる。
それが一番不思議だと手の主を見上げれば、犬神は静かな碧の瞳を少しだけほころばせて見下ろしてくれた。
「お前は本当に元気だな」
柔らかな声は、耳に少しだけこそばゆい。
体がほわりと温かくなる。
どうしてだろう。
これはなに?
根付兎はその手の中で、一番の不思議を体中で感じてみる。
そして、浮かんだ言葉を、そっと胸にしまいこんだ。
夜になったら、人の形になったら、ちゃんと言葉で伝えられるように。

「だいすき」


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多忙につき、Twitterで遊んでいられなくなったので(^^;)、ついのべじゃなくなります。
ただ、短いものを息抜きに書いてはいきたいので、載せる時には『掌編未満』(掌編よりも短い文章)としてカテゴリーし、ナンバーもひき続けていこうと思っています。

【473】


火消しの勇が長屋に飛び込んできたのは、妙にうららかな秋の日のことだった。
のんびりした空気を切り裂くように、浪人の部屋の戸を勢いよく開ける。
「浪人さん!あんた、介錯役を引き受けたってぇのは本当か!」
近所の子供が置いていったおもちゃの弓をいじっていた浪人は、顔を上げると苦笑した。
「情報が早いな、勇」
「あんたの師匠なんだろう!どうして!」
「・・・だからだよ」
今日のうららかな陽射しのような笑顔のままで、しかし、声の端に少しだけ苦いものが混じっているのを悟って、勇は言葉を失った。


お題: 「介錯」、「弓」、「火消し」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578


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HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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